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研究テーマ①「酵母」選定理由と今後について

こんにちは。
龍勢Lab. 所長の藤井義大です。

前回の記事から時間が空いてしまいましたが、現在行っている研究活動に関して少しお話させていただこうと思います。

改めまして、龍勢 Lab.は、「日本酒で楽しいことをしよう!」を合言葉に、今までの枠にとらわれず探究心と遊び心を持って研究・試験醸造するプロジェクトです。

昨年から重点テーマとして「酵母」を研究しています。

なぜ「酵母」なの?

日本酒を構成する原材料は大きく分けて、直接原料と間接材料に分けられます。

直接原料としては、「米」「米麹」「水」。間接原料として「麹菌」と「酵母」。(細かく言えば亜硝酸還元菌や乳酸菌などの微生物、副原料として使用される乳酸や醸造用乳酸菌、酵素剤、澱引き剤などもありますが今回は割愛します)

もちろんすべての原材料が味わいを左右する重要な要素であることは間違いないのですが、個人的な見解として「酵母」による影響が、日本酒の香味を決める上でもっとも大きいのではないかと考えています。

7号酵母のアンプル

酵母とは、「単細胞の菌類の一群で、繁殖力と発酵力が強く、糖分を分解してアルコールと二酸化炭素とにする力がある。」(Oxford)と定義されています。

世の中には数多の酵母が存在しますが、日本酒醸造の上で重要とされるのは以下の2つです。
1.強い発酵力と高いアルコール耐性を持っていること
2.嗜好に向いた香味成分を出すこと

1.に関しては、そもそも持っていないと酒が腐ります。

戦前までは「生酛」と「蔵付き酵母」が主流であったため、腐造は身近な存在だったそうです。酒蔵にとって腐造=死なので、腐造を抑えることができる協会酵母の普及は画期的なものだったに違いありません。

2.の嗜好に向いた香味成分が、現代酒造りにおいて重要です。

研究当初は高いアルコール収得量と発酵力の強さを求めて開発されていた協会酵母も、時代の流れに沿って嗜好に合わせた香味成分が重視され始めました。現在では最終的な酒質設計をもとに、取得したい香りや味を配布されている酵母から選択することが可能です。りんごのような香味を出す「協会9号」や青りんごのような香味を出す「協会1801号」などは有名です。

そんな優秀な酵母があるのに、なんで酵母の研究をするの?

と、もしかしたら思われるかもしれません。
が、協会酵母の普及による弊害として、本当の意味での蔵付き酵母がいなくなってしまったのではないかと考えるようになりました。

(協会酵母の普及は間違いなく業界に多大なる貢献をしたということは大前提だし、協会酵母を批判する気はありませんので悪しからず。)

可能な限り土地の風土を活かしたい藤井酒造としては、味わいに多大な影響を与える酵母が風土由来であるに越したことはないため、蔵付き酵母の研究を最初の研究テーマとして選びました。

「蔵付き酵母」とは?

蔵付き酵母とは、書いて名の通り蔵に住み着いた酵母のことです。
ただ、明確な定義はないので協会酵母の変異体も蔵付き酵母と呼ばれたりします。
自社酵母と呼ばれる酵母も、全てではないと思いますが協会酵母の遺伝子を受け継いでたりします。
そして、それらも蔵付き酵母と言われることもあります。
(あまり赤裸々に語ると怒られるかもしれませんが・・・)

この定義の曖昧さが個人的には気持ち悪い。。。
はっきりと自信を持って「蔵付き酵母のお酒です!」って言いたいのです。

藤井酒造を例に出すと、「酵母無添加」を謳ったお酒の場合、酵母はもちろん添加していません。ここまでは自信を持って言えます。
ただ、分析してみると協会酵母の遺伝子を受け継いだ変異体がほぼ100%。
全く同じものではないため、短期間で変異した蔵付き酵母とも言えますが、古来より蔵に住み着いているであろう酵母はいませんでした。

これは、同じ敷地内で酵母添加した酒母があることが主な要因だと思います。協会酵母がいかに強くて優秀だということの証明ですね。

しかし、これでは私が求める蔵付き酵母のお酒。
すなわち「酵母無添加の酒=蔵に住み続けている酵母の酒」ということには残念ながらなりません。

仮にこれを蔵付き酵母の定義としたとすれば、現在市販されているお酒の中に、蔵付き酵母で醸したお酒はほとんど存在しません。
もし、蔵付き酵母の中に、昔は評価されなかったけど今なら面白い酵母がいたらと考えるとどうでしょう?
しかもそれが自分の蔵にしか住んでいなかったとしたら?
ワクワクしませんか?

妄想癖のある私は想像するだけでよだれが出ます(笑)

なぜなら、もし妄想が実現して藤井酒造にしか存在しない酵母が見つかった場合、完全オリジナルなお酒を造ることもできるし、蔵の財産として後世に引き継ぐこともできるのです!

以上の理由から酵母を最初の研究テーマに掲げました。

妄想や夢の話をすると、止まらないので機会があればお話するとして、現在行っている(行った)2つの研究内容をご紹介したいと思います。

1-1. 生酛酒母から発見された自社酵母の醸造試験

2021醸造年度、蔵付き酵母の存在有無を確認するために仕込みの1号を初めて生酛で行いました。もちろん保険として協会酵母をすぐ添加できる準備をしての実験です。

協会酵母は子孫を残せないため酒造期を過ぎると増殖することはなく、藤井酒造のように冬季のみの酒造りを行う蔵からはいなくなります。
よって、協会酵母を使用していない段階で酵母無添加酒母を立てると、蔵付き酵母が採取できるという仮説を立てたたわけです。

正直、かなりリスクの高い実験でしたが、幸いなことに発酵が確認できたことと、子孫を残す機能を保有した酵母も含め多種多様なサンプルを入手することに成功しました。

現在、広島県の研究機関に協力していただきながら400gの超小仕込での醸造試験を行っています。
採取された酵母の特徴や、小仕込試験の結果などはまたご報告させていただきますのでお楽しみに。

醸造試験の様子

1-2. 廃業した蔵から採取した「広島6号酵母」を使った試験醸造

広島6号酵母とは、2005年に廃業した広島の蔵「喜久牡丹」から大正時代に分離された酵母です。

当時、広島から優秀な酵母を分離しようといくつかの蔵から酵母を採取し、培養された6番目のサンプルということから名前がつけられたようです。
老香にくい性質を持っていることが最近注目されている酵母で、県内の研究所にて新たな酵母の開発のため研究が進められていたりいなかったり。

なぜこの酵母に興味を持ったかというと、当時販売までされていた失われた酵母の味わいに興味があった。
そして、一番は子孫を残す遺伝子が残っている酵母だということです。

地理的にも近い場所で採取された酵母だったので、良い蔵付き酵母が発見できず、蔵付き酵母を断念せざるを得なくなった場合の代替策としてこの酵母を蔵で育むのも面白いなと考え、今回試験醸造を行いました。

酒母タンクでの小仕込み試験醸造

お恥ずかしながら酵母の特性をつかむ以前に、小仕込の体制が整っていなかったため成功したとは言い難いのですが、詳しくは次回ご報告させていただきます。

長文にわたり酵母について書かせていただきました。
最後までお付き合いいただきましてありがとうございました。


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