Night Songs コンテスト*Muse*結果発表
真夏の夜の夢
妖精たちの饗宴
あなたのもとへミューズは舞い降りる
夜の帳を光のナイフで切り裂いた。暗闇からこぼれる仄かに青白くまたたくきらめきを人は「彗星」と呼んだ。たしかにミューズは舞い降り、森の中を、海の中を、あるいは人々が寝静まった後の夢の中を乱舞した。
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Night Songs コンテスト
*Muse*
結果発表
あなただけ今晩は、ダイアログ・デザイナーの嶋津亮太です。7月22日の開催を発表したNight Songs コンテスト*Muse*は9月22日のオンラインライブで幕を閉じました。ルールは一つ。広沢タダシさんの『彗星の尾っぽにつかまって』にインスピレーションを受け、自由に創作する。
たくさんの出会いがありました。たくさんの体験がありました。たくさんの変化がありました。そして、たくさんの物語が生まれました。
全ての作品を三回以上読みました。全ての文章を声に出して読み出した。ぼくの身体の中をミューズたちが駆け抜けていきました。ある日、グランプリの*Muse*賞を審査する広沢タダシさんがご自身で『ハレー彗星を見た僕ら』という作品をエントリーしました。広沢さんは言いました。
「みんなの作品見てたら、オレもつくりたくなった」
その言葉を聴いた時、このコンテストがうまくいったことを確信しました。Muse杯で目指していたものは、クリエイターたちの出会いの「場」をつくることであり、クリエーションとクリエーションの対話です。誰かがつくった作品にインスピレーションを受けて、クリエイティビティが発揮される。応募作品に目を通す中で、作品たちが広沢さんの創造性の背中を押したということです。応募作品は広沢さんの楽曲と対話し、広沢さんはそこから生まれた作品たちと対話した。確かにミューズの姿を目にしました。
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結果発表の日を迎え、急遽、特別に幾人かに賞を贈りたい気持ちになりました。最初に決めていたのは広沢さんが選考する*Muse*賞とぼくが選考するプリマドンナ賞の二つ。「自由に創作してください」と言ったものの、届いた作品は、
小説、エッセイ、詩、短歌、歌詞、書、写真、カクテル、アイシングクッキー、パン、ダンス、太極拳、音楽、絵画、イラスト、マンガ、アニメーション、映像……
「子ども」という作品もありました。これだけ多様性のある作品から一つを選ぶのも心苦しいと思い、「フェアリー賞」という賞をつくりました。優れたテキスト作品は多数ありましたが、今回はMuse杯の多様性への賛美より、文章表現ではないクリエーションを選びました。「フェアリー」は妖精のことを指します。
賞金総額は28,500円。それを分配しようと思うと、数字のキリがよくない。みなさんに楽しませていただいたこともあり、「ええい!」と1,500円をプラスして総額30,000円にしました。
【フェアリー賞】
6 名 〈賞金:各2,000円〉
【プリマドンナ賞】
1名 〈賞金:3,000円〉
【*Muse*賞】
1名 〈賞金:15,000円〉
それでは発表に移りたいと思います。
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【フェアリー賞】
彗星と旅した銀河の果てに、君がいた。
蔦縁 ヨウさん
宇宙が見えた。物語を感じた。躍動する身体、空に浮遊する言葉、岩清水のこんこんとあふれ透き通る感情。そして、映像作品の後に書かれた言葉にも胸を打たれました。
その圧倒的な熱量。迸る感情。滾る情念。溢れるポエジー。身体表現の可能性を感じる作品。指先まで神経が行き届いた繊細な表現が物語を展開させていく。いつの日か実際に広沢さんが歌う中、蔦縁さんに舞っていただきたい。
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everlast
だいすーけさん
『彗星の尾っぽにつかまって』からインスピレーションを受けて、「everlast(エバーラスト)」という名の美しいカクテルが生まれた。グラスという宇宙に、広大なコズミックに散らばり輝くギャラクシー。僕にはミューズが見えた。
カクテルの世界観はポエティックで、音楽とも文学とも親和性が高い。この立体的な絵画は、時間芸術でもある。宇宙を閉じ込めたグラスに彗星が流れる。その中には二人のロマンスが煌々と燃える。カクテルは詩であることをあらためて実感させられた作品。エバーラストを片手にみんなで乾杯したい。
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また 恋のつづきをしよう
ayamoさん
羊毛フェルトと物語での応募作品。愛おしく、キュートな世界。時を超えてあなたを想う。そのぬくもりのあるカタチを大切にしたい。
その愛らしい羊毛フェルトのロバと猫は、リアリティもあり、まるで生命を吹き込まれたかのよう。それが写真であっても、こちらまで鼓動が聴こえてくるようだ。同時に、ayamoさんの綴る言葉の世界にも惹き込まれた。それを口に出して読むだけで、「言葉への信頼」を感じる。
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彷徨い、漂う、すべての生き物へ
lisa.i さん
波のゆらぎ、鳥の羽ばたき、その軌道、風に揺れる葉、それらが奏でる美しい音の数々。それらの目に見えない「詩」たちが、聴こえてくるようだ。詩が宿り、音を奏でる、美しい写真たちよ。
ゆらぎを感じる写真たち。一瞬を切り取ったはずの写真の中に「経過する時間経過」が閉じ込められている。それはポエジーである。美しい青と白、冴えかえる緑には息吹を感じる。もっと、もっと、この人の写真が見たい。
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Tiny Muse
猫野サラさん
大好きな作品。言葉は要らないよね。ここに描かれたことがMuseとの出会いであり、対話だと思うんだ。
この作品を読んだ時、「そう、これがMuse杯なんだ」と思った。まさにぼくが描いていたコンテスト。それが言葉のないマンガで表現されていた。Muse杯で一冊の本を編むならば、冒頭の物語はこれしかないだろう。何度でも、何度でも読みたい。そこには絵しか描かれていないのに、音楽も言葉も聴こえてくるんだよ。
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いつでも僕は、君を想う。
〈「彗星の尾っぽにつかまって」公式MV作品〉
椎名トキ/都基トキヲ さん
すごくすごくよかった。一緒にいる時も、いない時も、ずっと君を想う。君がいるから笑顔だし、毎日を健やかに生きることができている。シーンごとにそれが伝わってくる。愛おしい映像作品。
この映像作品を見た後、すぐにURLを広沢さんに送った。早く見てほしかっった。とても素敵だった。その世界は愛に満ちていて、僕の知らない花の咲く庭だった。広沢さんはその返信で「MVに使わせてほしい」と言った。僕も何のためらいもなく「それがいい」と思った。結果発表の一ヵ月以上前の出来事である。
発表当日、オンラインで広沢さんがそのことを打ち開けた。トキさんは快く承諾してくれた。このコンテストから公式のMVが生まれたこと。それは紛れもないミューズの姿をしていた。
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フェアリー賞は、ダンス、カクテル、フェルト羊毛、写真、マンガ、MVの6作品でした。このコンテストの幅の広さを感じます。みなさまおめでとうございます。そして、すばらしい作品を届けてくださり、ありがとうございました。
それではプリマドンナ賞に移ります。こちらは、作品はもちろんのこと、何より「この人の話を聴きたい」という人を贈る賞です。受賞者にはぼくがインタビューをして記事を書かせていただきます。ぼくの本業ですね。
それでは発表に移ります。
【プリマドンナ賞】
いつか朽ち果てる世界で あなただけは
マリナ油森さん
星たちは奇跡の再会をくり返す。現実とファンタジー、時間と空間を越えて、重なり合う物語のまにまに。タイムラインに放たれた彗星の尾っぽをつかまえにいこう。最果ても半ばを過ぎて、Museが舞い降りる。
圧巻でした。その映像、その音楽、そのシナリオだけでなく、構成もすばらしい。noteの文脈と、オフラインとオンライン、リアルとフィクションを行き来する立体的な作品。この映像を見た後、ぼくたちはハッシュタグをクリックして「あの人」に会いにいった。
それは、単純に「作品を見て、感じる」だけでなく、受け手の行動を促し、さらには不安や期待といった感情を引き出す。「体験」を含めることで、一気に作品の生命力が躍動する。これをつくった人の頭の中を覗きたい。敬意を込めてマリナ油森さんにプリマドンナ賞を贈ります。
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さて、ここでついに*Muse*賞の発表です。
シンガーソングライターの広沢タダシさんが選ぶMuse杯のグランプリ。
【*Muse*賞】
色彩の海に還る
はるさん
折り合いのつかないいくつもの感情。それを言葉で紡ぎ、物語として編んだものを文学と呼ぶ。ここには、それがあった。「時間」が変えてしまうものと、変わらないもの。まほろばで光は永遠のように揺れる。
〈広沢さん〉
『彗星の尾っぽにつかまって』という曲の性質上、普通なら発想はファンタジーになる。宇宙の話だし、それは比喩としていろいろな意味にも受け取れるんだけれど。でも、このはるさんの小説は、リアルでの話であり、その中で主人公の喪失から再生に至る物語。心の機微、成長していく過程、そのようなものが嘘じゃない。これがノンフィクションというわけではなく、心の動きは本物である。それは経験した人にしか書けない世界です。僕にとっては自然と入ってくる作品。「この人は信用できる」と感じました。素敵な作品をありがとうございました。(zoom内のコメントから抜粋)
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以上が、Night Songs コンテスト*Muse*の受賞作品です。
受賞者のみなさま、おめでとうございます。他にもすばらしい作品はたくさんたくさんあります。Muse杯の運営チームは、YouTubeで全作品に感想を添えて配信しておりますのでぜひご覧になってください。
今までに二度、私設賞を開催しましたが、今回はシンガーソングライターの広沢タダシさんの楽曲をテーマにするという新しい試みに挑戦しました。これまでのコンテスト(教養のエチュード賞)とは違うアプローチもたくさんあり、とても楽しい時間でした。
今までは完全に一人で運営していたところを、今回は運営チームを結成したことが新鮮でした。「教養のエチュード賞」では誰に頼まれたわけでもなく、狂ったように一人ひとりTwitterでコメントと共に作品を紹介し、手紙を書くようにnoteに感想を書いてきました。「効率」や「合理的」という言葉とは反対側の岸にいたぼくです。ただ、それが間違いだったわけではなく、その経験があったからこそ、みんながぼくについてきてくれたのだと思っています。
仲間がいると、できることの幅も増えます。夜中に作戦会議をした時間や、共に流れをつくっていったこと、途中で打ち上げをしたこと(もちろんオンラインでね)、支え合い、励まし合い、分かち合い、刺激し合った時間。それらはかけがえのない体験でした。
すーさん、深澤さん、千ちゃん、マリナ油森さん、一緒につくってくださりありがとうございました。
そして、広沢タダシさん。ぼくの本業がバーテンダーだった頃からぼくの書いた文章を読んで「亮太くんは書く人だね」と言って、何でもないぼくにリスペクトを送ってくれていた素敵な人です。当時、心からぼくを「書き手」だと思って接してくれた人はほとんどいなかったと思います。社会的な肩書ではなく、「つくったもの」をピュアに判断してくれる人はこの世界にどれだけいるでしょうか。当然のことながら「ここ」は山の麓に過ぎず、まだまだ書き手として生き方を磨く日々は続きます。ただ、「その視点を常に持ち続ける人間でいたい」と思わせてくれたのは誰でもない広沢さんです。
アーティストとして尊敬し、インタビュー記事を書き、イベントをつくってきました。今回、Night Songs コンテスト*Muse*を一緒につくらせてもらったことがとてもうれしいです。広沢さんならピュアな視点で作品を選んでくれることはわかっていたから。全ての作品に目を通して、真剣に選んでくれることがわかっていたから。ぼくの大好きな『彗星の尾っぽにつかまって』をコンテストに提供してくれたこと。心から感謝いたします。
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そして、参加してくださった全てのみなさま。本当にありがとうございます。ぼくは確かにミューズたちが乱舞する光景を目にしました。ミューズたちが出会い、新たな物語が生まれた瞬間に立ち会いました。
結果発表の夜、zoomの中で最後に広沢さんが『彗星の尾っぽにつかまって』を演奏してくれました。その時、僕は気付きました。「この場所でみんなとこの曲を聴くために、走ってきたんだ」と。期間中、何十回、何百回と聴いてきたこの曲が、新しい響きを奏でました。あれは、参加したものにしか味わえない「響き」です。それは「ミューズである」とも言えるでしょう。
新しく芽吹いた目標は、「noteと広沢タダシとMuseたちの音楽会」を開催することです。コンサートホールをギャラリーのようにしつらえ、そこで音楽会をする。星空が見える場所でもいいよね。Muse杯の応募作品を展示したり、朗読したり、プロジェクターで映像を流したり、カクテルをつくる人もいれば、広沢さんの歌にダンスパフォーマンスをする人もいる。いいよね。
この作品の舞台になった場所でもいい。星空の見えるコンサートホール。みんなでつくる音楽会。海外の人はリモートでトークショーしてもらったりしてね。最高だと思うんだ。だってぼくたちには「Muse杯」という共通の物語があるからね。そして、これはぼくの妄想のお話。一緒に考えてくれる人がいるとうれしいな。
ぼくはね、ただただみんなが笑顔になれる「場」をつくりたいんです。本当にそれだけ。Night Songs コンテスト*Muse*も、オンラインCafeBarDonnaもそう。関わってくれた人が全員笑顔になれることを考えて、これからもいろんなことを形にしていきたいと思います。
それでは、みなさまありがとうございました。全ての作品と作者、そしてあまねくミューズたちへ最大の賛辞を。また会いましょう!
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【あまりに個人的なMuse杯20選】
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【Muse杯まとめマガジン】
運営メンバーの千ちゃんが全作品にコメントを添えて編んでくれたマガジンです。
「ダイアログジャーニー」と題して、全国を巡り、さまざまなクリエイターをインタビューしています。その活動費に使用させていただきます。対話の魅力を発信するコンテンツとして還元いたします。ご支援、ありがとうございます。