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【調査記録】2024年秋・ヨーロッパ③:ロンドンのムスリム地域で文献収集📚
2024年10月29日〜11月9日にかけて、イギリスとドイツで文献調査を行いました。自分にとって初のヨーロッパ渡航、そしておよそ5年ぶりとなる本格的な文献調査でした。個人的にはかなり充実した調査を行うことができ、現地で興味深い体験もしたので、その時の記録を残したいと思います。第三弾となる今回は、「ロンドンのムスリム地域で文献収集📚」編です。Southallでは一冊も本を買えなかったので、ここで挽回したいところです。
ムスリム集住地域のロンドン東部
前回の記事で、インド系移民のほとんどがロンドン(北)西部に居住しており、その中心がSouthallであると紹介しました。Southallにはムスリムも確かにいるのですが、ロンドンでムスリムが最も多く住んでいるエリアは、むしろ同都市の東部、特にNewhamやRedbridge、Waltham Forerstといった所になります。一体どのような経緯でムスリムがそこに集まったのかは、きちんと調べてないので分かりませんが、実際に訪れてみると道ゆく人のほとんどがムスリムで、通りに並んでるお店も明らかにムスリム経営のものが多かったです。インド人街のSouthallとはまた別の大きなコミュニティを形成していることが分かります。
試しにGoogleマップでロンドンに行き、"Islam"と検索した結果が下の写真になります。ロンドンの地理に疎いので正確性は保証できないですが、青マーカーで囲ったエリアが大体ロンドン東部に当たるのではないでしょうか。そのエリアにイスラーム教育機関やモスクといった、イスラーム関連の施設が集中しているのが分かります。ロンドン(北)西部にインド系コミュニティ、東部にはムスリム・コミュニティ。大都市ロンドンの民族的・宗教的な多様性が表れています。滞在中は「自分がロンドンにいる」という実感があまり湧きませんでした。
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ロンドン東部のターミナル駅 Stratfordへ
ロンドン最終日の11月4日、とあるイスラーム教育機関を訪問するため、ロンドン東部のターミナル駅 Stratfordに向かいました。相当大きな駅で、電車(overground)や地下鉄(underground)、バスなどあらゆる方法でアクセス可能です。東京で言うところの立川みたいな、郊外の中の都会といったイメージでしょうか。ちなみにStratfordは海外サッカー好きならよく聞く名前ですよね。プレミアリーグの名門ウェストハム・ユナイテッドの本拠地ロンドン・スタジアムがある街です。私もStratfordと言えばまずサッカーのイメージでしたが、一方ではムスリム集住地域でもあるんですね。街の印象がだいぶ変わりました。
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ロンドン・スタジアムもほぼ駅直結です
午後からのイスラーム教育機関の訪問前に、ロンドン在住の日本人研究者の方と会う約束をしていました。Stratford駅直結の巨大ショッピングセンターで待合せの予定でしたが、早めに到着して中を散策しました。旅の醍醐味と言えば、それぞれの国・地域のスーパーを覗くことですよね。特に生鮮食品とか、見たことないものに多く出会えるので楽しいです。このショッピングセンターにはWaitroseというスーパーが入ってました。イギリス産の新鮮な食材や自社ブランドにこだわっていて、おそらく日本で言うところのLIFE的な立ち位置のスーパーです。
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巨大マッシュルーム3つで1.5ポンド(約300円)
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他にも、日本だと業務スーパーの冷凍物しか見たことない芽キャベツが生で売られてました。スーパーを物色してたら待合せの時間が近づいてきたので、待合せ場所に指定されたJapan Centreという日本食材店に向かいました。日本から輸入された食品があまりにも高値で売られているので、ロンドン在住の日本人は中々手が出せない、というかアホらしくて買わないとのことです。主なお客さんはイギリス人みたいで、スタッフに日本人はいなかったように思います。
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お菓子・即席麺・調味料など、品揃えは良いです
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唐揚げ串4ポンド(約780円)とチキンカツ串4.95ポンド(約970円)
ロンドンのムスリム・コミュニティへ
日本人研究者の方との面会を終え、次の用務先であるイスラーム教育機関に向かいます。訪問先は、Stratford駅の南側にあるWhitethread Instituteという所です。なぜこの機関を訪問することになったのかというと、渡航前にTwitterで「ロンドンのムスリム・コミュニティについて知るには何処へ行ったらいいか」と情報を募ったところ、あるイギリス在住ムスリムの方から「Whitethread Instituteに行くといい」と教えられたからです。そこから同機関の設立者であるAbdur Rahman Mangera博士に直接連絡してアポを取り、今回の訪問が実現したというわけです。
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このWhitethred Instituteは、オンライン教育を中心としたイスラーム学者の養成機関で、特に法学(ハナフィー派とシャーフィイー派)の習得に力を入れていて、スーフィズムの講座も時々やっています。また、特に明言しているわけではないですが、教育内容や使用テクストを見る限り、明らかに南アジアのデーオバンド派系の学習を重視しています。創設者のMangera氏はイギリス生まれのムスリム学者で、イスラーム学研究の学位をロンドン大学のSOASで取得するなど、西洋教育に深く通じています。しかし一方で、ロンドンやインドのデーオバンド派系マドラサでイスラーム諸学の訓練を受けた、正真正銘のデーオバンディーでもあります。イスラームと西洋の知的伝統の調和・統合を体現したような人物と言えそうですが、教育方針の根底にはデーオバンド派の流れがあるように見えます。いずれにせよ、デーオバンド派は私の研究対象ど真ん中なので、結果的にここを訪問して大正解でした。
Whitethread Instituteの扉を開けると、Mangera氏がオンライン講義をしている最中だったので、同機関の学生あるいはスタッフと思われる方が、お茶とお菓子を振る舞ってくれました。突然の日本人の訪問にもかかわらず、温かく迎え入れていただき心が和みました。イギリス人も割と皆んな親切でしたが、ムスリムの客人歓待(メヘマーン・ナワーズィー)の精神はやはり素晴らしいですね。おもてなしを受ける度に感心します。
Mangera氏からは、Whitethread Instituteの教育内容や、イギリスにおける南アジアのムスリム・コミュニティについて、興味深い話を沢山聞くことができました。下の写真がその時の様子になります。本当はカメラ目線でしっかりと撮ってもらいたかったのですが、Mangera氏は「ポーズをとるのが苦手」であるとのことだったので、我々が話している最中のシーンを撮ってもらう形になりました。
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体格のしっかりした方で、身長も185cmはありそう
実は私がイギリスに来る数日前、Mangera氏は日本を訪れていたらしく、その後もインドでの講演やロンドンでの通常業務など、かなり多忙だったにも拘らず、貴重な時間を割いていただき大変ありがたかったです。「私の本のレビューを書いてくれ」とMangera氏に頼まれたので、恩返しができるように頑張ります。
Whitethread Instituteを出た後は、Stratfordよりさらに東にあるAzhar Academy Ltd.というイスラーム系書店にバスで向かいました。駅で言うと、Elizabeth lineのManor Park駅とIlford駅の中間あたりに位置しています。この書店の情報は先述のMangera氏のご教示によるもので、私が欲しているであろう資料が大量にあるとのことでした。
最寄りのバス停を降りて、住宅街を進んだ先にAzhar Acaemy Ltd.はありました。書店というより倉庫みたいな外観で、一応カスタマー用のエントランスはあったのですが、結構入りづらかったです。
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私のような一般客でも購入可能
建物の中も書店ではなく、倉庫そのものです。卸業者的な立ち位置で、ここから各書店に本が搬入されるのでしょうか。ただ、Mangera氏の言葉通り、品揃えはかなり充実してました。ジャンルとしてはクルアーン解釈学、クルアーン読誦学、ハディース学、法学といった主要なイスラーム諸学に関するアラビア語の本が多く、他にも南アジアのムスリム学者によるウルドゥー語著作や彼らに関する伝記、そしてロンドン在住ムスリムに向けたアラビア語・ウルドゥー語著作の英訳などもありました。ベンガル語著作コーナーもありましたが、読めないのでどういう本かは分からなかったです。書店スタッフは南アジア系とおそらくアラブ系、お客さんはほぼ全員ムスリムでした。
今回は南アジアの(特にデーオバンド派の)学者たちの著作が、英語圏でどれだけ読まれてるのかを知りたかったので、カラチのデーオバンド系マドラサの総長であるムハンマド・タキー・ウスマーニーの著作の英訳など計4点を購入しました。
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左上がウスマーニー著『デーオバンド学院の偉大なる学者たち』(2013年刊行)
なお右下は、16世紀エジプトの学者シャアラーニー著『交際の諸規定』(2024年刊行)
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とにかく品揃えが素晴らしいので、かなり長時間滞在してしまいました。私のような南アジア研究者でなくとも、イスラーム思想研究者であれば、必ず何かしら良い文献を発見できると思いますので、ロンドンに来た際は訪問を強くお勧めします。
Azhar Academy Ltd.から駅に向かう途中ですれ違うムスリムの多さ、そしてムスリム経営の店舗やモスクが並ぶ街の風景は、ロンドン東部が最大のムスリム集住地域であることを実感させてくれます。
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帰り道で見つけた適当なムスリム飯店で夕食を取ることにし、ラム肉のビリヤニ(7ポンド/約1,350円)をオーダーしました。ビリヤニは本来炊き込みご飯なのですが、このお店のビリヤニはパラパラ感強めで、どちらかというと炒飯に近かったです。でもこれはこれで美味しいし、何より安いのがありがたかったです。郊外であるという点に加え、このようにムスリムが移民向けにやってるお店では、リーズナブルな価格で食事ができるのかもしれません。また店内ではウルドゥー語の放送が流れていたので、オーナーは多分パキスタン系です。
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最後に
前日にインド人街を訪問した時と同様、この日のフィールドワークでも、宗教・民族ごとにコミュニティを形成し、コミュニティ内で自分たちの文化や信仰を保持しながら生活している現場に足を運ぶことで、多元主義国家イギリスの一端を垣間見ることができました。
今回訪れたStratfordやIlfordといった諸都市は、ロンドンのエリア区分で言うところのゾーン2-4(中心部がゾーン1)に属している郊外地域なので、街の雰囲気も穏やかで快適でした。ロンドン最終日に良い時間を過ごすことができました。
ロンドン滞在記は以上になります。今回の調査で得たものを具体的な研究成果に還元できるよう、精進していきたいと思います。
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