「昭和財政史」より、高度経済成長期が終わり安定成長期に入った、「昭和49年~54年の税制」の冒頭文を書き起こし
昭和49年~60年の日本は、戦後の高度経済成長期が終わり安定成長期に入り、再分配強化の福祉充実路線に向かうはずだったが、大平内閣における「一般消費税構想」の失敗から、「増税なき財政再建」路線に突き進んでいくことになる
以下、昭和財政史より「昭和49~54年度」の税制の冒頭文を書き起こし
第2章 昭和49~54年度の税制
-高度成長の終焉と税制再構築-
第1節 概観:歳入不足問題から一般消費税導入の失敗まで
本書が対象とする昭和49年から63年までの日本の財政運営について一言で表現すれば,「苦渋に満ちたもの」であった
昭和48年頃をピークとして,日本の高度経済成長期は終わりを告げる.昭和48年10月のアラブ諸国の石油供給削減(第1次石油危機)が,そのきっかけであった.
しかし,その後の推移を観察するならば,基本的には戦後の急速な経済復興が一段落し,安定成長に入った時代だったのだと考えられる.
そのような時代認識については,実は大蔵省内部では早くから共有されていた.
例えば,昭和50年から53年の間,主税局長を務めた大倉真隆は昭和50年8月1日付で,次のようなメモを残している
"…当面の景気停滞を脱却した後に我が国経済がたどる途は.これまでのような高度成長の過程ではなく,いわゆる安定成長の軌道になるであろうというのが,国内, 国外を通じての一般的な見方であるように思われる。そのような状況の下においては,これまでのような税の多額の自然増収は期待できないが,他方で,国民の欲求はますます多様化し,福祉充実等の旗じるしのもとに財政に対する要求は増大の一路をたどるであろうから,財政運営は困難の度を高めてゆく恐れが強い."
本書が対象とする期間の苦渋に満ちた財政運営を予言するかのようなメモである.ここには,当時,国民の間で高まっていた「福祉充実」の要望が歳出の増加圧力となり, 大きな財源を必要とするものとして,財政を圧迫していくことになるだろうという的確な時代認識もみられる.
昭和48年には,田中角栄首相が高らかに「福祉元年」を宣言して,福祉予算が急速に伸びていくような制度改革が行われていたのである
拡大を遂げる歳出に対して伸び悩む歳入という財政構造を反映して,昭和50年に大規模な赤字公債発行による財源調達が行われて以来,赤字公債は急速に累積していく
このような急速な財政の悪化に直面して,政府・自民党は,健全な財政運営を行っていくための改革を提案し,その改革を推し進めるための努力を行った.
まず,昭和54年には,財政再建のために,大平内閣の下で「一般消費税」を導入しようとする.しかし,これは国民の大きな反対にあって失敗してしまう
昭和54年12月には,財政再建は一般消費税の導入ではなく歳出や歳入の見直しによるべきであるとの国会決議が行われ,昭和56年3月に第2次臨時行政調査会(第2次臨調)が立ち上げられると,「増税なき財政再建」のスローガンの下で,歳出削減を中心とした行財政改革が進められていくことになる.
一方,様々な不公平税制の問題が未解決のままであるという批判に応えるために,昭和50年代前半には,永年の懸案であった社会保険診療報酬制度の特例の見直しを含む租税特別措置の徹底的な見直し等が行われた.
さらに,非課税貯蓄制度の乱用を防ぐためのいわゆる「グリーン・カード制度」の導入が昭和55年に決定されたが,これも最終的には国民の支持を受けられずに,実施されることなく昭和60年に廃止となってしまう.
また,その一方で,根強い所得税減税要求に応えるため,法人税の引上げなどが行われ,昭和60年頃には,法人税は国際的にも非常に高い水準に達していた
昭和49年から63年といえば,日本経済全体としては石油危機からの立ち直りも早く,"Japan as Number One" などと称され,基本的には絶好調であるかのようにみえた時期である
そして,石油危機からなかなか立ち直れない世界経済を牽引していく「機関車」となることが国際的にも期待された時期であった
しかし, 財政運営に関していえば,決してバラ色ではなく,むしろ苦難と挫折に満ちたものであった
本節では,歳入不足問題から始まり,一般消費税導入の失敗に終わる昭和49年から54年までの財政運営の大きな流れを概観し次節以降で取り上げる個別税目の改正について理解するための礎を築いておきたい。
書き起こしここまで
ソースファイル
『昭和財政史-昭和49~63年度』シリーズ
第2章 昭和49~54年度の税制
https://mof.go.jp/pri/publication/policy_history/series/s49-63/04/04_1_1_02.pdf
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