【長編連載小説】絶望のキッズ携帯 第13話 中学デビューのために
事態の深刻さに気付き始めたからには、策を用意しておいて損はない。このガキは今後も友達ができないかもしれない。そして、女に興味がないまま僧か牧師になってしまう。もっとも正式な僧や牧師は世襲だと思うので、アマチュアの僧や牧師として人生を終えることになるのだろう。行き着く先は翻訳家だ。
不良が流行らないのであれば、普通の人と友達になるしかない。それではどんな人間と友達になりたいか。まずは陽気でなければならない。そして面白い、気の利いたジョークが言えれば尚良い。顔は変えようがないが、そう悪くもないので大丈夫だ。俺の攻撃的な服を着ない点からファッションのセンスがないのは明らかだが、そこは教育しよう。少なくとも現状でこのガキに必要なのは陽気さだ。
陽気な人間であることをアピールするというのは難しい。さらにこいつは暗い。アドリブは不可能だろう。そこまで思ったところで俺は閃いた。アドリブではない喜劇役者になろう。台本を作るのだ。ガキの面白いポイントを事前にピックアップしておいて、ネタ帳にしたら良いじゃないか。ただ、このガキに面白いところがあるだろうか。
俺はしばらく思案し、やっと一つの答えに辿り着いた。キッズ携帯だ。中学のあだ名はキッズに決まり。しかもLINEができない。ショートメッセージでしかやり取りできないのだから、十円クソ野郎だ。これしかない。俺はガキに告げた。
「今日からお前のあだ名はキッズだ。それか十円クソ野郎。どっちがいい?」
事態を把握できていないガキに説明した。なぜか顔色が明るい。ツイッターができないなら家で一人でボソボソ呟くよう伝え、インスタもできないようなので写真屋さんでアルバムを買うことも勧めた。tiktokは自分が適当に踊っている動画をデジカムで撮れば解決する。最悪ババアのスマホに保存しておけば二人で楽しめるじゃないか。youtubeはテレビで我慢しろ。
なぜか惨めなはずのガキが笑い出した。そうだ。まずは笑うところからだ。笑えるなら、いつか陽気な自分が芽生えてくる。その時になったら友達もできるかもしれない。いきなり全部解決なんてするはずがないんだ。なぜか俺は自分の人生をやり直している気分になった。
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