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【小説】荒木あかね『ちぎれた鎖と光の切れ端』
2020年8月4日。島原湾に浮かぶ孤島、徒島(あだしま)にある海上コテージに集まった8人の男女。その一人、樋藤清嗣(ひとうきよつぐ)は自分以外の客を全員殺すつもりでいた。先輩の無念を晴らすため--。しかし、計画を実行する間際になってその殺意は鈍り始める。「本当にこいつらは殺されるほどひどいやつらなのか?」樋藤が逡巡していると滞在初日の夜、参加者の一人が舌を切り取られた死体となって発見された。樋藤が衝撃を受けていると、たてつづけに第二第三の殺人が起きてしまう。しかも、殺されるのは決まって、「前の殺人の第一発見者」で「舌を切り取られ」ていた。
そして、この惨劇は「もう一つの事件」の序章に過ぎなかった――。
【感想】
江戸川乱歩賞を受賞したデビュー作『此の世の果ての殺人』は未読。
買ってはあるのだけど、個人的に乱歩賞とあまり相性が良くないのもあり、なかなか手が伸びなかった。
けど、これは方々でいい評判を聴くので後追いながら読んでみた次第。
読んでなるほど。
しっかり本格ミステリをやっていながら、2部構成にすることで物語性も出して、叙情的な雰囲気も醸し出してる。
第1部はクローズドサークルとなった孤島での連続殺人を描くガチガチの本格ミステリ。
ベタベタな展開をなぞりつつも、決して単調にはならず、端々で魅力的な謎を提示していくことによってリーダビリティに繋げているのがまずもって巧い。
そんでもって、真相もしっかりと外連味のある着地を見せてくれる。
事件は『そして誰もいなくなった』的な様相を呈するので、委細看破するのは難しいだろうけど、なんとなく事件の構図はわかってしまうかもしれない。
それでも『舌を切り取られた死体』『必ず第一発見者が殺される』への処理は手堅いもの。
犯人が判明し、孤島での連続殺人は一応の結末を迎えて訪れる第2部。
これが非常に面白い。
舞台は一転して内地の市街地。
ゴミ収集車で街を回ることを生業としてる女の子が主人公となる。
一見、1部と何の繋がりもなさそうなエピソードが、話が進むにつれて徐々にリンクしていき、果ては一本筋の通った物語となる。
1部は本格ミステリらしくフーダニット、ハウダニットに主軸が置かれていたが、2部ではホワイダニットが明かされる。
こうして顕になった事件の全貌は、書く人によっては御涙頂戴の泣き演出を入れてくるかもしれない。
けど、女性作家らしく(今の時代禁句かもしれない)、スパっと、まるでエヴァ旧劇場版のアスカのように、「きもちわるい…」と切り捨ててくれるのが最高に気持ちよかった。
このミス、本ミスどちらでもある程度評価は得られそうな1冊。
これは積んでるデビュー作を崩さなきゃなぁ。