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龍之介
2022年9月2日 17:19
夏は嫌いだ。 命の輝きと、その耳をつんざくばかりの主張に、気がめいりそうになるから。 照り付ける日の光に、心の底からの吐き気を混ぜて、湿り気と、空虚を、はにかんだ笑顔で誤魔化しながら、大きく二、三度息を吸う。するとどうだ。今度は、どうしようもない淋しさに駆られるのだ。 ヒグラシの声が何度も何度も僕のことを内側から壊そうとしてくる。まるで、僕の中にある生きる意志を否定するかのように。あの都市
2022年8月26日 18:01
初めて文章を書いたとき、それは僕がまだ母のひざの上にいたころだった。ボールペンでノートがぐしゃぐしゃになり、真っ黒に染まるまでびっしりと文字を並べて書いたその文章を、僕はつい最近見つけた。本当の意味での処女作だった。ある探偵が、船の上の奇妙な殺人に巻き込まれる。目が覚めたら10人が同時に死んでいた。テロ小説みたいじゃないかとさえ思った。でも、このころの僕の文章は、まだまだ洗練されてはいないとはい