岸田総理の狙いは内閣改造ではなく、次期衆院選?
自民党一強の支持率
調査をした報道各社にもよるのだが、ここにきて若干ではあるが内閣支持率が持ち直してきたようにも感じる。
政党支持率は当然だが、ダントツで自民党が多く、野党は大きく水を開けられている中、先ごろ代表選を行った国民民主党の支持率が上昇傾向にあるようだ。
また、日本維新の会も依然として上向いている印象がある。
9月13日には内閣改造を行うだろうとの予測が続いていて、この時期に内閣改造を行うということは年内の解散総選挙は無いと見る識者の意見が目立つ。
その中には国民民主党との連立が現状では難しいから、との見方があるようだ。
現在の自民党は、マイナカードと保険証の一体化問題でデジタル庁の取り組みへの批判が支持率低下の要因として取り上げられたが、ともかく、そちらは一時的に乗り切った感がある。
一方で秋本衆院議員の洋上風力発電に関わる贈収賄事件と、週刊文春が記事にした木原官房副長官の親族に関わる疑惑問題が取り沙汰され、支持率上昇の足枷になってしまった感がある。
これらの状況で、岸田政権としては解散総選挙に打って出るだけの材料に乏しく、今回の内閣改造は次期衆院選までの国民の溜飲を下げるだけの小規模な改造に留まるのではないか?との憶測が飛び交っている。
また、岸田政権は統一教会解散に向けて同団体への圧力を強めているが、こちらに限れば、法律の壁が存在する。仮に改正消費者契約法を使って、同団体への圧力を高めるにしても、ある程度の期間を要するだろう。ただ、現政権として統一教会との関係性を払拭するという意味で、強気の姿勢を見せることは重要だ。
岸田総理は、現在インドで開催されているG20に出席している。
成果を求めないG20
このG20にロシアのプーチン大統領が欠席したのは当然としても、中国の習近平主席が欠席したことが世界では大きく注目されている。この点について、拙稿では中国の国内事情が大きく反映していると触れた。
夏に行われたG7広島サミットで、岸田総理はウクライナのゼレンスキー大統領を電撃訪日させるなど、ウクライナ-ロシア戦争においてG7の立場を明確にするとともに、G7首脳が揃って広島の原爆記念公演と記念館を訪問するなど、過去に無い成果を生んだと言われている。
その成果を受け、岸田総理がG20の場でどのようなイニシアチブを取るかが、日本国民としての関心事となっているが、対中強行姿勢を見せた以外、目下のところ、目覚ましい成果は見られない。
というか、岸田総理はこのG20に大きな成果を期待してはいないようにも見える。
そもそもこのG20の最大の狙いは、アフリカに対して影響力を高めている中国を牽制することと、インドを中心にした新たな経済圏の枠組みを模索すること、そして欧州が中心になっている気候変動問題へG20諸国がどのような取り組みをするのかに焦点が集まっている。
それらの思考のベースにあるのは、ヨーロッパ的な発想であり、Diane Coyleの言うポップ経済学への否定であり、暴論を羅列するアンポップ経済学なのだが、それが一つの潮流を形成しているのも事実だ。
アンポップ経済学の典型が所謂、グリーン経済学と言われるもので、例えば環境問題を殊更に重要視し、CO2排出悪魂論を全面に押し出した再生可能エネルギーへの過度なシフトだと言える。
欧米では過激な環境活動家が道路を封鎖したり、デモを行ったりと、およそ科学的とは言えない社会活動の妨害を続けている。アメリカの公聴会において、石油製製品の使用を制限すべきだと言う環境活動家に対して、下院議員が「ところであなたが身につけている物に石油精製品は無いですか?」と質問し、答えに窮する場面が報道されたりして、彼らの主張の矛盾点が指摘されたりしている。
今回のG20においてさえ、それらの論調のままに通り一辺倒の木で鼻を括るような共同声明の発出に終わった。
インドのモディ首相の狙いは、中国を牽制する新たな経済圏の枠組みを構築することにあったのは間違いない。国境紛争を抱える中国が『新しい地図』を公表したことは、インドのみならず周辺国の逆鱗に触れた。それに対抗しきれない習近平主席は、恥をかきたくないばっかりにG20参加を見送り、引きこもり生活を送っている。
一方、中国の孤立化を狙う岸田総理は李強首相を捕まえ、日本の水産物輸入全面禁止がいかに馬鹿げたことであるかを説諭し、しかもG20首脳の面前で、公式に中国のやり方を批判した。総理周辺の関係者は、正に議場が凍りついた瞬間だ、とも評している。
習近平が欠席したことで、中国は国際社会でのプレゼンスの多くを失ったとも言われ、インドに対して強気の姿勢に出られない弱腰が、中国の実態そのものであり、中国共産党が内外に示している国内経済の状況は、中国共産党も把握しきれていないほどに悪化しているとの見方に真実味が感じられるようにも思う。
その後、岸田総理は囲み取材で13日に内閣改造を行い、大胆な経済対策を打ち出すとも表明した。
内閣改造の目的を邪推
日本国内の最大の関心事は、木原官房副長官のスキャンダルでもなければ旧統一教会問題でも、マインナンバーカードの問題でもない。景気対策であることを理解しているかのような岸田総理の発言で、マスコミで大きくは取り上げられていないが、実は内閣改造と共にそちらの話題がクローズアップされるのは間違いない。
現在、日本はコストプッシュインフレの最中にあり、名目賃金を引き上げる動きは活発であるに関わらず、名目賃金が16ヶ月連続で低下していることが殊更に大きく取り上げられている。これを政府の不策と見るかは経済学の知見によるところが大きく、安易に批判すべきでは無いのはもちろんだが、センセーショナルな話題が欲しいマスコミと反自民党勢にとっては格好の材料となっている。
一方、過去最高を記録した昨年度の税収は、今年度も継続するとの見方が大半だ。
税収が好調な今の状況で増税という冷や水を浴びせかけるのは、岸田政権の支持率を低下させるだけのことになるだろう。そもそも、日銀の予測を見ても、現在のインフレは今年末から来年にかけては鈍化するだろうと目されている。
詳細はここでは割愛するが、マクロ経済指標の観点から行って、中央銀行の利上げ政策に頼らない現在の日銀の金融緩和策は、私はそのスピードは緩やかになるとしても、少なくとも今年一杯は継続するだろうと見ている。
経済・物価情勢の展望 2023 年7月
一つには、インフレ率は確かに高くはなっているが、高止まりの状況とは言えない。他の先進国同様にアメリカの利上げ政策に引っ張られる形での安易な利上げ策を講じなくとも、失業率と有効求人倍率の数字は好調を維持しているからだ。特に新卒者の売り手市場は、かつて無いほどに好調になるだろう。巷間、その負担増が話題になっている奨学金も企業が肩代わりすると言い出している企業が、既に1,000社に上っていたり、いずれの企業も人材確保に躍起になっているのが市場の実情である。
13日の内閣改造に併せて岸田総理が打ち出すとされている経済対策は、これらの好調な経済に対して、更にテコ入れを行うような策になれば良い。
目先のこととしては、現在のガソリン、ガス、水道等生活インフラの支援策を継続するであろうという点だ。これは既に政府関係者から漏れ聞こえる情報で、ほぼ間違いないだろう。
問題は、増税をするか否かだが、岸田総理いわくの「思い切った経済対策」と言うなら、時限立法として消費税を下げる等の対策を講じてもいいのではないだろうか?
仮に秋の臨時国会を解散のタイミングと見るなら、その前に打ち出す経済対策としては、よほど大規模なものでなければ、支持率を回復させるだけのインパクトと、衆院選で勝ち切るだけの材料にはならないだろう。
解散総選挙はあるか?
G20が終了すれば、11月末にUAEで行われるCOP28まで大きな国際会議の予定もなく、秋の臨時国会中の解散がタイミングとしては最も早いと思われる。
現実問題として、13日に予定されている内閣改造と経済対策によってどの程度、内閣の支持率が回復するかにかかっているが、現在の30%台後半が40%台前半程度なら、岸田総理は解散総選挙には打って出ない方が得策だと考えるだろう。
もし、50%近くまで回復するようなら、思い切って解散する可能性が飛躍的に高まる。
仮にこの秋の臨時国会での解散が無ければ、次のタイミングは来年度予算成立後まではない。これで次に何かの大きな政治的スキャンダルが出てくれば、岸田政権は持ち堪えることは難しいだろう。
今回の内閣改造は、堅実な政権運営の為に多くの閣僚を留任させる可能性が高い。
元々、岸田政権はのらりくらりと延命策を講じてくるだろうとの見方もある一方、岸田総理は予想外の景気好調に加え、税収が過去最高になったことを受け、それならばと強気に方針転換したとも言われる。
つまり、攻めの姿勢に転じたとすれば、年内中の解散の可能性が一気に高まったとも言えるのだ。
次期衆院選を前倒ししておいて、24年9月の自民党総裁選をも乗り切れば、5年以上の長期政権の可能性が見えてくる。
岸田総理がそのような強気の姿勢に転じた要因の一つを挙げるとすれば、福島第一原発のALPS処理水放出かもしれない。菅政権で処理水放出は決定していたが、その時期が問題だった。岸田総理はIAEAの評価とG7広島の各国の反応と今回の処理水放出に対しての各国の反応を踏まえ決断したのだが、もう一つの要因は、処理水放出に反対している中国に相乗りする国が現れず、G20インドに習近平主席が欠席したことで、一気に国際世論は日本の処理水放出決定やむなしの方向に傾いたことが大きいだろう。
仮に今回の処理水放出に関して、中国の思惑通り、各国が懸念や反対を表明していたら、岸田総理の支持率も低下していたかもしれないが、国内世論の反発はほとんど無く、国際世論も概ね日本に賛同し、処理水放出の素地が整った中で放出が行われたことで、日本の信任をむしろ高めたと言ってもいいだろう。これは岸田総理の大きな功績となる。
繰り返すが、それだけを要因とするつもりは毛頭ないが、現状で岸田総理は内外の諸問題に対して最後に残された国内の景気浮揚のテコ入れ策を打ち出す以外、及第点の成果と言える。
今回の内閣改造と経済対策をきっかけに、臨時国会での解散総選挙の道がついたと考えるが、果たしてどうなるだろう?