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経営合宿の進め方(2)

経営合宿について、2本目の記事を書いてみる(1本目はこちらから)。まずは当日までに行う合宿の事前準備について整理してみたい。


経営合宿の意味

「何のために経営合宿をするのか」について、考えてみる。

おそらく多くの会社で、定期的に経営会議的なものが開かれているのではないだろうか。経営会議は、主に経営層が、日々の業務のなかで見つかる課題について議論したり、トラブルについて討議したり、新規のプロジェクトがあればそれについて議論したりする会議体だ。

一方、経営会議的なものは特になく、進行中の案件の進捗確認をするにとどめる特許事務所もあるかもしれない。
面白いもので、経営をしていなくても特許事務所は作れる。売上があり、支出がそれを超えない限りは成立する。特に、特許事務所の典型的なビジネスモデルは、一度大手の企業と取引が始まれば、出願、中間、登録処理、年金、数年後には外国移行など、一社から継続的な売上発生のタイミングをもらえる。
継続的な研究開発をしているクライアントがいれば、クライアントが満足する明細書を継続的に納品できれば、経営の要素はなくとも会社は成り立つ。だったら経営会議も経営合宿もいらないというのは、わからなくもない。しかし、中には「新しい依頼が減ってきた」「もっと会社を拡大したい」「後継者が必要だ」「競合にクライアントを取られそう」「クライアントの値下げ要求で利益率が低くなってきた」など、時間の経過とともに、これまで安定していると思われていた事務所の経営状態に課題が生まれてくることもあるだろう。
そういう時に、経営の視点は必要になるんじゃないかと思うし、経営について考える場が必要なんじゃないかと思っている。そのための経営合宿だ。


経営とは

個人的に「経営」の定義でしっくり来たものとして、PHP人材開発のHPに掲載されていた「松下幸之助発言集」からの引用がある。

「辞書によれば、経営とはもともと建築上の言葉で、「土地を測量し、土台を据(す)えて建築すること」だという。そしてそれが転じて、「ある目標を立て、これを達成するために、規模を定め基礎を固めて、物事を治め営んでいくこと」という意味に用いられるようになったという。」

PHP人材開発「松下幸之助発言集」

僕の言葉で捉え直してみると、「目標や戦略を決めて、それを実行するための計画や実行するための組織を作ること」が経営なのだろうと思う。


経営合宿のアウトプットは資料

経営の定義はこれくらいにして、経営合宿の話に戻る。
会社を発展させていくために経営の視点が必要なわけだが、なかなか日々の仕事の中で経営について考える時間をとるのは難しい。そこで「経営合宿」という半ば強制的な時間を確保することが有効になってくる。

僕の場合、経営合宿ではアウトプットとしての経営合宿資料の作成を重視している。
単に役員同士で会社や経営論、哲学について議論する経営合宿もあるかもしれない。その結果、役員間の関係性を深める会社もあると思う。が、個人的にはこういう経営合宿は好みじゃない。
明確に「なぜ会社を作ったのか」「世の中をどうしたいのか」「そのための会社コンセプトは」「5ヵ年の事業計画は」「来期の目標は」「チーム体制・リソースは」「目標達成のための戦略アイデアは」「戦略実行のための毎月のロードマップは」これらを文章・資料に落とし込む。それを従業員(できれば)全員に見せ、来年度の計画を伝える。
そうすれば、各部門のマネージャーは、日々の業務が目標・ロードマップに沿っているかを確認しながら、自己やチームの評価に落とし込むことができる。資料作成は知的忍耐力を要求されるので、ある種のタフさが必要だが、このように実利に沿うことなので、合宿を運営する上でも重要なものと考えている。


アウトプットの骨子を用意する

合宿といっても意外に時間は少ない。役員相当が複数人参加する時もあり、人件費を考えると時間効率はできるだけ高めておきたい。
そこで、事前にどのようなアウトプットが欲しいかを定義するため、PowerPointやGoogleスライドなどを用意し、議論するテーマごとに見出し・目次レベルでスライドを用意しておく形をお勧めする。

僕が行う経営合宿は、資料の見出し/目次として、以下を必須項目としている。

  •  世の中の動向、社会情勢の変化

  •  昨年度の振り返りと課題

  •  会社としてのMVV

  •  5か年の事業計画

  •  今年度の全社目標

  •  来年度の全社目標

  •  各本部の目標

なお、最後の「各本部の目標」は、後日、各本部長とコンセンサスをとったうえで、設定された目標に対して、それを実行するための戦略と、戦略実行のための大タスクを年間スケジュール(12か月に分割)に落とし込むようにしている。
こうすることで、MVV→5か年事業計画→単年度の全社目標→細分化された各本部の目標→目標実現のための戦略とロードマップが一気通貫する。

あとは、各本部が毎月のスケジュール・タスクリストに従って、目標実現のために動く構図にすることで、全社一丸となって目標に向かって突き進む体制にする。

初回の経営合宿では、これらのコンテンツをゼロからすべて用意する必要があり大変だが、2回目以降はすでにたたき台やフレームワークがある状態なので、スムーズに進めることができるようになるだろう。

経営合宿の管理フォルダ(年度ごとに資料を管理)


当日のスケジュールを決める

時間効率という意味では、当日のスケジュールも事前に決めておけるといい。何時に集まるか、議論は何時から何時までやるか。資料への落とし込みは何時、最終チェックは何時から何時、夕食の時間は何時...といった具合だ(具体例も書いておく)。
細かければ細かいほどいい。特に議論の時間や、資料作成の時間は1時間単位で区切って整理し、例えば、以下のような粒度で用意する。

11 駅集合
11-12 ランチ(サブアジェンダを議論)
12-13 会議室移動
13-14 議論第1部
 ┗13-1330 議論アジェンダ確認、経営合宿進め方確認
 ┗1330-14 議論(社会環境、昨年振り返り)
14-15 議論第2部(MVV確認、5か年事業計画)
1500- チェックイン
1515-16 議論第3部(今年度、来年度目標確認)
16-17 議論第4部(各本部の目標確認)
17-18 資料作成第1部
18-19 食事
19-20 資料作成第2部
20-21 資料チェック
21-22 バッファ

議論が長引くことも想定し、それを吸収するためのバッファの時間を用意しておくとよい。ずっと頭を使いっぱなしなので、疲労感も大きい。適宜休憩を入れながら進めるのがいい。


サブアジェンダを整理する

メインのアジェンダは資料に落とし込むが、そこには入らないアジェンダもあるかもしれない。例えば、「福利厚生制度でこんな制度を作るのはどうか」「XXさんがいまこういう問題を抱えているので対策を検討したい」などだ。これらは「サブアジェンダ」と呼ぶようにしている。緊急性はないが時間をとって議論したいものを絞り、サブアジェンダにするのがいいかもしれない。メインアジェンダの時間を削りたくないため、僕の場合、サブアジェンダは合宿前のランチの時間に議論して済ませることが多い。


会場を確保する

合宿というくらいなので、基本的にはどこか遠方に行く。自社の会議室ではなく遠方で行うのは、普段とは異なる環境で、気持ちのリセットと合宿に集中できるようにするためだ。会議室でやると普段の仕事の延長になってしまい、「そもそも論からの課題」の話よりも「目の前の課題」に意識を持ってかれてしまうように思う。

遠方に行くとなると、当然移動コストは増える。移動の不便さを考えて近郊の貸し会議室でやったこともあるが、合宿終わりに終電があるということで僕だけ帰宅してしまった。
合宿が終わったら、みんなで近隣の観光をしたり、ゆっくり飲み語らったりすることでモチベーション向上や目線の確認ができる。終電で帰れるようなところはおすすめしない。

一方で、遠方と言っても旅館はおすすめしない。旅館には会議室がないし、和室は長時間の会議には不向きだと個人的には思う。パソコンを使うにはテーブルと椅子、電源は必要だし、複数人で議論するには大きなテーブルも欲しい。
宿泊施設の会議室や近くの貸会議室を利用するのもよいが、利用料が予算と見合わなかったり、立地によっては貸会議室が見つからないこともある。
おすすめはAirbnbだ。一軒家をそのまま貸してくれるサービスがあるのだが、リビングには大抵大きなテーブルと椅子がある。Wi-Fiも完備。貸切なので個室状態だ。費用的には3〜5万程度なので2〜4名くらいでやる分にはちょうどいい。
食事は近くに食べに行くか、自分たちで作る必要があるが、そんな気分転換も一興だ。

こうして、当日までの準備が完了する。次回は経営合宿当日の流れについて書いてみようと思う。

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