おじいちゃんピックアップガチャ

サッカーのスマホゲームをやっている。実際のサッカー選手が実名で登場するゲーム。ガチャで選手を集めて、育成して、自分のチームを作り上げる、まあよくあるゲームだ。自分は特別サッカーが好きなわけではないが、友人の勧めで半ば強引に始めさせられて、とは言えそれなりに楽しんで遊んでいる。そのゲームで、今、僕の実の祖父のピックアップガチャをやっている。

ご存知の通りこういうゲームの収入源はガチャへの課金だ。有名選手が入れ替わり立ち代りピックアップされ、ユーザーのガチャ欲をくすぐる仕組みになっている。サッカーゲームでは、現役選手だけではなく引退した超有名選手が登場することもある。現役選手に比べると実名で登場させるためには権利関係がややこしいらしいが、往年のレジェンド選手は人気も高いしシンプルに強い。僕の祖父はそんなレジェンド選手として満を持して登場した。

僕の祖父は元ブラジル代表の10番だった。海外の様々な名門クラブを渡り歩き、代表でも長く主力を務め、ワールドカップベスト4入りに貢献した選手だ。怪我のためワールドカップに出場したのはその1度だけになってしまったが、4年後のワールドカップでも彼さえいればと言われた名選手だった。『トリデンテ・マジコ(魔法の三叉槍)』と言われた3トップは伝説で、祖父のいたブラジル代表を歴代最強チームに挙げる専門家も多い。怪我に苦しんだ末の現役生活の最後は日本のJリーグで終え、そこで知り合って結婚したのがおばあちゃんだった(祖父にとっては3度目の結婚だったが)。そしてその孫が僕なのだ。

おじいちゃんは僕が5歳の時に亡くなっているので、僕自身は正直ほとんど記憶がない。静岡の家まで遊びに行くたびに、なんだかよく分からない甘い砂糖菓子をくれたことと、お葬式に有名人がたくさん来ていて、キングカズのサインをもらったことだけはっきりと覚えている。僕も小学校2年まではサッカーをやっていたが、残念ながらおじいちゃんの才能の100分の1も受け継いでいなかったようですぐにやめてしまった。

ゲーム画面の中に自分のおじいちゃんがいるというのも不思議なものだ。ブラジル代表のカナリア色のユニフォームを身にまとって、代名詞でもあるフリーキックを蹴った瞬間の写真でキラキラと輝いているおじいちゃん。ヒョコヒョコと脚を引きずって歩きながらニコニコと笑って頭を撫でてくれた、僕の知っているおじいちゃんとはまるでかけ離れていて、まるで現実味がなかった。

それはそれとしておじいちゃんは、うちのチームの戦力的には是非とも引いておきたい選手だった。貯めていた石をつぎ込んでガチャを回す。しかし出ない。オイ！俺は孫だぞ！！それはそれ、これはこれなのだろう。せっかくだしと思って僕は初めてガチャに課金をしてしまった。5000円課金しても出なくて更に追加でもう5000円……最後の10連ガチャで虹色の演出と共に出てきたのは、同時にピックアップされていたブラジル代表のレジェンドゴールキーパーだった。そっちじゃないんだよ！！僕は生まれて初めておじいちゃんを恨んだ。何だよ、孫に会いに来てくれたっていいじゃないかよ。。。またおじいちゃんがピックアップされるまで、このゲームを辞めるわけにはいかなそうだ。