【長編連載小説】絶望のキッズ携帯 第10話 長崎市内行き高速バス
俺とガキは並んで席に座った。出だしから立腹していたガキだったが、気分はすぐに持ち直したようで、外の景色に夢中だ。俺はそんなガキを見ながら、この間まで精液だったんだから仕方ないなと呆れていた。しかしせっかく来たのに会話がないようでは意味がない。バーで一人、ウイスキーをロックで飲みながら時間を潰している女を包み込むような声で、大人の余裕を感じさせる言葉をかけた。
「お前んちのババア、頭おかしいのか?」
ガキの空気が凍った。二杯目はフローズンダイキリだ。人の母親に何てことを言うんだと驚いている。予想外の反応に俺は落胆した。もう少し尖った、盗んだクロスバイクに乗った悲しい歌が聴きたくない感じの男だと思っていたからだ。
仕方ないので当たり障りなく、俺はジェネレーションギャップを埋める作業から始めることにした。
「俺たちの時代は白い巨塔っていうドラマが流行っていて、エロ本には必ず白い巨根って書いてたもんだ。最近は何て書いてるんだ?」
思春期のハートをプルリと振わせるセリフ。なぜかガキが震えている。掴んだ。俺は二十歳の差を埋めた。
完全に打ち解けてしまった俺たちは、将来の夢について語り合い始めた。予想通りだが特にないらしい。ただ一つ、給料がいいことだけは条件らしい。給料がいい仕事といえば、医者だったり色々あるとは思うが、何といっても不登校児だ。学力が期待できない。さすがに頭を抱えた俺だったが、知り合いがやっていて成功している事業を思い出した。学歴なんて関係がない仕事だ。
「デリヘル経営は?」
ガキが呆けた顔をしている。なるほど、確かにランニングコストはかかるとはいえ、かなりの売り上げがあることを知らないのか。ガキは甘い。そう思っていると、デリヘルとは何かと聞かれた。これ以上話すとブルドッグの人に噛まれる。
「この旅行中にゆっくり考えよう」
ガキが満面の笑みで頷く。うちの夫婦に子供はいない。ガキの夢を考える。悪くないと思う。