
26.今どきの大学の授業(その1)
1. 今どきの大学はどんな授業をしているのか
それを知るために、私が実際に担当した授業の一部を紹介する。実務家教員としては自分の専門以外にキャリア教育関連の授業を担当させられることが多いだろう。今日紹介するのは私が担当した「現代社会と職業」という文系2年生対象の授業全15回のうち第11回目の授業の内容である。この授業は毎回グループディスカッションがある。今の学生は知らない人と話し合うのが苦手なため、あえてグループは毎回組み替え、苦手意識を払しょくさせる。授業はいきなりグループワークから入らない。インプット→個人で考えるワーク→グループワーク(グループ内での個人発表とディスカッション)→全体発表の順で行われる。出席者はおおよそ30名(5人一組)ほどである。
2. 実際の授業の内容(過去のフェイスブック記事より転載)
「〇〇大学で担当している授業「現代社会と職業」は昨日が年内最終日。
2年生対象のこの科目は私にとっては△△大学でやってきたキャリア教育の集大成だが、まだまだ試行錯誤の段階でシラバス通りには進まない。最初に受け持つ授業のシラバスは仮説のようなものだろう。
さて、昨日のテーマは「経営(マネジメント)感覚」。企業としては経営を感覚的に理解している学生を採りたいのが本音。
若手社員は現場で狭い範囲の実務からスタートするため、会社に入ってから身に着ける機会はなかなかこない。だから、大学にいるうちに授業を通して身に着けさせる必要がある(この場合「経営感覚」はP/L感覚で十分)。
経営(マネジメント)とは「限られた資源を最大限に活かして成果をあげること」なので、その思考を感覚的に身に着け、あらゆる場面で自然に出てくるようにしなければならない。そのためには数字で考える習慣も必要である。
そこで図(この記事の表題写真)のようなヒントを手掛かりに課題(下図の経営シミュレーション)を考える。最初は一人で考えてワークシートに記入し、次にグループになってディスカッション。グループの案を作る。
売り上げを上げるためにクーポンを発行するとかSNSで宣伝するなどの議論をしている中で、ひとつのグループがようやく1日当たりの売り上げを計算してみることを思いつく。
月の売り上げを30日で割って見る。それを自分たちで想定した客単価で割って、大体の客数を出す。営業所間で割って一時間当たりの客数を出す。
そこで疑問を持った彼らは、バイト人件費からバイトの人数を割り出す。すると、客数に対してバイトの人数が過剰であることに気付く。彼らもバイトしているので、何人で回せるかは見当がつく。
他のグループが平日ランチメニュー導入やハッピーアワーにドリンク一杯サービスによる集客策を発表する中で、このグループは平日のバイト人数を減らすことにより、60万円のコストダウンができることを発表。
これが学生時代に身に着けてほしい「経営(マネジメント)感覚」である。」
この内容は冨山の言う現代のリベラルアーツ「言語的技能・技法」を身に着けるものである。この授業の後、学生は自分のバイト先のことを観察し考えるようになる。数値で考えることで、バイト先からも学べるものがあるのだ。
3.この 授業の全体像中での位置づけ
現代の就職活動は3年生の夏のインターンシップから始まると言われている。だからと言ってこの時期(2年生の後期)にエントリーシートの書き方や面接の練習をしてもしかたがない。大事なのは自分がどうなりたいのか、そのために今の自分に何が足りず、これからの大学生活で何をどう身につければいいのかを知り、そのための技法を学ぶことだ。そして充実した大学生活を送ることが就活にとって大切だと言うことを理解してもらいたい。そのための授業の全体構成は以下の通りである。この中であえて経営シミュレーションの回を入れているのは、社会人になってもこの程度のことを理解していない人が(特に法学部や文学部,国際系学部出身者に)驚くほど多いからである。
• 第1回 職業をめぐる構造変化(外国人との競争、グローバル、IT)
• ワーク「外国人人材との競争」
• 第2回 職業の本質(三原則、付加価値はどこから生まれるか)
• ワーク「自分の就きたい職業」
• 第3回 労働の本質(ヘーゲル)
• ワーク「アルバイト体験~つらかったこと、楽しかったこと)
• 第4回 自分の本質(デカルト、パスカル、マッキンゼー)
• ワーク「考える方法:なぜを5回繰り返す」
• 第5回 自分をもっと知るために、これまでの自分を振り返る
• ワーク①「小学校入学前、小学校時代を振り返る」
• ワーク②「中学・高校時代を振り返る」
• ワーク③「大学生活を振り返る」
ワーク④「自分の棚卸~長所・短所、性格・能力スキル」
• 第6回 自分が成りたい自分、先輩たちの事例に学ぶ
• ワーク①「成りたいものと阻むもの」
• ワーク②「方法と代替案」
• ワーク③「大木さん、木村さん、徳永さんから学ぶ」
• ワーク④「とりあえず自分はどんな行動を起こすか」
• 第7回 将来の自分の仕事を考える視点
• ワーク「将来有望な職種・仕事と市場・業界、そして自分の希望」
• 第8回 「Lの反乱」「自分の時給を意識しているビジネスマンは少ない」を読んで考える将来の職業と自分
• ワーク「ジクソー法による発表とディスカッション」
• 第9回 就活を考える:企業での働き方を知る
ワーク「原田裕太氏の事例を読んで」
• 第10回 企業とは何か
• ワーク「あなたは船主か船長か船員か」
• 第11回 組織と経営
• ワーク「居酒屋経営シミュレーション」
• 第12回大人になる(世の中の仕組みを知る~なぜ若者は投票に行かなければならないか)
• 第13回 成功者の生き方:スティーブ・ジョブス
• スティーブ・ジョブスのスピーチを読む
• 第14回冬休みの課題発表
「その人の職業観レポート発表」(身近な人に職業観をインタビューしてまとめる)
• 第15回まとめと振り返り
自分は決してキャリア教育の専門家ではないが、民間企業の出身なのでできるだろうと思われている。この大学のキャリア教育の授業(単位がでる)は1年、2年、3年の前期後期(体系的に)計6科目あるがたまたま自分は2年後期に割り当てられた。やれと言われた以上目の前の学生のためにこの程度の授業を組み立てることはできなければならない。キャリア教育は現代のリベラルアーツと捉える必要がある。あえて言っておくが、Fラン大学の授業である。
