自民党総裁選に見る「自民党」的なものとは?

9月17日告示、29日投開票が決まった今回の自民党総裁選において、自民党員のみならず、無党派層を含む有権者に何が問われているかは、少し見つめ直す必要があるだろう。

ことあるごとに各メディアで行われている世論調査では、常に各党への支持率が話題に上るが、そもそも、日本国内における最大の支持政党は無党派層であり、それらの人々が、政局によって投票先を決めている。

リーマンショック以来、長らくデフレ不況に喘いできた日本経済は、出口戦略の見えない苦境の中、「一度やらせてみるか?」と、旧民主党政権を誕生させたが、この時の立役者が無党派層だ。長らく続く自民党政治が、世界的な金融ショックから日本を立ち直らせることを遅らせているという当時の野党の主張に踊らされた有権者は、だからと言って寄せ集め集団の民主党に何が出来るのか?という疑問を持ちながら、それでも、幾分かの期待を寄せたのだ。

そんな国民の夢は、3年程度で脆くも打ち砕かれた。

野田内閣の時に行われた解散総選挙では、実に解散前230議席から57議席に減らす結果となった。これは、そのまま国民の期待感の浮き沈みを表している。

言い換えれば、それほどに国民の期待を裏切ったのが旧民主党とも言えるだろう。つまり旧民主党議員、現在の立憲民主党議員は、政権担当能力が無いことを証明した。旧民主党と現在の立憲民主党は違う政党だと言うなかれ。顔ぶれは旧民主党そのものではないか?党名を変えたら有権者が別団体だと思ってもらえるなど、大きな大間違いだ。それほどに、旧民主党の罪は大きい。

では日本国民が見る日本国の統治能力とは一体なんだろうか?


1955年、自由党と日本民主党が結びつき自由民主党が誕生して以後、旧社会党との間で保守と革新の対立構造が出来上がった。いわゆる55年体制で、それは今も尚、続いていると言っていいが、今も昔も変わらないのが、革新政党に対する評価だ。もちろん、旧社会党ほど「何でも反対」とは言わないが、それでも、一般に保守的政党と見られている自民党に対して、革新政党と言われる野党は一貫して言うことなすことに尽く反対の姿勢を保ってきた。

現在、ネット上では自民党はより先鋭化し右傾化が進んでいると言う。

革新勢力はいわゆる左翼で、今風に言えばリベラルとなる。

このリベラルの位置付けも、リベラルの本場であるアメリカから見れば、少々、いやかなり、その趣を異にする。国家の伝統とか文化が底流にあり、現代の国家観が醸成されているのだから、それらを尊重し国の形や郷土のコミュニティを大切にするのが保守的な思考だと言う。一方、時代の変遷により、個人の価値観や自由とか平等の価値観も同様に変遷するのだから、まず個人という価値を重視すべきと言うのがリベラル的な思考らしい。

ここで考えなければならないのは、果たして個人は国家に依存すべきか?はたまた国家は個人を尊重すべきか?と言う問題だ。国家があるからそこに住まう個人が自由を謳歌できているのか?それとも、個人は国家という形骸から独立すべきなのか?と言う問題だ。私は、人類はそこまでは到達していないと思う。いまだに国境線は存在し、紛争は絶えない。もちろん、戦争なんかなくなればいいし、差別なんか絶対に存在してはいけない。

しかし、現実世界はそうはなっていない。

第二次世界大戦以後、世界は戦争の醜さに気づき、侵略戦争は仕掛けてはならないと国際法で定めた。個別的自衛権とは、敵が攻めてきた時にはそれに対抗して戦ってもいいと言う取り決めだ。

日本の左翼系野党は、今でこそリベラルなどと綺麗な名前を使っているが、彼らは日本国憲法は断じて改正してはならないと言う。第二次世界大戦以後、日本が戦争をしなかったのは日本国憲法があったからだと言う。そのような素晴らしい憲法を改正するなんてとんでもないと言う論法だ。

日本には自衛のための組織である自衛隊が、その憲法の縛りの中で、それでも日本国と国民を守るために粛々と装備を整え、練度を高めてきた。現行憲法では自衛隊は軍隊ではない。行政組織であって、警察と変わらない。警察機構だからどこまで遵法を旨とする。だから、他国での紛争支援の場合、安全な地域でのみ活動が可能と言うわけの分からない法律の範囲でしか動けない。

他国は軍隊は軍隊と憲法で明記している。

これは自国民を守るために守るべきはその国の法律ではなく、国際法ということになる。つまり、個別的自衛権を行使して、他国にいる自国民を実力を行使して救い出すことが可能となる。

仮に先程の保守論でもって自衛隊を言うなら、戦後、一度も改正されていない日本国憲法を守り抜こうとしている自称リベラルは、つまり保守的な働きをしていることになる。

他にも、憲法が改正されないことで法改正が進まない事例はたくさん、ある。

今回、4名の自民党総裁選候補者の中で、誰が最も保守的で誰がリベラルな考え方を持っているかは、その主張を聴く側が判断すれば良い。

ただ、今回の総裁選のキーマンは誰か?と問われれば、一般の自民党員のように思う。

それほどに、今回は派閥の論理、力学が働かないと考えている。

一般的に野田聖子氏が出馬したことで、推薦人も含む一部議員が野田票を投ずるだろうが、野田氏には申し訳ないが、1位当選は考えにくい。そうなると、メディアで取り上げられているような河野氏一強にはならないだろう。すると、過半数割れの可能性が非常に高く、決選投票になった場合、野田票の行方が結果を左右することになる。

また、今回出馬を見送った石破氏であるが、確かに地方の有権者には人気があるかもしれないが、実は一般の自民党員や国会議員からはそれほどの票は期待できない。その結果が見えているから、石破氏自身が出馬を見送った。では、河野氏支持に動いたことの影響はどれほどあるだろうか?私は小さいと見ている。

今回のように混沌とした状況になれば、各派閥は自由投票とするだろう。

そうなると、一般党員の票の行方を見定めるのは当然だ。何故なら、直後に衆院選が行われることが分かっているので、当然、衆院議員は自民党の顔になる総裁を選びたくなる。

繰り返すが、今回の総裁選で最も注目されるのは、一般党員票だとみて間違いない。

言い換えれば、一般党員が旧来の自民党の派閥の論理から脱却し、新たな自民党を作れるか否か?の岐路に立たされていると見てもいいだろう。

現在の自称リベラルなどよりもはるかにリベラルで多様性に富んでいる自民党が、今後さらにどのように国家運営を行なっていけるのか?

一般党員の一票は重い意味を持つ。


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