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【長編連載小説】絶望のキッズ携帯 第9話 出発

翌日、ガキは空港へと送られた。一応本人も興味を示していたようだから拉致や虐待の類には当てはまらないだろう。それにこの時代だ。LINEがある。困ったときはビデオ通話で居場所を探せばいい。俺はババアにガキの連絡先を聞いた。

教えられたのは今時珍しく電話番号だけだった。古風な家柄に相応しい。やはり陶芸家の孫だ。あまり新しいものを取り入れることを快く思わないのだろう。しかしババアが口にした、ガキの携帯電話でLINEが使えない理由は革新的だった。
「キッズ携帯だからLINEが使えなくて」
キッズ携帯。まだあったのか。このガキ、友達とどうやって連絡を取るんだ。俺が友達なら誘わない。昨日のガキを見た限り、わざわざ一人だけのために電話をかけてもらえるほどのVIPには思えないからだ。友達がいないのはもしかして、ババアのせいじゃないだろうか。

俺と嫁が長崎空港にたどり着いたところで、ババアからLINEが来た。離陸したらしい。なぜその連絡の後に、カフェのコーヒーの写真まで送るのだろうか。開放感に満ちている。さらに昨日まで深刻そうだったババアから、たくさんの陽気なスタンプが送られてくる。俺はうさまるが親指を立てているスタンプをたくさん返した。りょ、と打つと勝手に候補に出てくる便利なスタンプだ。了解と打つ必要がない。

ここで嫁の登場だ。俺たちを見つけられなかったら大変だと、ガキのために横断幕を用意していた。名前をデカデカと書いた横断幕。陵辱のウェルカムだ。アダルトビデオのジャンルでいうと鬼畜とか拷問に相当する。それを広げる嫁も嫁だが、ババアの友達だ。計り知れない。

俺たちは写真でガキの服装を知っていたが、明らかにそのガキと分かる少年が俺たちの前を素通りしていく。嫁は大声で名前を呼んだ。

そこで俺たちは初めて出会った。初対面で泣いている男を、他に知らない。よほど家やババアが辛かったのだろう。仕方ない。心配しているふりをしてカフェタイムを楽しめるババアだ。デリカシーにも欠ける。ここまでで書き忘れていたが、見た目も酷い。トムとジェリーに出ている人に似ている。あのブルドックの人みたいに、頬がブルブルに垂れているのだ。ビデオ通話越しにも、ババアと呼ぶに相応しいババアであることが分かる。ブルブルはヒステリックの象徴だ。

ガキは開口一番俺たちに告げた。こんなことしなくて良かったと。確かに他人の子供を急に遠くから呼び寄せ、気分転換に連れていく。でき過ぎた夫婦だ。俺が優しく笑いかけると、ガキは横断幕を破った。


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