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【冒頭無料公開】『流生 第二号 (食特集 いただきますを探しに)』を刊行します

2024年12月21日、流生 第二号を刊行します。
以下の食特集のご挨拶として書いた「はじめに」をお読みいただき、第二号が何と向き合う本なのか知っていただければ幸いです。

はじめに

 心の底から「いただきます」を言えているか。
 七月、阿仁マタギである岡本健太郎さんと渓流釣りをした。その渓流には山の緑が満ちていて、陽光が降り注いでいた。餌のミミズに釣り針を通す感触。ミミズは身をよじって針を避け生きようとしていた。岩の影に釣り糸を投じる。イワナを探す。イワナの気持ちになって。そうして何箇所も試し、上流に進んでいく。ぐっぐっと竿が引かれた。イワナが針にかかったようだ。釣り上げる。イワナは必死にもがき、川に帰ろうとした。生きようとしていた。俺はそんな生命をいただく。

 そのイワナを焚き火で焼いて食べたとき、心の底からいただきますを言えた気がした。 イワナが棲む渓流や山の美しさや、そこで生きることの厳しさや逞しさを身を持って感じたからだ。そして、それらを大事にしたい気持ちが自然と芽生えた。 心の底から「いただきます」を言えるということは、眼前の食べものとそれを取り巻く生態系に敬意を払っているということだ。生態系というのは、その食材が育ってきた環境、捕まえた人、そして料理などに関わる人や環境や文化のことである。生態系を認識できているということは、自分が生きるために何が必要か分かっているということだ。自分の生に必要なものを知らないと、知らず知らずのうちに自分の生存を脅かしてしまうかもしれない。ソーラーパネルなどの大規模開発は例として分かりやすいだろう。しかし、実際は、すべてのことは自分の生態系になんらか関係している。我々は、自分が何を頼りに生きているのか分からない時代を生きている。育まれた命がどのようにして食卓に運ばれてくるのかが見えづらく、あらゆることが他人事のように思えてしまう時代だからこそ、自分の生態系を認識し、自分事と思える世界を広げる必要がある。みんながそれぞれの生態系を大事にして、その結果、それぞれの生が大事にされる世界になってほしい。
 これから歩いていただくのは、「いただきます」を探す旅路。それは、あなたが何に依って生きられているのか、自ら問う旅路。 動くために食べ、食べるために動く我々にとって、大事にしなければならないのは何なのか。

目次

・はじめに(納谷翼 @tasukunaya
・子どもの頃の空腹感を思い出す(永田悠人)
・ドングリの食文化をなぞる~岩手の郷土食 しだみ~(佐藤快威)
・イスラームと食~タリバン統治下アフガニスタンにおいて~(百瀬蓮 @ren_Nevermind
・その土地の味 感覚と知覚の哲学(清水雅也 @miyabi_00008
・はくどう 第二話(納谷翼)
・阿仁での生活(納谷翼)
・阿仁で訪れてほしい場所(納谷翼)
・逐熊(岡本健太郎)
・気流舎の閉店に寄せて(納谷翼)

2024年12月21日、気流舎にて刊行記念イベント開催

下北沢にある対抗文化専門のブックカフェ、気流舎で12月21日19時30分から、流生 第二号刊行記念イベントを行います。
気流舎は今年で閉店してしまうことが決まっています。
流生舎にとって、はじまりの場所である気流舎で同人誌を刊行できることをとても嬉しく思います。
皆様、是非、風味豊かなチャイでも飲みながら、食やマタギについてお話ししましょう!


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