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【小説】早坂吝『しおかぜ市一家殺害事件あるいは迷宮牢の殺人』
【あらすじ】
女名探偵の死宮遊歩は迷宮牢で目を覚ます。姿を見せないゲームマスターは「六つの迷宮入り凶悪事件の犯人を集めた。各人に与えられた武器で殺し合い、生き残った一人のみが解放される」と言うが、ここにいるのは七人の男女。全員が「自分は潔白だ」と言い張るなか、一人また一人と殺害されてゆく。生きてここを出られるのは誰なのか? そしてゲームマスターの目的は?
【感想】
冒頭の見取り図を見た途端「迷路館やん、、、」となった読者が多数いた事だろう。
もちろん著者も意識していないわけなく、『迷路館の殺人』を読んでいる読者であればニヤリとしてしまう趣向もあったり。
逆に言えばそれが諸刃の剣で、読んでしまっているからこそ、気づきやすくなってしまう面もある。
驚きたい人は深く考えずに読み進めて欲しい。
さて、本書の感想だが、なんとも掴みどころの無いミステリだった。
帯には”ふたつの事件の交点が見えたとき、世界は反転する”とある。
反転するかはさておいて、本書の主たる謎は【しおかぜ市一家殺害事件】と【迷宮牢の殺人】が如何にして繋がってくるのかにある。
ミステリではしばしば、全くの無関係に見えた事件が一つの線で繋がるという趣向が凝らされる。
しかし本書はどう読んでも無関係とは思えないけど、接点が見つけ出せない。
要所でミッシングリンクはあるものの、全貌が見えてこない。
まるで綱渡りのような状況が続く。
途中、何度か挟まれる「捜査」と題された幕間も何か仕掛けてきているはずなのに、手がかりは既に提示されていそうなのに、気付けない。
悔しいっ!けどっ、分からない!
そんな心境で訪れる解決編。
なるほど、その手があったか!
趣向の一端は看破できても、本書に仕掛けられた構図を見抜くのは容易ではないだろう。
「上木らいちシリーズ」もそうだが、よくもまあこれだけの仕掛けを無理なくぶっ込んで、ストーリーを破綻させる事なく成立させられるもんだ。
個々の仕掛けに真新しさはないけど、組み合わせ次第でここまで新鮮なものに映る。
“本格ミステリのネタは出涸らしだ”なんて時たま言われるけど、まだまだいろいろ出てきそうだなぁなんて思わせてくれる。
年末ランキングでもある程度上位に食い込むんではなかろうか。
学生の頃のようにミステリ新刊を年間数十冊読めるほどの時間はないけど、各ランキングを予想して楽しめるくらいには読んでいきたいなぁ。
以下、本書の記述の中で疑問点があったので備忘録も兼ねて記しておきたい。
未読の方は読まぬようお願いします。
《迷宮牢の殺人1》P89、2行目
“捜査一課に勤める彼の素晴らしき凡友”
という部分。
この『彼』が掛かる人物が死宮遊歩しか考えられず、この記述を正とする場合、死宮は男性となる。
僕はこれに囚われ、『迷宮牢の殺人』の中の死宮探偵が男性である可能性を捨てきれずにいた。
そのため、幕間に登場する死宮も男性であると思ったのだが、『迷宮牢の殺人』が作中作であり、それが女探偵死宮遊歩シリーズであることが明かされたので、作中作の中の死宮は女性で確定。
“捜査”の死宮(=餓田)のみ性別誤認の叙述トリックを用いた男性ということで確定する。
だとすると、上記『彼』は作中作の中での表記なので誤植というのとでいいのだろうか。
まあ次ページでは『彼女』と表記されてるので十中八九誤植だとは思うけど、僕の脳みそが足らん可能性も十分あるのでね。。。