祖父の光線銃
世界が大洪水に見舞われて人類が滅びた時、僕たち家族は世界樹の上に造られた避難所『エデン』へと避難して難を逃れたのだという。僕がまだ赤ん坊だった頃の話だ。以来僕はエデンしか知らずに育った。
エデンで疫病が蔓延したのは僕が5歳の時だった。同じように避難してきていた人たちが次々と死んだ。僕と、僕のじいちゃんだけが生まれつき抗体を持っていたらしい。お父さんもお母さんも亡くなり、皆がバタバタと死んでゆく中、最後に僕たち2人だけが生き残った。そこから僕はじいちゃんに育てられた。
じいちゃんが亡くなったのは僕が18歳になる3日前。じいちゃんは亡くなる前に、ベッドの下から大きな黒い箱を出してきて言った。「この先お前の前にとても大きな困難がやってくる。その時にはこの箱を開けなさい」と。僕は黙ってその箱を受け取った。それはずっしりと重かった。それから程なくしてじいちゃんは安らかに逝った。僕はじいちゃんの亡骸を丁寧に埋葬した。僕はひとりぼっちになった。
『その時』が訪れたのはそれから10年後だった。それは空からやってきた。銀色の、平べったい、空飛ぶ円盤たちだった。それは紅い熱線を放ってかつて水没した地表を焼き、やがてエデンへと迫ってきた。じいちゃんが言っていた、大きな困難はきっとこのことなんだと思った。僕は物置に走って、あの時以来一度も触っていない黒い箱を引っ張り出し、蓋を開けた。そこに入っていたのは、白く輝く光線銃だった。
ずっしり思い光線銃を構えて、僕は空飛ぶ円盤たちに向き合った。それはゆっくりとこっちに向かってくる。まだだ、まだ早い。僕は辛抱強く待った。もう少し、もうちょっと、あと10秒、今だ!僕は光線銃の引き金を引く。虹色の光がまっすぐに伸び、円盤のひとつに直撃する。円盤は大きく傾いで火を噴き、ゆっくりと地上へと落ちていった。やった!僕しかいなくなった世界。いっそこのまま焼かれて死んだ方がよかったのかもしれない。でもここは、死んだじいちゃんやお父さんやお母さんや、たくさんの人たちが愛した世界だ。僕にはそれを守る責任がある。そして僕にはそれを成す力がある。じいちゃんの光線銃と一緒に、僕は僕の世界を守るんだ!僕は落ち着いて次の円盤に狙いを定めると、エイと引き金を引いた。