20.オープンキャンパスに動員されるのいやですか?(専任大学教員の仕事その4)
1.全教員による高校訪問なんて意味なし!
昭和の時代、民間企業で売り上げが悪くなると「全員営業だ!」という号令がかかって総務や経理の社員も顧客回りをさせられることがあった。某自動車メーカーは工場の工員さんまでディーラーに送り込んだ。実効性よりも一種の精神論で社内にショックを与える意味もあったのだろう。
平成の時代、大学でも同じようなことが行われた。学生募集が思うようにいかないと、職員だけでなく「全教員も高校訪問だ!」と言い出すワンマン理事長がいた。創業家や職員出身の理事長の中には、働かないくせに文句ばっかり言っている教員への懲罰感情のようなものがあったのだろう。
しかしこれはとんでもない逆効果だ。社会性のない教員がアポなしで高校の進路指導担当先生を訪問しても、相手も無下に追い返すわけにもいかず困ってしまう。お互いに何を話していいかわからず無駄な時間がすぎる。それどころか大学教員だからと威張って怒らせる人もいる。後で大学に電話がかかってきて二度とよこさないでくれ、と言われることもある(私ではない)。
私も号令がかかって高校を訪問したことがあるが、何人も学校推薦で生徒を送り込んでくるにもかかわらず、本学の事(どんな教育をしているか、とか)を全く知らないので驚いたことがある。進路指導と言っても単に偏差値の輪切りで入れそうな大学に生徒を割り振っているだけなのだろう。
ということで、高校の先生に大学の中身を知ってもらうことはとても重要だが、その際に専任の職員ではなく教員はどのような役割を果たせばよいのだろうか。
2.高大接続・高大連携で大学教員がやらなきゃいけないこと
文科省の言う高大接続とは、学力の3要素(知識・技能、思考力・判断力・表現力、主体性)を高校から大学まで一貫して育むことで、そのために高大連携が必要だ、ということである。
そのためには、大学での学びを高校の先生に知ってもらわなければならない。前任校では6月から8月にかけて高校教員向けの大学説明会があったが、役職教員の挨拶や職員からの入試説明の他、担当教員から教育内容についての説明があった。例えば臨床検査技師など何を学びどうしたらなれるのか(国家試験)、卒業後はどうなるのかなどは教員でなければ説明できない。文系学部では高校教員に実際にアクティブラーニングを体験してもらう模擬授業なども行っていた。また、高等教育を専門とする教員による探究学習の研修なども行っていた。
令和3年以降の高校教育改革に直面している高校教員は、探究や課題解決型学習、実践的な語学教育などをどう進めるか悩んでおり、大学教員が手助けできることは多い。大学教員が高校教員と交流して教育について情報交換し高校側のニーズをくみ取って研修や講演を行うことは、大学への信頼を高め、ひいては学生募集にもつながる。大学教員の積極的な参画が求められる。
3.実務家教員によるオープンキャンパス模擬授業
どこの大学でも行われるイベント、オープンキャンパス。大学施設案内や在校生との交流、教員による模擬授業などを用意して高校生やその父母に来てもらう。募集広報にとって大事なイベントである。教員もイベントの運営や模擬授業に動員される。noteにもこれがいやだと言う記事が散見される。しかしこのイベントは高校生が大学での学びとはどういうものかを知る貴重な機会であり、教育の方法や大学・学部の雰囲気、先輩たちや教員はどんな人かを実感する機会でもある。このことはミスマッチや不本意入学を防ぎ、教員にとってもメリットがある。
一つの例として、実務家教員である私が実際に行った模擬授業を紹介しよう(写真:国際コミュニケーション学部)。
まず、高校生を4~5人づつのグループに分ける。各グループにファシリテーター役の先輩学生一人と中国人留学生一人をつける。まず最初はウォーミングアップ。高校生から留学生に最近中国の若者の間で流行っていることをインタビューし、結果をグループごとにまとめる。最初はぎこちなかった高校生も先輩の助けと日本語に堪能な留学生のおかげで和気あいあいと盛り上がる。この段階でも高校生にとっては大きな気づきがある。
次に休憩時間。私が買ってきた金沢名物のお菓子「福うさぎ」をパッケージごと各テーブルに配り、みんなで食べる。休憩が終わったら私がインバウンドと観光マーケティングについて簡単にレクチャーし、いよいよ本番。この「福うさぎ」を中国からの観光客にもっとたくさん買ってもらうにはどうしたらいいか、その方策を考えてグループで議論してまとめる。高校生は一生懸命考えながら留学生に質問し、行き詰れば先輩ファシリテーターが助け舟を出す。こうしてまとめたプランを高校生だけでみんなの前でプレゼンテーションする。最後に私から各グループのプランへのアドバイス。
終わった後の高校生の感想は「初めて中国人と話して楽しかった」「大学の勉強のイメージがわいた」「先輩がキラキラしていた」などこちらの狙い通り。見学していた父母も自分たちの時代の大学の授業との違いに驚いていた。
大学教員はより良い研究環境を求めて大学を移っていくことは当たり前である。しかしその大学に在籍している間は自分の大学・学部の教育に自信を持ち、一人でも多くの高校生に来てもらいたい、と考えそのためにオープンキャンパス(募集・広報)で教員なりに創意工夫を凝らすことは当然ではないだろうか。
実務家の皆さんは、大学教員になったら募集・広報(すなわちマーケティング)や授業方法について様々な実践的なアイディアがわいてくるのではないだろうか。その力をぜひ発揮してほしい。
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