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第三夫人と髪飾り(ネタバレ)
マイ・ディア・ミスターでは、説明的なセリフやナレーションが無い、と以前書いた。
同じように、説明的なセリフがほとんど無い、私の大好きな映画をご紹介したい。
『第三夫人と髪飾り』
女性監督が曾祖母から聞いた話を基に制作に取り組んだ映画。撮影当時13歳の女優が官能シーンを演じたため、本国ベトナムでは公開からわずか4日後に上映中止に追い込まれた「問題作」と言われている。
が、官能シーンと言っても旦那様役の男性と重なる、自分の手を胸に置いて手ごしに揉まれる、女性同士のキス、くらいで直接的な官能シーンはなかった、ように思うのだが何を「官能的」と捉えるかは人によって違うのでもしかしたら私が問題と感じないシーンでめちゃくちゃ興奮してしまった人もいたのかもしれない。
「この映画を老齢の男性ベテラン監督が撮ったと言って公開していたらこんなことにはなっていなかったと思います。若手の女性監督だからこんなことになった。そのくらいベトナムはまだまだ男尊女卑が激しいのです」とは監督が後にインタビューに答えたときの話。
私はこの映画を三回観た。
最初はラストが飲み込めず「どういうことなんだろう…」との想いから二回目を観たのだが、ラストまで全部分かってから観ると、出演者たちの細かい表情の動き全てに意味があったのだと分かる。
とにかく映像が美しくて、ただ映像を観ているだけでも満足かもしれない。
でも観たら必ず引き込まれてしまう。
三世代前の女たちの暮らし、当時当たり前だったこと、それに疑問を抱かず当たり前と受け入れ、生きていた女たちの生き様。
主人公は、絹産業で富を築く大地主に、第三夫人として嫁いだ14歳の少女。
家族構成は旦那様、旦那様のお父様、第一夫人、第一夫人の長男(15~6歳)、第二夫人、第二夫人の長女(14~5歳)、第二夫人の次女(4~5歳)、身の回りのお世話役のおばさん、その他たくさんの使用人たち。
昔のベトナムでは一夫多妻制も、自分の娘と同年代の少女を嫁として迎えることも、当たり前といえば当たり前だったのかもしれないけどやっぱり少しグロテスクなのだが、そのグロテスクさを忘れさせるくらいの映像美。
第二夫人に恋してしまう第一夫人の長男。
第二夫人の行いを知りながらもやはり恋してしまう第三夫人。
第二夫人が魔性の女なのだが、第三夫人から告白されると優しくなだめ、「あなた妊娠中だから不安定なのよ」と背中をさすり、自らの膝枕で寝かせる魔性ぶり。告白して振られた相手の膝枕で寝るのはご褒美か拷問か。
第一夫人の長男のお嫁さんは可哀想すぎた。
気を失いながらも出産を果たした第三夫人が、お世話役のおばさんに朦朧としながら「(産まれたのは)女の子なの?」と聞くのが胸に刺さった。
「男の子?女の子?」ではないのだ。「女の子なの?」
この言葉の重みが分かってしまうのは私が女に産まれたからなのか。
脚本がとにかくすごい。
説明が一切無いので役者さんたちの少しの表情の変化を見逃さないよう、食い入るように観た。そして、少しの表情の変化ですべてを語るのがまたすごい。
一回目を観終わった後、むさぼるように読んだ監督へのインタビュー、コラム。
「ラストは希望が持てた」と書いていたコラムがあって最初は「どこが!?」と思ったが、二回、三回と観るうちに、なるほど「希望」が理解できた。
ラストは、次世代への希望なのだ。
一人一人の言葉を噛み締めて観てみると、あーこのセリフがラストに繋がるのか、と理解できる。理解できたら「希望」が分かる。
ベトナムの話ではあるけれど、三、四世代前といえばおそらく日本でも似たり寄ったりなことがあったであろう。
そう考えると決して「外国の話」「他人事」とは思えない。
これからご覧になる方。冒頭9分くらいセリフがなく、誰も喋らない映画ですが、テレビが壊れているわけでも字幕がミスで消えてるわけでもありません。(私は最初そう思った)
とにかく素晴らしい映画なのでたくさんの人に観てほしい。
『髪飾り』の意味もご自分の目で確認してほしい。
ネタバレ、と言いつつ話してないところもたくさんたくさんあるので、是非是非ご自分の目で観ていただきたい。
この映画の話を母にしたら「なんかフランス映画みたいで難解ね…」と言われ、そういえばベトナムは一時期フランス領だったのではないか、と思い出し、やはり文化的な影響を受けていたのでは?という話で落ち着いた。
まさかここに繋がるとは思っていなくて、やはり人に話すのは大事だなと思った。
書いていたらまた観たくなった。
四回目、突入してきます。