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他人の心が知りたい時|白瀬歯科医院〜悩める僕と大好きな歯医者さん〜|連載小説?
僕は小学五年生。いろいろなことに悩み始める年頃だ。何かに疑問を覚えたり、つらいことに直面したときは、近所の歯医者さんである白瀬先生のところへ駆け込む。大好きな先生はいつだって僕を救ってくれる。そう、間違えた答えで。
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今日は学校で道徳の授業があった。
人の心を大切にしなさいと習ったんだ。
だけど他の人の心なんて、ほんとうのところ分からない。
たくさんの患者さんを診ている町の歯医者さん、白瀬先生なら人の心が分かるはずだ。
先生に聞いてみよう。
「先生、どうすれば他人の心が分かるようになるの?」
はははと先生が笑う。
「他人の心を知るだなんて、僕にだって難しいものだよ」
先生にも難しいんだ。
僕は少し気が楽になった。
しかし、はたと先生は思い出したようだ。
「そういえば僕も色々とためして、新しく入った白衣のお姉さんのことを知ろうとしたね。待っていたまえ」
先生はいちど院長室に入り、分厚いファイルを持って出てきた。
「ごらん」
ファイルの中にある写真はどれも暗い上、ぼけていて何なのかわからない。
僕は気づいた。
先生は、やはり他人の心なんて分からないと伝えたかったんだ。
僕が先生の顔を見ると、先生は笑顔でうなずいた。
「まずはスカートの中を知ろうとしたのだよ」
先生が言うや否や、飛び出してきたのは数人の白衣のお姉さんだ。
新しく入ったお姉さんは『退職届』と書いた封筒を持っている。
「落ち着くんだ!ぼんやりとしか写ってない!まだ勤務開始から二週間じゃないか!!」
叫ぶ先生の口に、お姉さんたちはピンク色のぷにぷにを流し込む。
先生のひたいにプラスチックで封筒が貼り付けられ、顔にぷにぷにを盛られた。
ピンク色になった先生がもがいている。
今の先生は本当に反省しているのだろうか。
〜人の心を知ろうとしているとき、身勝手な虚像を作り出している〜