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【2024年創作大賞応募用】【短編小説】傘花火 ~初夏の夜に咲く恋の花~ Chapter-7

※この小説はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。


蛍のいざない(後編)

佐賀県 岩屋川内川の蛍灯 © 諸石 信
※写真はイメージです(佐賀県 岩屋川内川の蛍灯 © 諸石 信 クリエイティブ・コモンズ・ライセンス(表示4.0 国際) find/47

 駄菓子屋さんだと気が付いて驚いた。確かおばあちゃん家を一歩出ただけだった気が・・・。

「いらっしゃい。おや、この辺じゃ見ない顔だねぇ。どこから来たんじゃ?」

 優しそうな声と共に、これまた優しそうなおばあちゃんが出てきた。歳は花蓮のおばあちゃんと同じぐらいだろうか?

「と、東京から来ました」

 突然のことで、どもってしまった。ここでもコミュ障を発揮している。

「おやまぁ、そうかい、ずいぶんと都会から来たねぇ」

と、おばあちゃんは続ける。

「東京に比べてこの辺は田舎じゃから、なーんも無いじゃろ?」

「いえいえ、とても良いところで住みたいくらいです」

「そうかい、そうかい」

 駄菓子屋のおばあちゃんは、嬉しそうに頷きながら続けた。

「若くてとてもキレイなお嬢さんじゃから、若返るようじゃ」

 そう言いながら、何かガサゴソやっている。

「あ~れ、どこやったか?最近出てなかったからのう・・・・」

 何やら独り言を言いながら探し物をしている。

「あのぉ、ここは・・・」

「ん?ああ、駄菓子屋じゃよ。梅雨明け間際しかやらないんじゃ」

「梅雨明け間際?」

「そう、蛍に誘われてな。そろそろ店を開けんか!と蛍が知らせに来るんじゃ」

「蛍が?」

「そう、蛍がな。今日、明日あたりに梅雨が明けるのじゃろう」

 駄菓子屋のおばあちゃんはにっこり笑うと、天井を見上げた。

 天井にはさっきの蛍が電燈になってぶら下がっている。あれが迎えに来た蛍なんだ。ぼーっと眺めていると、さらに奥の部屋から大切そうに何かを抱えながら、駄菓子屋のおばあちゃんが戻ってきた。

「久々にきれいなお嬢さんが来てくれたから、これをやるよ、もっていきな」

「いえいえ!お支払いします!お財布持ってきますから」

「いや、いいんじゃ、もうずいぶんと出てないから、お嬢さんが最後じゃろ。これもちょうど最後の1つじゃ」

「でも・・・」

「いいんじゃよ、それにもう誰も必要とせんじゃろ」

 寂しそうにそう言って、駄菓子屋のおばあちゃんは手にした何かを、そっと手渡してくれた。

(これは!)

 色こそ真っ白だが握りやすい太さ。それがカーブを描いて途中で止まっている。どう考えても傘の柄だった。違うのは色と導火線。ちょうどカーブのところから導火線が出ていて、封印のシールで止めてあった。

駄菓子屋のおばあちゃんは、淡々と語り始めた。

「これは古くからこの辺りに伝わる『傘花火』と言ってな。その昔、オナゴから殿方へ告白することは叶わぬ時代に、この花火を使って告白の代わりとしていたんじゃ。両想いなら殿方がその想いを受けとる」

(本当にあったんだ・・・)

 沙羅は驚きを隠せない。駄菓子屋のおばあちゃんは淡々と続けた。

「両想いなら花火で開いた傘が殿方に舞い降りる。その傘の中に想いを伝えたオナゴを入れて、歩いて帰ったそうじゃ」

「相合傘?」

「そうじゃ。して、その傘の中は、いつまでも二人が見た打ち上げ花火が見えるそうじゃ」

(花蓮のおばあちゃんの言っていたことは本当だったんだ?でもなんで?内側は真っ黒だったけど・・・)

「その傘を大切にすると、幸せに暮らせるそうじゃ。ただし、受け取ったまま取っておかないと、傘はボロボロに壊れてしまうそうじゃ。内側の花火も、もちろん台無しじゃ。二人以外の目には映らんから、決して他人に手入れさせないことじゃ」

(花蓮のおばあちゃんが、きれいにしなくていいって言ってたのは、このことなんだ・・・)

 急に駄菓子屋のおばあちゃんが真顔になってこう続けた。

「ただ一つ、約束事があってな、雨の時に打ち上げるんじゃ。晴れの日じゃと、花火が打ちあがるだけじゃ。」

 雨の時に打ち上げ花火なんて出来るのかな?沙羅は、怪訝な顔をしていたようだ。察した駄菓子屋のおばあちゃんは相好を崩して、ニコニコしながら更に語り掛けた。

「心配しなくても大丈夫じゃ。雨でも花火は上がる。どうじゃ?好きな殿方がいるのじゃろう?」

 そう言われてパッと思いついた顔は一人しかいないが、両手を突き出して否定していた。

「いえいえ、私はただ・・」

「いいんじゃよ、隠さなくても。お嬢ちゃんみたいなオナゴのための花火じゃ。何か困ったことがあったら、蛍が味方になってくれるはずじゃ。」

 そう言って、にっこりしながら手を握り締めた。

 電灯になった蛍が優しく語りかけるように、ゆっくりと明滅した。

Continued in Chapter-8

新潟県小千谷市 夜空の華(おぢやまつり大花火大会) © koichi_hayakawa
※写真はイメージです(新潟県小千谷市 夜空の華(おぢやまつり大花火大会) © koichi_hayakawa クリエイティブ・コモンズ・ライセンス(表示4.0 国際) find/47
広島県 福山市花火大会 © tanaka
※画像はイメージです(広島県 福山市花火大会 © tanaka クリエイティブ・コモンズ・ライセンス(表示4.0 国際) find/47
新潟県 2022年長岡の花火 © koichi_hayakawa
※画像はイメージです(新潟県 2022年長岡の花火 © koichi_hayakawa クリエイティブ・コモンズ・ライセンス(表示4.0 国際) find/47

Continued in Chapter-8

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