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【長編連載小説】絶望のキッズ携帯 第1話 嫁の友達

嫁が遠方に住んでいる友達とビデオ通話をしている。神戸在住のその女は何やら悩んでいるようだ。聞き耳を立てると、二週間後の新学期から中一になる息子が、小学校の時から不登校なのだそうだ。一日家に引きこもり、ネトゲばかりしていると嘆いている。いっそPCを捨ててしまおうかと思うほどの時間、画面を睨んでいるらしい。

俺は翻訳家として在宅で仕事をしている。PCを睨む日々だ。同じように引きこもってPCを睨んでいるが、意味合いはかなり違う。まったく、ゲーム三昧なんてうらやましい限りだ。

ここのところ仕事が来ない俺は、ZOZOタウンのセール商品一覧を眺めながら話を聞いていた。やっとビームスの商品を全て見終えた。明日はジャーナルスタンダードだ。ネトゲなんてくだらないものに夢中になれる子供は、やはり愚かだ。

そうこうしている内に、大人の男の人の話も聞きたいという声が聞こえてきた。大人の男。俺の出番か。確かにタフでハードな俺の意見があれば、その少年を変えることができるかもしれない。威風堂々とビデオ通話に参加した。
「久しぶりー、ハロー」
嫁の友達からの挨拶だ。彼女は俺の4つ年上で42歳。今時ハローはないだろう。オバはんのハロー。このババア、メルカリに出品してやろうか。

そうは思いつつ、俺は大人の男だ。数々の現場をサバイブしてきている。こんなババアをメルカリに出品しても、送料でマイナスになることくらい分かっている。出だしから腹が立つが、話を聞くことにした。

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