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思い出巡礼の旅

今日は父がデイサービスをお休みしたい、と言う。

「えー、そうなんだぁ」と急遽キャンセルすることに。

さては、「やりたいことがあるの!?」と聞いてみると

昔よく会っていた友だち、
じゅんちゃんの家に挨拶をしに行きたい、と。

母が旅立ってからすぐの頃は
ずっと家に閉じこもっていた父も
最近は割と活動的になってきた。

何も予定が入っていない日は、
2人の暗黙の了解で、
やってみたいことをこの際やっていこう!という日にしていて

どこかで父も私も、
人生の最終ターミナルの過ごし方を模索してるように感じる。

父のやりたいこと、
大抵それは「思い出の旅」

母との2人の思い出を辿るときや
父の思い出を辿るときとあって、

今日は父の思い出を辿ることとなった。

デイサービスのキャンセルの電話をすると
すぐに立ち上がってじゅんちゃんの所に出かける準備をはじめる。

じゅんちゃんは父より2才年上の86歳。
私ももう30年近くご無沙汰してしまってる。

「一本電話入れていったほうがいいよー」と
父に声がけしたけれども

「大丈夫っ、昼時は家にいるだろうから
とにかくいってみよう!」と。

おじいちゃん世代にあるあるの
アポなし突撃訪問スタイル。

近所のスーパーで、お土産をみつくろって
車で向かう。

そういえば、
小学生の頃の自由研究で
父と2人地元の神社仏閣を写真を撮りながら巡って、
模造紙いっぱい大きな地図を作ったな。

すっかり忘れていた記憶が
ふと思い出された。

あの時の私は
もちろん助手席に座っていて。

今は、父が助手席に。

時の流れを感じながら
父の案内で車を走らせる。

着いたのは山の近くに佇む一軒家。
早速玄関の呼び鈴を鳴らしてみる。

ピンポーン!

誰かいるかな!?
鳥がさえずる静かななか
2人で耳を澄ます。

すると、しばらくたってから

「はーい」と
インターホン越しに奥さまの声が聞こえた。

「よかったぁ、お家にいらっしゃったね。」
父と顔を見合わせる。

ガラガラガラッ、
玄関を開けると

奥から顔をのぞかせるじゅんちゃん。

屈託のない笑顔で手招きしてる。

「久しぶりだなー、お茶でも飲んでいって」

畳の部屋に通され
用意された座椅子に座る。

早速、父がしゃべり出す。

「じゅんちゃん。懐かしいなぁ。元気だったか?

うちは家内が亡くなってな。
それで今交代で子どもたちがきてくれてる、、」

うんうんと、身をのりだして耳を傾けてくれるじゅんちゃん。
旧友らしい2人の親しげな会話。

私は横に座りながら、
「へぇー、そうなんですね〜。」を繰り返す。

すると横から奥様が、

「ご飯食べた!?
よかったらおでんあるから食べてって」と。

アツアツの味が染み込んだ静岡おでんを
目の前に出してくれた。

普段の東京生活では全く接点のない世界線が
今目の前にある。とても不思議な感覚。

おでんをありがたく頂戴し、
残りはタッパにつめてくれた。

ひとしきり話をした後
お礼を伝えて帰ろうとすると、

裏の畑にあるみかんの木をみせてくれることに。

裏庭にでると
目の前にひろがるみかん畑と茶畑。
 

縁側には
収穫したての大根や里芋、生姜。

畑を眺めているとじゅんちゃんが
植え替えたばかりの小さなみかんの木をみせてくれ、
その場でその枝をポキっと切って手渡してくれた。

「葉付きのみかんは珍しいからコレ飾ってな!」と。

奥様も
手にいっぱいの新鮮な野菜を持たせてくれた。

いつのまにか、
私は小学生の頃の自分に還っている気がした。
無防備に甘えている自分。

母がいなくなってから
「子ども」という立場を忘れていたことに気づく。

ある意味、父より大人になって、父を支えないといけない、と無意識に思っていたのかもしれない。

今日もここまで
車を運転して父を連れてきたつもりでいたけれど

もしかしたら、

今も私は助手席で
父が連れてきてくれたのかな。

じゅんちゃんは別れ際、私に目線を送りこう伝えてくれた。

「お父さんのことよろしくな!」

早速、その晩
新鮮な大根の葉っぱを炒めてみる。

少し苦味もありながらシャキシャキとした大根の葉、いただいたタッパーのおでんをチンして2人で食べた。

父は歳を取り、
できることが少なくなってきたかもしれないけれど、
こうして今日も私を懐かしくも新しい世界へと連れて行ってくれた。

父と2人の思い出巡礼の旅。
これからどこに行くのだろう。

車のハンドルを握るのは私だけれども
行き先は、父が知っている。

ただ、それに着いていけばいいんだね。

私は子どもでいいんだ、
父は父なんだ、ずっとこれからも。

あたたかな時間に触れて
かたくなっていた私の何かがとけていくのを感じた。

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