【2024年創作大賞応募用】【短編小説】傘花火 ~初夏の夜に咲く恋の花~ Chapter-2
※この小説はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
やれやれ・・・・
「海は苦手だな」
沙羅はそう言って難色を示した。
色白であるがゆえに、欠かさず塗らなければならない日焼け止めが煩わしい。それに加えて潮風がベタつくし、気持ち悪い虫もいる。虫は大の苦手で、男の子が素手で触っているのが信じられなかった。
海に行くより、涼しい木陰がある山や渓谷の方が良かったが、虫が苦手なためにそちらもあまり気が進まない。
若いのに何を楽しみに生きているのだ?と言われそうだが、こればかりは仕方がない。
「えー!一緒にいこうよぉ!きっと楽しいよ!いい男が居るかもしれないし!」
くるみが熱心に誘ってくる。
中学から大親友で、行動を共にするグループのメンバーでもあった。同じ大学に進学してからも新しい友人の輪は出来たが、相変わらず行動を共にしていた。
「アンタそれしか考えてないの?」
沙羅が苦笑する。人見知りが強い沙羅は、くるみのセリフでますます遠慮気味になる。
「半分以上それじゃん?大学生なんて」
「知らない人としゃべるの、すんごくストレス!」
沙羅は人見知りのなせる業なのか、知らない人と話す事が非常にストレスだった。中学、高校と、入学式の次の日から必ず熱が出て数日休んだ。大学の入学時は休まなかったので、くるみにイイコイイコしてもらったぐらいだ。
「そんなんじゃ、一生彼氏できないよ?この夏、私は絶対彼氏を作る!一生モノの彼氏を!」
「はいはい」
あきれた様子で沙羅が答える。くるみの「一生モノの彼氏を!」は聞き飽きたのを通り越し、もはや決め台詞になっていた。
「よぅ!今度の週末、お前らも海に来るって?」
同じグループの海斗が話しかけてきた。後ろに翔もいる。翔は無口で挨拶も手を挙げて、何となく合図した程度だが、背が高く筋肉質、精悍な顔立ちでそこそこイケメンなので、黙っていても目立ってしまう。
海斗も爽やかな顔立ちのイケメンで、背丈も翔とさほど変わらない。現時点では中年太りが想像できない二人だった。翔は海斗の親友で、高校までサッカーに夢中だったせいか、おしゃれなどには無頓着だ。海斗はそんな翔におしゃれな服選びや、女性の口説き方などをレクチャーしているが、まるで進歩が無い。
翔は気を使わなくずに済む男子校を選んだほどなのだが、そんなことが判るはずがない。
翔は女性と話すのが苦手だった。彼の先入観から、女性のことを必要以上に気を使うべき存在と思っていた。もともと優しい性格だから、そこまで気にしなくても良いのだが、あえて男子校を選ぶだけあって、自分の過剰反応に、全く気づいていなかった。
大学の入学当初は、お互いの存在を知らなかったが、同じ講義の時は、海斗たちがくるみたちの近くの席を陣取るようになり、どちらからともなく話すようになっていった。
これも海斗の狙いだった。翔には早く女性慣れをさせないと、と思っている。
もっとも、話しかけると、くるみと夫婦漫才になるのが悩みの種だった。
「なんで知ってんの?」
くるみが驚いて聞いた。
「花蓮に誘われたぞ?くるみも沙羅も来るから、一緒に海に行こうって」
海斗が聞いてねぇのか?とでも言いたげな表情で返した。
「えー!そうなの?女子だけで行くのかと思ったのに!」
不服そうにくるみが言う。
「なんだよ、不服なのか?イケメンを二人捕まえて、それは無ぇだろう?」
不服そうなくるみに、海斗が冗談交じりに言った。
「誰がイケメンよ!アンタたちがいたらナンパされないじゃない!」
「ナンパ目当てか?くるみじゃ本当に食われそうで、寄ってこないだろ?」
「あ!ひど〜い!そういうこと言うから、モテないんだよ!」
「お前に言われたくねーよ!」
この二人、黙っていたら相当モテると思うのにな、と沙羅は思ったが、さっき海斗が言ってたことを思い出し、胸が高鳴ってきた。
考えてみたら高校までは門限があったが、大学生になってからは、だいぶ自由が利くようになったので、遊びに行くのは問題無いが、胸の高鳴りはそれだけが理由じゃなかった。
「で?俺たちって誰たちよ?」
くるみが突っ込んで聞いた。
「翔と俺!他に誰もいねーし!」
「え?男2人、女3人で?」
「花蓮がいつものメンバーで行こうってさ。花蓮のばあちゃん家が昔の家だから、部屋が沢山あるらしいんだ。無駄に広くて、おばあちゃん一人じゃ手が付けられないから、掃除や整理すれば、タダで泊まれるって言っててさ。」
「そうなの?そんな話、してなかったけどなぁ。まぁタダならいいか!」
自分が知らない話を海斗が知ってて、くるみは少し不服そうだった。
「なんだ?問題あるんか?大丈夫だよ、間違ってもお前を襲うような奴はいないから」
海斗がまた憎まれ口を叩いて、くるみをからかい始める。
「そ~じゃねぇよ!」
くるみが海斗に腹パンでお返しする。
「沙羅が海に行きたくないって言い・・・・」
「あ!やっぱ行こうかな!」
かぶせるように沙羅が遮った。
「オイ!さっきまでアンタ・・・・」
「電車で行くのかな?」
くるみの抗議をスルーして、沙羅が海斗に話しかける。
「いや、車で行こうと思っててさ。免許取ってから、俺の運転で何度も家族旅行してるから、高速も慣れてるし大丈夫!」
海斗は自信満々に胸を張り、垂直に立てた親指の指紋が見えるんじゃないかと思うほど、前に突き出して爽やかな笑顔を添えた。
「海斗の運転なの?ほんとに大丈夫なん?」
お返しのつもりか、くるみがからかい半分に疑いの眼差しで言った。
「お前だけ〜、置いていっても、ええんやでぇ~?」
海斗がコミカルなイントネーションで、歌うように応戦する。
「あ、ごめんなさい!乗ります!いや、乗らせていただきます!」
「んじゃ、くるみは助手席で、着くまで面白い話な!」
「なにその罰ゲーム」
「居眠り運転防止だよ」
「アタシ、お笑い芸人じゃないんだけど?」
「あれ、違った?」
やれやれ・・・・
誰に向けたものなのか、沙羅は心の中でつぶやいた・・・・
Continued in Chapter-3
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