【2024年創作大賞応募用】【短編小説】傘花火 ~初夏の夜に咲く恋の花~ Chapter-9
※この小説はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
気になる
沙羅は小さい頃から、日焼けをすると火傷のようになってしまう。こまめに日焼け止めを塗り、ファンデーションを直していたが、花蓮とくるみは面倒になってきて、終いには直しもせずにそのまま遊んでいた。
あまりにも暑かったので、途中で沙羅は1人でテントに戻ってきた。
「肌白くてきれいですね~!」
変な男が付きまとってきた。沙羅は無言でテントに向かって歩き続けた。
「どこからきたんですか?友達と?(一緒に来た?)」
コミュ障を発揮して、嫌な感情をあからさまに顔に出せば、そのうちいなくなるだろうと思っていたが、期待を裏切って居座っている。
どうしたらいいかわからず、コミュ障が裏目に出て、声も出なかったところに、ちょうど翔が戻ってきた。
翔が沙羅と男の間に入り、すごく怖い顔をして男と対峙する。翔の怒気に沙羅もなぜだか怖くなったが、自分に向けられてないから怯えなくていいと思いなおし、翔の背中に隠れた。
翔の左手がまわってきて、沙羅をやさしく包み込み、背中に寄せて完全に隠してくれた。翔の意外な一面を目の当たりにして、沙羅はドキドキが止まらなくなっていた。優しいが力強いその腕を、沙羅は思わず引き寄せ、胸に抱くように両手で引き寄せた。
ただならぬ雰囲気を察し、パトロールに来ていた漁師たちも、テントまで駆けつけてくれた。若い漁師が仲間の漁師に連絡をしている間、見るからに怖そうなベテラン漁師までもがゆっくりとこちらに歩いてきた。
どんどん劣勢になっていくまま、無言の大男と対峙し続ける度胸は、その男には無かったようだ。隙をついて逃げようとしたが、あっさり漁師に力づくで捕まった。
漁師たちは去り際に、この辺りでも性的動画目的の輩が増えたから、気を付けるようにと沙羅に優しく伝え、その男の仲間も取り締まるため、パトロールに戻っていった。割と無茶な取り締まりもしているようだが、観光客が減るよりはるかにマシなのだろう。なにより、知らぬ顔が地元で好き勝手に振る舞うのは、心穏やかでいられないだろう。
少し怖い思いをしたが、何とも頼もしかった。あの漁師たちがいる限り、この海で何かあったら本当に助けてくれる。花蓮のおばあちゃんの口利きのおかげだった。
(そういえば、翔が来てくれた・・・・)
あのタイミングで来てくれなかったら、と思うと怖かった。翔にお礼を言おうとしたが、既にいなくなっていた。
(はぁ、また遊びに戻ったのかな?少し寂しいな・・・・)
本当はかなり寂しいのだが、沙羅は気持ちを隠すようにテントに入った。座った沙羅の目の前に、突然、焼きそばが出てきた。翔が焼きそばを買ってきてくれたのだが、ぶっきらぼうに目の前に差し出すものだから驚いて、のけぞってしまった。
焼きそばを受け取り、二人で黙々と食べた。
(コミュ障発揮してどうするの!)
沙羅は自分を鼓舞するが、凄く気まずくて早くも萎えそうだった。
が、さっきのお礼と焼きそばのお礼を言って、会話の口火を切ることを思いついた。
「焼きそばありがとう!それに、さっき助けてくれて、ありがとう!とても怖かったから・・・・。」
沙羅が笑顔で明るく言うと、翔は凄く嬉しそうに、照れくさそうに、はにかんでうつむいた。
(なんか・・・・下向いちゃった)
うつむいたまま、翔が答えた。
「気になった・・・・」
それきり翔が黙ってしまった。相変わらずうつむいたままだ。
「え?」
続きは無いのだろうか?沙羅も気になって翔に聞く。
「『気になった』ってなにが?」
聞かなくてもわかりそうなものだが、沙羅は全く分かっていない。
翔は答えに窮してしまい固まった。どっかの掃除機の遠心力並みに頭を回転させているが、次の言葉が全く沸いてこない。いや、判ってるが言えるわけがない。
翔は固まったままだから、沙羅はますますわからない。頭の中の忙しさと反比例して、相変わらず落ち着いて座っているかのように見えた。
「どうしたの?」
沙羅は心底判らず翔に聞いた。沙羅としては自然体だったが、首をかしげて聞いたしぐさが、翔の胸に刺さってしまい、一瞬、沙羅を見とれてしまった。
「ん?」
(そんな顔されたら・・・・)
翔はドキッとして、沙羅をまともに見ていられなかった。またうつむいてしまったが、ふり絞るように言った。
「さ、沙羅がその・・・・気になって心配だったから・・・・」
(!・・・・)
沙羅としては予想外の答えだった。翔が心配してくれた。それってどういうことを意味しているのか・・・・
顔が赤くなり言葉が出てこなくなった。非常に気まずくて、同じようにうつむいてしまった。
(翔がうつむくのって、こういう気持ちってこと?)
やけに心臓の音が煩わしい。沙羅は心臓の音以外は聞こえなくなった。今かいている汗は、暑いからだけじゃなさそうだ。
言葉を探すが、まるで浮かばない。雰囲気がドンドン気まずくなっていく・・・・。
沙羅は少し体勢を変えようとして、誤って翔の手を触ってしまった。たまたま翔も後ろ手に手をついていたので、上からかぶせるように手を乗せてしまった。
飛び上がるほど驚く二人。端から見たら滑稽でしかないのだが、本人たちは緊張の度が過ぎて、それどころではないようだ。
「ごめん!」
「いや・・・・」
凄くぎこちない。
(このままどぎまぎするつもり?)
沙羅は自分に問いかけていた。
(ええい!どうにでもなれ!)
意を決して沙羅が口を開いたが、コミュ障を発揮して途切れ途切れになった。
「翔・・・・それって・・・・」