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【小説】市川憂人『ヴァンプドッグは叫ばない』

U国MD州で現金輸送車襲撃事件が発生。襲撃犯一味のワゴン車が乗り捨てられていたのは、遠く離れたA州だった。応援要請を受け、マリアと漣は州都フェニックス市へ向かう。警察と軍の検問や空からの監視が行われる市内。だがその真の理由は、研究所から脱走した、二十年以上前に連続殺人を犯した男『ヴァンプドッグ』を捕らえるためだった。しかし、『ヴァンプドッグ』の過去の手口と同様の殺人が次々と起きてしまう。
一方、フェニックス市内の隠れ家に潜伏していた襲撃犯五人は、厳重な警戒態勢のため身動きが取れずにいたが、仲間の一人が邸内で殺されて…!? 厳戒態勢が敷かれた都市と、密室状態の隠れ家で起こる連続殺人の謎。マリアと漣が挑む史上最大の難事件!

【感想】

長編としては『グラスバードは還らない』から5年ぶりの新作となる。

そのグラスバードはその年の本格ミステリベスト10に於いて第5位と高い評価を受けた。

しかし僕個人としては、ミステリとして御法度に近い一部のトリックを受け付けられず、全く評価していない。

第二作目『ブルーローズは眠らない』が大傑作で、僕のツボに刺さりまくったミステリだったので、著者との相性が悪いというわけでもないのだろう。

期待と若干の不安を感じながら本作『ヴァンプドッグは叫ばない』を読んだ。

結果———

〈マリア&漣〉シリーズの中でワースト。

本書ひ一言で言うなれば、竜頭蛇尾。

前作同様、二つのプロットが同時進行し、果てに交わるという構図。
これは良い。

起こる事件はどれも派手で、不可能性に満ち満ちている。
これも良い。

それでは何がダメなのか。

それは本書の不可能犯罪を可能にするために繰り出された、とあるトリック。

これだけ大風呂敷を広げたのに、何ら外連味が感じられない解決編。

グラスバードの悪いところだけを残してしまったかのような真相だった。

このシリーズは毎度、SF的要素が物語に深く関わり、真相に於いても推理の傍証として使われるのが定例になっている。

SF要素をジェリーフィッシュ、ブルーローズの2作は上手く処理されていたのに対し、前作グラスバードはアンフェアとは行かないまでも、拡大解釈が過ぎて本格ミステリのトリックとして首を傾げざるを得ないものであった。

今作もそれと同様のことが起きている。

要するに
「これかできないなんて言ってないよね?」
ってことなのだ。

こっちからすれば
「いや、そこまで出来るなんて聞いてないし、、、」
という感じ。

“”出来ない”ということを言わない”というネガティブな伏線はあまり好きではない。

本作のミステリとしての核が、このSF設定によるトリックに大きく依存してしまっていた為、正直白けてしまった。

それでも事件の構図が明かされてから分かるタイトルの意味にはニヤッとした。
ここら辺は巧い。

そして、犯人の人物像。
使い古された手法ではあるけど、物語性も大事にする著者らしい仕掛け。
意外性はなく、予定調和な気もするが、この壮大な事件を一つの物語として落とし込むには、これしかないでしょう。
逆にここで気を衒う必要なんか無いもんね。

5年ぶりのシリーズ長篇ということで、期待し過ぎてしまっていたのかもしれない。

本格ミステリとしてみると手放しで褒められないというだけで、シリーズ物として見れば今回もいつもの面々が活躍するので素直に楽しめると思う。

次作への布石みたいなものもあるので、次も迷わず読むよ。

個人的シリーズ長篇の序列は以下の通り。
ブルーローズ>ジェリーフィッシュ>グラスバード>ヴァンプドッグ

次こそワーストを更新しないでくれよ。。。

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