【2024年創作大賞応募用】【短編小説】傘花火 ~初夏の夜に咲く恋の花~ Chapter-4
※この小説はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
舞い降りる伝説
「や~っと着いた!」
車を降りるなり海斗は伸びしながら思わず言った。休憩を取りながら、のんびり車を運転したとはいえ、流石に疲れたようだ。
「や~が長いわ!」
海斗とくるみの夫婦漫才は続いていた。
花蓮のおばあちゃんの家は田舎でも目立つ大きな家だった。認知症などもなく特に困っていないので、ここに1人で住んでいるという。おん歳88歳。いつもニコニコしていて温和そうな、どこにでもいるおばあちゃんだった。
「いらっしゃい。悪いねぇ、お片付けしてくれるなんて」
花蓮のおばあちゃんが笑顔で出迎えてくれた。
「いえいえ、こちらこそ大勢でお邪魔しまして」
海斗が代表して、そつなく挨拶をする。こういうところは任せて安心だ。各々挨拶を済ませて部屋を案内してもらう。2階に4部屋、下にも3部屋ある。歳を取ったら民宿でもしようと夫婦で話していたのだが、おじいさんが突然他界されたため、それ以来一人暮らしをしているという。
部屋は広いが、無駄にモノが無くすっきりしている。1階の一部屋だけがゴミ部屋のようになっていた。
各部屋を点検したが、ゴミ部屋以外は掃除だけで済みそうだった。
「うし、はじめっか!」
海斗の号令と共に整理と掃除が始まる。男子は高いところの掃除と重いものを運び出す。女子は拭き掃除や、きれいに整頓するなど役割分担が決まった。花蓮が仕切り、海斗やくるみがスパッと勝手に割り振る。翔と沙羅は言われた通りのことをする。なんとも連携がスムーズで、このチームで仕事したら楽しそうだなと沙羅は思った。
それにしても、ゴミなのかも判断できない物が大量に積みあがっている。
(おじいさんがお亡くなりになったショックを、物語ってるのかも)
好きな人が先に他界してしまう心細さや不安などを思いやると、沙羅はもらい泣きしそうになったが、ここで泣いてもしかたないので、心を込めて掃除した。
1階の目処が立ってきたので、くるみと花蓮が2階の掃除に取り掛かることにした。海斗が家から持ってきた掃除機と雑巾を持って2階に向かった。
外では運び出した粗大ごみと、それ以外のゴミを分別するため、海斗と翔が置き場所をあーでもない、こーでもないと試行錯誤している。
ゴミ部屋の残りの軽そうなゴミを、おばあちゃんと沙羅が片づけていた。様々な小物のゴミの下から汚れた傘が出てきた。ゴツくて無機質な外見の黒い傘で、おばあちゃんが使うとは思えなかった。横には木箱と蓋も落ちていた。何かの拍子で上から落ちた時に蓋が開き、中身の傘が出てしまったようだ。桐箱のようだが何も書いていない。
(大切なものかもしれないから、おばあちゃんに聞いてみよう)
そう思って沙羅が傘に手を伸ばした時、おばあちゃんが優しく腕を掴んだ。
「ここにあったんだ、良かったわー!」
さっきの海斗と負けず劣らず長いな、と沙羅は吹き出しそうになった。
「ずっと探してらっしゃったのですか?」
「とっても大切な傘なの。見つかって嬉しいわ」
いつもニコニコしている顔が更に崩れ、とても嬉しそうで沙羅も嬉しくなった。
「よかったですね。思い出の品なら、きれいにしますね」
「いいのよ、このままで。今度こそ行方不明にならないようにしなきゃ。おじいさんが仕舞い込んでから行方不明だったのよ。」
「え?このままで?」
思い出の品というのに、薄汚れたままでいいと言われたのが沙羅は不可解だった。察したおばあちゃんが話し始めた。
「これはね、おじいさんとの思い出の傘なの」
「思い出のデートは雨だったんですね」
相変わらずニコニコしながら首を振り、おばあさんは話を続ける。
「デートではなかったんだけど、おじいさんに初めて告白されたの」
更におばあちゃんは話を続けた。
「このことは、孫(花蓮)にも話していないかもしれないわね。この辺りには昔から傘花火って花火があってね。打ち上げた後、想い合う二人の元に傘になって舞い降りて、二人の仲を取り持つ相合傘になってくれるの」
「え!本当ですか?そんな魔法みたいな」
おばあちゃんはいたずらっぽい笑みを浮かべ、話を続けた。
「傘を手にした者は幸せになれると言われてて、二人が見た花火がいつまでも傘の裏に残っているの。ただし、両想いでないと、普通の打ち上げ花火で終わってしまうの」
そう言っておばあちゃんは傘を広げた。何の変哲もない、黒い生地が沙羅の目に入ってきた。
「あの、真っ黒な生地ですけど・・・・」
おばあちゃんはにっこり笑って「そうよねぇ」と言い、大事そうに抱えて奥へ行ってしまった。
(まぁ、伝説よね・・・あ!パラシュート花火だったりして)
そうは思うものの沙羅は気になって仕方がなかった。両想いなら傘が舞い降りてきて二人の間を取り持つ。片思いなら普通の打ち上げ花火・・・。
(ということは、相手の気持ちがわかるってこと?まさか、そんなことある?)
沙羅は混乱していた。そんな非科学的な事があるのだろうか?でも、ウソをついても仕方がないことだから、やはり本当なのだろう。
(でも・・・)
外では蜩が鳴きはじめていた。
Continued in Chapter-5
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