【2024年創作大賞応募用】【短編小説】傘花火 ~初夏の夜に咲く恋の花~ Chapter-7
※この小説はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
蛍のいざない(後編)
駄菓子屋さんだと気が付いて驚いた。確かおばあちゃん家を一歩出ただけだった気が・・・。
「いらっしゃい。おや、この辺じゃ見ない顔だねぇ。どこから来たんじゃ?」
優しそうな声と共に、これまた優しそうなおばあちゃんが出てきた。歳は花蓮のおばあちゃんと同じぐらいだろうか?
「と、東京から来ました」
突然のことで、どもってしまった。ここでもコミュ障を発揮している。
「おやまぁ、そうかい、ずいぶんと都会から来たねぇ」
と、おばあちゃんは続ける。
「東京に比べてこの辺は田舎じゃから、なーんも無いじゃろ?」
「いえいえ、とても良いところで住みたいくらいです」
「そうかい、そうかい」
駄菓子屋のおばあちゃんは、嬉しそうに頷きながら続けた。
「若くてとてもキレイなお嬢さんじゃから、若返るようじゃ」
そう言いながら、何かガサゴソやっている。
「あ~れ、どこやったか?最近出てなかったからのう・・・・」
何やら独り言を言いながら探し物をしている。
「あのぉ、ここは・・・」
「ん?ああ、駄菓子屋じゃよ。梅雨明け間際しかやらないんじゃ」
「梅雨明け間際?」
「そう、蛍に誘われてな。そろそろ店を開けんか!と蛍が知らせに来るんじゃ」
「蛍が?」
「そう、蛍がな。今日、明日あたりに梅雨が明けるのじゃろう」
駄菓子屋のおばあちゃんはにっこり笑うと、天井を見上げた。
天井にはさっきの蛍が電燈になってぶら下がっている。あれが迎えに来た蛍なんだ。ぼーっと眺めていると、さらに奥の部屋から大切そうに何かを抱えながら、駄菓子屋のおばあちゃんが戻ってきた。
「久々にきれいなお嬢さんが来てくれたから、これをやるよ、もっていきな」
「いえいえ!お支払いします!お財布持ってきますから」
「いや、いいんじゃ、もうずいぶんと出てないから、お嬢さんが最後じゃろ。これもちょうど最後の1つじゃ」
「でも・・・」
「いいんじゃよ、それにもう誰も必要とせんじゃろ」
寂しそうにそう言って、駄菓子屋のおばあちゃんは手にした何かを、そっと手渡してくれた。
(これは!)
色こそ真っ白だが握りやすい太さ。それがカーブを描いて途中で止まっている。どう考えても傘の柄だった。違うのは色と導火線。ちょうどカーブのところから導火線が出ていて、封印のシールで止めてあった。
駄菓子屋のおばあちゃんは、淡々と語り始めた。
「これは古くからこの辺りに伝わる『傘花火』と言ってな。その昔、オナゴから殿方へ告白することは叶わぬ時代に、この花火を使って告白の代わりとしていたんじゃ。両想いなら殿方がその想いを受けとる」
(本当にあったんだ・・・)
沙羅は驚きを隠せない。駄菓子屋のおばあちゃんは淡々と続けた。
「両想いなら花火で開いた傘が殿方に舞い降りる。その傘の中に想いを伝えたオナゴを入れて、歩いて帰ったそうじゃ」
「相合傘?」
「そうじゃ。して、その傘の中は、いつまでも二人が見た打ち上げ花火が見えるそうじゃ」
(花蓮のおばあちゃんの言っていたことは本当だったんだ?でもなんで?内側は真っ黒だったけど・・・)
「その傘を大切にすると、幸せに暮らせるそうじゃ。ただし、受け取ったまま取っておかないと、傘はボロボロに壊れてしまうそうじゃ。内側の花火も、もちろん台無しじゃ。二人以外の目には映らんから、決して他人に手入れさせないことじゃ」
(花蓮のおばあちゃんが、きれいにしなくていいって言ってたのは、このことなんだ・・・)
急に駄菓子屋のおばあちゃんが真顔になってこう続けた。
「ただ一つ、約束事があってな、雨の時に打ち上げるんじゃ。晴れの日じゃと、花火が打ちあがるだけじゃ。」
雨の時に打ち上げ花火なんて出来るのかな?沙羅は、怪訝な顔をしていたようだ。察した駄菓子屋のおばあちゃんは相好を崩して、ニコニコしながら更に語り掛けた。
「心配しなくても大丈夫じゃ。雨でも花火は上がる。どうじゃ?好きな殿方がいるのじゃろう?」
そう言われてパッと思いついた顔は一人しかいないが、両手を突き出して否定していた。
「いえいえ、私はただ・・」
「いいんじゃよ、隠さなくても。お嬢ちゃんみたいなオナゴのための花火じゃ。何か困ったことがあったら、蛍が味方になってくれるはずじゃ。」
そう言って、にっこりしながら手を握り締めた。
電灯になった蛍が優しく語りかけるように、ゆっくりと明滅した。
Continued in Chapter-8
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