見出し画像

忘れる

いつの間にかすっかり冬めいてきた。今年はまたいっそう寒さが厳しいように感じるが、実際去年の寒さを忘れているだけでそう変わらないのだろう。毎年冬になるたびに今年は寒いと言い、夏になるたびに今年は暑いと言っているような気がする。たった一年前の感覚さえ、人は忘れてしまうように出来ている。

つい先日、数年前に付き合っていた人の吸っていた煙草の銘柄を忘れて思い出せないことがあった。甘い匂いのする珍しい煙草で、彼女は何かの漫画の影響でそれを吸っていた(『NANA』のブラックストーンではない)。コンビニとかでは取り扱っておらず、うちの職場の近くの煙草屋には置いてあって、彼女に頼まれて何箱か買っては会う時に渡していたはずだ。たった数年前のことなのに!あんなに好きだった人のことなのに。忘却は時に残酷だなと思う。

忘れることに助けられることもある。どんなに悲しいことも辛いことも、時間が経てば忘れられる。じいちゃんが亡くなって僕はとても悲しかった。今でも時々思い出して悲しい気持ちになることはあるが、ずっと悲しみに暮れているわけではない。好きだった人のことだって、忘れるからこそ次の恋に進めるのだろう。去年の冬の寒さを忘れてしまうように。

忘れてしまいたいことがある。忘れたくないことがある。忘れてしまいたいことはさっさと忘れて、忘れたくないことはいつまでも覚えておけるといいのだが、そんなに都合よく出来ていないのがまた悩ましい。そう考えると去年の寒さについては忘れても忘れなくてもどっちでもいい部類の案件ではあるなと思う。さて、書いてる途中で何かいい感じのまとめを思いついた気がするのだがそれも忘れてしまった。忘れたり忘れなかったり思い出したりして生きていくしかないんでしょうね、と、当たり障りのないまとめでそれっぽく終わっておくことにしよう。

いいなと思ったら応援しよう!

うえぽん
よろしければサポートいただけると、とてもとても励みになります。よろしくお願いします。