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ジョブ型雇用を導入する際の注意点その2~契約で職種等の限定するためにすべきこと~
以前公開した記事「ジョブ型雇用を導入する際の注意点~日本の「ジョブ型雇用」は二つある~」に関連して、本記事では、職務等を限定した「契約型のジョブ型雇用」を実現する際のポイントについてお話しします。
1.職務記述書に職務内容等を記載しただけでは十分とはいえない
職務、職種、職位、就業場所等(以下、「職務等」といいます。)を限定する意図で、採用後の職務内容等を雇用条件通知書や職務記述書に記載してを提示するという運用が行われることがあります。
しかし、採用後の職務内容等を記載しただけでは、職務等の「限定」を契約内容とするには必ずしも十分ではありません。
実際、労働条件通知書等において従事する業務の記載がなされていたものの、職種の限定が契約内容になっていないとされた裁判例(京都地判平成 30 年 2 月 28 日労判 1177 号 19 頁)もあります。
【京都地判平成 30 年 2月 28日労判 1177号 19 :抜粋】
「嘱託就業規則には配置転換を命じる規定があることからすると,原告と被告との間で配置転換のない職種限定としての労働契約が締結されたと認め得るためには,就業規則の例外が定められたと認め得るに足りる契約書の記載や客観的な事情が必要であると解される。」
「嘱託雇用契約書(〈証拠略〉)では,「従事すべき業務の内容」として「経営管理本部(本部長付)・A監査室(室長)関連業務およびそれに付随する業務全般」とされているが,職種限定合意がない場合でも,労働契約書や労働条件通知書において当面従事すべき業務を記載することは通常行われることであるから,上記の記載をもって直ちに職種を限定する趣旨であると認めることはできない。」
2.契約条件として職務等の変更ができないことを明記する
職務等の「限定」を確実に契約の内容とするためには、職務等を特定して明示することに加え、それが「変更不可」であることを明記することが望ましいです。
具体的には、雇用契約書に必ず職務等の項目を設け、職務等を明示したうえで、その変更が不可能であることを明示する方法が考えられます。
また、実務的には、厚労省が公開している「モデル労働条件通知書」の書式を修正して、「雇用契約書兼労働条件通知書」として使用しているケースが多いかと思います。
令和6年4月から労働法の改正により、「雇い入れ直後」の就業場所・業務の内容に加え、これらの「変更の範囲」を明示することが必要となりました。これに伴い、厚労省が公開している「モデル労働条件通知書」(https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001156118.pdf)の「就業の場所」及び「従事すべき業務に関する事項」において、「変更の範囲」の欄が追加されています。そこで、この欄において「変更不可」との記載をする方法が無難であると考えられます。
なお、当該従業員の資格、採用後18年間の勤務実績、採用の際の募集経緯等の事情から職種の「限定」が契約内容になっていることが認められたうえで、配転命令の可否が争われた事例があります。
この点、最高裁は「労働者と使用者との間に当該労働者の職種や業務内容を特定のものに限定する旨の合意がある場合には、使用者は、当該労働者に対し、その個別的同意なしに当該合意に反する配置転換を命ずる権限を有しないと解される。」(最二判令和6年4月26日令和5(受)604)と判示しています。
しかし、この最高裁の判断があらゆるケースで同じように適用されるかは必ずしも明らかではありません。雇用される従業員との間の認識の齟齬を避けるためにも、実務的には配転命令が不可能であることを明らかにするためにも、職務等について「変更不可」であると明記しておくのが無難であると考えられます。
3.職務等が限定された従業員向けの就業規則を用意する
契約書等における職務等の「変更不可」の記載に加えて、職務等が限定された従業員向けの就業規則(少なくとも、配転命令を認める条項が存在しないもの)を用意してくことが望ましいと考えられます。
というのも、前掲の京都地判平成 30 年 2月 28日判決において、職種の限定が契約内容になっていないことの根拠として、「就業規則には配置転換を命じる規定がある」ことが挙げられています。
確かに、契約書における記載と、就業規則の記載に相違がある場合には、従業員にとって有利なほうが優先されます(労働契約法第12条)ので、契約書において職務等が「変更不可」とされていれば、契約書の記載が優先されると考える余地もあります。
しかし、よくよく考えると、「職務等の限定がある場合」の方が労働者にとって有利であると言い切れるのかは疑問が残ります。
そこで、実務上は、就職務等が限定された従業員に適用される就業規則を作成した方が無難であると考えられます。
4.まとめ
以上のとおり、職務等を限定した「契約型のジョブ型雇用」を実現するためには、
①雇用契約書等において、職務等の範囲が「変更不可」である旨を明記し、かつ
②職務等が限定された従業員向けの就業規則(少なくとも、配転命令を認める条項が存在しないもの)を用意する
ということが重要であると考えられます。