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【長編連載小説】絶望のキッズ携帯 第6話 心眼
院長はなかなかに物腰が柔らかな五十歳くらいの男だった。そしてクリニックもなかなかに繁盛していた。ここまで書くと、良い院長の素敵なクリニックと聞こえるかもしれないが、ここはなかなかに凄い。
まず、歯なんて見えないんだから削っちゃえというマインドを持っている。レントゲンで見えない小さい虫歯を心の目で見つけるのが一つ目の俺の仕事だ。あとはガンガンいくのみで、もともと何もないところなので程よいサイズに削って詰めたら終わりだ。
ここで注意してほしいことがある。このクリニックの場合だけかもしれないが、特に自己負担額0円の患者さんはとことん削る。院長いわく、削ったほうが喜ばれるとのことだ。だからそういう社会保障を受けている人は、安易に歯医者を信じない方がいい。
俺の二つ目の職場もなかなかだったことが伝わったかもしれない。ここで俺は対処不能なレベルの人数で患者を割り当てられ、朝の九時から夜の九時まで休むことなく健康な歯を削り続けた。半年後、うつ病が再発して仕事を辞めた。良心の呵責と過労が原因だ。