月のTRAGEDY
近くにいてもあなたの心に
辿りつく道どこにもないのね
違う軌道を廻り続けてる
地球と月とにとても似てるね
いにしえのアニメ、『天地無用!魎皇鬼』のエンディングテーマ、『月のTRAGEDY』の冒頭である。当時僕は中学生ぐらいだったろうか。まだ恋も分からないような若僧だったけど、この歌詞を初めて聴いた時には深く感銘を受けたのを覚えている。
近くにいても決して交わることのない2人、というありふれた恋の設定を『違う軌道を廻り続けてる地球と月』になぞらえるという妙。文章を書くような人間は、素晴らしい表現や設定に出会った時に、「やられた!」「どうしてこれを思いつかなかったんだ」と思うことがある。この曲がまさにそれだった。なんと分かりやすく、小学生レベルの平易な言葉を使っているのになんと的確な例えなのだろう。しかも宇宙からやって来た女の子たちと地球人とのドタバタラブコメスペースオペラである作品のテーマとも絶妙にリンクさせた歌詞でもある。「歌詞が腑に落ちて感動する」という経験は当然何度も経てきたが、これは僕にとってその最初期のものだったように思う。
『天地無用!魎皇鬼』は、OVAとして制作されたがテレビでも放映され、僕はたぶんその時にテレビで観たのだと思う。今風に言えば、「ぬるぬる動く」ハイクオリティなアニメーションと、粒立った魅力的なキャラクターたち、それを演じる豪華な声優陣、王道を抑えたストーリー。当時とても好きだったアニメ作品のひとつだ。
まぶしい気持ちは
溢れているけど
あなたの夜を
ほんの少し
照らすだけでいい
と、歌は結ばれる。テーマ曲を歌う声優の折笠愛さんが演じたキャラクター、魎呼(りょうこ)の、普段見せる積極的な態度とは裏腹な秘めた想いをしっとりと乗せたいい詩だ。そういえば『TRAGEDY(悲劇)』という単語もこの歌で初めて知って調べたような記憶がある。決して結ばれない想いを抱いてしまった天と地の悲劇。『月のTRAGEDY』はそんな想いを歌った素敵な曲です。
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