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【2024年創作大賞応募用】【短編小説】傘花火 ~初夏の夜に咲く恋の花~ Chapter-4

※この小説はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。


舞い降りる伝説

水鏡 © SHori
※写真はイメージです(水鏡 © SHori クリエイティブ・コモンズ・ライセンス(表示4.0 国際) find/47

 「や~っと着いた!」

 車を降りるなり海斗は伸びしながら思わず言った。休憩を取りながら、のんびり車を運転したとはいえ、流石に疲れたようだ。

 「や~が長いわ!」

 海斗とくるみの夫婦漫才は続いていた。

 花蓮のおばあちゃんの家は田舎でも目立つ大きな家だった。認知症などもなく特に困っていないので、ここに1人で住んでいるという。おん歳88歳。いつもニコニコしていて温和そうな、どこにでもいるおばあちゃんだった。

 「いらっしゃい。悪いねぇ、お片付けしてくれるなんて」

 花蓮のおばあちゃんが笑顔で出迎えてくれた。

 「いえいえ、こちらこそ大勢でお邪魔しまして」

 海斗が代表して、そつなく挨拶をする。こういうところは任せて安心だ。各々挨拶を済ませて部屋を案内してもらう。2階に4部屋、下にも3部屋ある。歳を取ったら民宿でもしようと夫婦で話していたのだが、おじいさんが突然他界されたため、それ以来一人暮らしをしているという。

岐阜県 夏夏 © SHori
※写真はイメージです(岐阜県 夏夏 © SHori クリエイティブ・コモンズ・ライセンス(表示4.0 国際) find/47

 部屋は広いが、無駄にモノが無くすっきりしている。1階の一部屋だけがゴミ部屋のようになっていた。

 各部屋を点検したが、ゴミ部屋以外は掃除だけで済みそうだった。

 「うし、はじめっか!」

 海斗の号令と共に整理と掃除が始まる。男子は高いところの掃除と重いものを運び出す。女子は拭き掃除や、きれいに整頓するなど役割分担が決まった。花蓮が仕切り、海斗やくるみがスパッと勝手に割り振る。翔と沙羅は言われた通りのことをする。なんとも連携がスムーズで、このチームで仕事したら楽しそうだなと沙羅は思った。

それにしても、ゴミなのかも判断できない物が大量に積みあがっている。

(おじいさんがお亡くなりになったショックを、物語ってるのかも)

 好きな人が先に他界してしまう心細さや不安などを思いやると、沙羅はもらい泣きしそうになったが、ここで泣いてもしかたないので、心を込めて掃除した。

1階の目処が立ってきたので、くるみと花蓮が2階の掃除に取り掛かることにした。海斗が家から持ってきた掃除機と雑巾を持って2階に向かった。

 外では運び出した粗大ごみと、それ以外のゴミを分別するため、海斗と翔が置き場所をあーでもない、こーでもないと試行錯誤している。

 ゴミ部屋の残りの軽そうなゴミを、おばあちゃんと沙羅が片づけていた。様々な小物のゴミの下から汚れた傘が出てきた。ゴツくて無機質な外見の黒い傘で、おばあちゃんが使うとは思えなかった。横には木箱と蓋も落ちていた。何かの拍子で上から落ちた時に蓋が開き、中身の傘が出てしまったようだ。桐箱のようだが何も書いていない。

 (大切なものかもしれないから、おばあちゃんに聞いてみよう)

そう思って沙羅が傘に手を伸ばした時、おばあちゃんが優しく腕を掴んだ。

「ここにあったんだ、良かったわー!」

さっきの海斗と負けず劣らず長いな、と沙羅は吹き出しそうになった。

「ずっと探してらっしゃったのですか?」

「とっても大切な傘なの。見つかって嬉しいわ」

いつもニコニコしている顔が更に崩れ、とても嬉しそうで沙羅も嬉しくなった。

「よかったですね。思い出の品なら、きれいにしますね」

「いいのよ、このままで。今度こそ行方不明にならないようにしなきゃ。おじいさんが仕舞い込んでから行方不明だったのよ。」

「え?このままで?」

思い出の品というのに、薄汚れたままでいいと言われたのが沙羅は不可解だった。察したおばあちゃんが話し始めた。

「これはね、おじいさんとの思い出の傘なの」

「思い出のデートは雨だったんですね」

相変わらずニコニコしながら首を振り、おばあさんは話を続ける。

「デートではなかったんだけど、おじいさんに初めて告白されたの」

更におばあちゃんは話を続けた。

「このことは、孫(花蓮)にも話していないかもしれないわね。この辺りには昔から傘花火って花火があってね。打ち上げた後、想い合う二人の元に傘になって舞い降りて、二人の仲を取り持つ相合傘になってくれるの」

「え!本当ですか?そんな魔法みたいな」

おばあちゃんはいたずらっぽい笑みを浮かべ、話を続けた。

「傘を手にした者は幸せになれると言われてて、二人が見た花火がいつまでも傘の裏に残っているの。ただし、両想いでないと、普通の打ち上げ花火で終わってしまうの」

そう言っておばあちゃんは傘を広げた。何の変哲もない、黒い生地が沙羅の目に入ってきた。

「あの、真っ黒な生地ですけど・・・・」

おばあちゃんはにっこり笑って「そうよねぇ」と言い、大事そうに抱えて奥へ行ってしまった。

(まぁ、伝説よね・・・あ!パラシュート花火だったりして)

 そうは思うものの沙羅は気になって仕方がなかった。両想いなら傘が舞い降りてきて二人の間を取り持つ。片思いなら普通の打ち上げ花火・・・。

(ということは、相手の気持ちがわかるってこと?まさか、そんなことある?)

 沙羅は混乱していた。そんな非科学的な事があるのだろうか?でも、ウソをついても仕方がないことだから、やはり本当なのだろう。

(でも・・・)

外では蜩が鳴きはじめていた。

Continued in Chapter-5

兵庫県 野々庄 初夏の朝© rikky_photography
※写真はイメージです(兵庫県 野々庄 初夏の朝© rikky_photography クリエイティブ・コモンズ・ライセンス(表示4.0 国際) find/47

Continued in Chapter-5

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