見出し画像

量子コンピュータ関連の情報発信の際に押さえておきたいこと

最近は量子コンピュータというワードをニュースやインターネット上で耳にする機会も増えてきました。

今、先端技術のトレンドは間違いなく生成AIですが、量子コンピュータに関してもテレビやネットで一般向けの啓蒙番組も放送されるなど、期待度・注目度はそこそこあるのかなと感じます。

一方で、量子コンピュータの技術的な内容は、数多ある先端技術の中でも超難解と言われています。それゆえに、量子コンピュータについて、誤解を招いたり、過度な期待を煽るような表現・情報も少なくありません。

そのような間違った/誤解を招く情報発信に対しては、量子分野の専門家から度々ツッコミが入っており、最近もいくつかプチ炎上(※)していました。
※ 炎上、と言っても、量子分野の限られたコミュニティ内の話で、一般社会からすれば小規模なものです。

こうしたツッコミに対しては、EMANさんが非常に良いことをおっしゃっていました。

ちゃんと補足すれば正しくなるので、この説明をした人を無条件に責めるのではなく、優しく補足してあげるようにしよう。あるいは「あれだけでは誤解を生むのでもう少し詳しく説明してやってくれ」と責めるようにしよう。説明してくれる人は歓迎である。
(略)
重ね合わせだから速いという説明自体が本質ではないからやめてしまおうという意見も分かる。色々と知ってくると見方も変わってきてそんな感じもしてくる。ただ、そういう話は難しすぎるし、近寄りがたくなったりもするだろう。
世間に受け入れてもらうには、思い切って単純化した説明もまた必要だと思うのである。

EMANさんのnote記事より一部抜粋

ただ、このような優しい世界が来るのはもう少し時間が必要な気もします。

現状では、少なくとも発信する側の少しの注意で状況は変わると思っています。

だいたいツッコミが入るパターンは決まっていて、

  • 量子コンピュータの仕組みについて間違った(ように見える)説明をしているもの

  • 「量子コンピュータで従来の手法の〇%効率化に成功!」系のもの

  • 「量子コンピュータは、スパコンの〇倍計算が速い!/組合せ最適化が得意!/あらゆる問題が瞬時に解ける!/すでに実現している!」といった量子コンピュータの性能や期待値を過剰に煽る系のもの

に大別されると考えています。以下で各パターンについて順に炎上対策を考察していきます。

まず、1つ目のパターン【量子コンピュータの仕組みについて間違った(ように見える)説明をしているもの】について。

これは元も子もない事を言うと、ちゃんと勉強しましょうね、としか言いようがないかなと思います。もしくは、自分の言葉で語るのではなく、専門書や専門家の書いた文章などの表現を引用すればよいでしょう。

これまでの経験的に、大体の人は説明を聞いても理解できず「分からないことが分かった」と言って終わるパターンが多いものです。
また、仕組みよりも「量子コンピュータで具体的に何ができるのか」の方に圧倒的に興味関心がありますので、仕組みの説明はほどほどに留めておいて問題ないでしょう。

次に、2つ目のパターン【「量子コンピュータで従来の手法の〇%効率化に成功!」系のもの】について。

これは、以下の3つの観点をきちんと説明すれば(科学的な観点での議論はあれど)誰も怒らないと思います。

  • ”量子コンピュータ”の定義を明確にする

    • この手の話は大体が量子アニーリングか疑似量子

  • 従来手法として検討した範囲を明確にする

  • 検証した問題設定を明確にする

また、発信側の都合もあると思いますが、可能であれば、量子アニーリングや疑似量子の場合は、「量子コンピュータ」という言葉を使わない方が良いです。炎上しやすいポイントです。

2番目、3番目については「それなら古典的な手法でも十分精度・速度出るよね、量子の優位性ないよね」ということが度々指摘されているので、正しい議論をするために必要なことだと思います。

論文などでは詳細が明らかになっているのかもしれませんが、プレスリリースなど、多くの人の目に留まる範囲では、触れられていない事が多い印象です。

最後に3つ目のパターン【「量子コンピュータは、スパコンの〇倍計算が速い!/組合せ最適化が得意!/あらゆる問題が瞬時に解ける!/すでに実現している!」といった量子コンピュータの性能や期待値を過剰に煽る系のもの】について。

こちらの対策としては、専門家が「よくある誤解」としてまとめてくれていますので、一旦ご一読していただくのが良いです。優先順に並べています。上2つは必読です。最後の文書は専門的内容も含めてきちんと理解できます。

よく専門家に引っかかる印象があるのは、「量子コンピュータは組合せ最適化が得意」、「巡回セールスマン問題のように現在のコンピュータでは解けない問題を瞬時に解く」、「量子コンピュータは(あらゆる問題について)スーパーコンピュータより計算が〇〇倍速い」、「量子コンピュータを使えば〜(とてつもなく凄いこと)〜ができるようになる!」あたりです。

読者に夢を持たせつつ、「量子コンピュータって夢はあるけど、今の時点でできることは限られていて、まだまだ多くの研究が必要なんだよ〜」というニュアンスが出せると良いですね。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?