吉田塾日記#7【森田哲矢さん(さらば青春の光)】
クリエイティブサロン吉田塾
山梨県富士吉田市、富士山のお膝元でひらかれるクリエイティブサロン吉田塾。毎回、さまざまな業界の第一線で活躍するクリエイターをゲストに迎え、“ここでしか聴けない話”を語ってもらう。れもんらいふ代表、アートディレクターの千原徹也さんが主宰する空間です。第七回のゲストはお笑い芸人の森田哲矢さん(さらば青春の光)。
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クリエイトとビジネス
森田さんは芸人さんでありながら、株式会社ザ・森東の代表取締役社長でもあります。芸能事務所を営みながら、プレイヤーとしてもネタをつくり表現する。千原さんと森田さん、クリエイトとビジネスの両立について対話が繰り広げられました。
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株式会社ザ・森東の給料は三等分。森田さん、相方の東ブクロさん、マネージャーの三人できっちりわける。上記の一言は、千原さんが「たとえば、森田さんひとりががんばったとしても三等分?」と訊いたときに森田さんから返ってきたことば。かっこいいですよね。その後、すぐに「歩合にしようかと考えたことは何度もあるけど、切り替えた途端にブクロがどでかい仕事を持ってくるんじゃないかと思って」と笑いに変えていたところも含めて。
この仕組みを考えたのは森田さん。たとえば、大手の事務所のマネージャーは、担当したタレントが売れようが売れまいが給料には直接影響しない。そうなるとモチベーションは下がります。「マネージャーのモチベーションが最も上がる方法は何か」を考えたとき、自分がとってきた仕事がすべて給料に反映されるこの方法がベストだ、と。東ブクロさんにも納得してもらって、この形に決まったそうです。
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ビジネスの目
ビジネスを成立させるためには、社会や経済の構造を理解しておかなければなりません。どこに人とお金が集まるのか。そこに適切な表現でアクセスする。森田さんからの「経営についてどう考えていますか?」という問いに千原さんは答えました。
「いいデザインとは何か」、「おもしろいネタとは何か」、それを追求しつつも、場の空気、世の中の空気、時代の空気を読みながら、光の当たる場所を探し続ける二人。デザインができること、おもしろいことはあたりまえ。ビジネスは、それを光の差し込む場所で種を育んでいかなければなりません。いくら質の高いモノでも、場所や表現を間違えると芽吹かない。
テレビで稼げる時代ではなくなった。現在、テレビで稼いでいる人たちは、全体のほんの一部。「今は、“稼ぐ”というより“宣伝”の役割が大きいように思います」と森田さんは言いました。テレビに出て顔を覚えてもらう。認知度を高め、別の仕事を得て、そこでお金を稼ぐ。それが今の主流だ、と。
※【さらば青春の光 Official Youtube Channel】は登録者数85万人を超える人気チャンネルだ(22年12月現在)。
模索しながら、自分たちのメディアを育て、“さらば”らしさを発信し続ける。それが、広告収入や企業案件だけでなく、広い意味で“さらば”のプレゼンテーションとして機能しています。
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メディアの変化
時代の移ろいと共に、広告のあり方やメディアの役割も移ろっています。テレビから、ウェブへ。それによって、お金の生まれ方も流れも変化してゆく。二人は、光の当たる場所を模索しながら、その場における“正解”を思索し、クリエイトを続けています。
ウェブ広告では、有名タレントの莫大なギャランティは不要となり、コアなファンしか知らない人でも起用できるようになりました。特定のフレームをつくり、そこへ向けてピンポイントに訴求できることになったということ。「予算をかけずに、アイデアが求められる」と千原さんは言います。
メディアの持つ影響力は、メディアごとに、あるいは世代ごとでも異なるのでしょう。その変化を二人はどう見ているのか。その視点がおもしろい。
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テレビの役割
興味深かったことは、二人のテレビ論。テレビからウェブへの流れが進む中で、テレビとの関わり方についてのお話が印象的でした。テレビに出ると認知度は高まり、信用は増える。でも、「テレビを通すことによって商品が売れない」というジレンマがそこにはある。
それは、千原さんが言っていた「今の高校生がTVCMで見た化粧品に関心を抱かない」という話につながるのかもしれない。茶の間とテレビとの距離感なのか、見ていない人にプロセスを共有できないことが原因なのか。
メディアの移ろいは過渡期で、まだ明確な答えは出ていません。二人の対話は、問題提起の種を散りばめながら、聴いているわたしたちの考えも深めてくれました。
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「場」をつくること、「座」をとりもつこと
森田さんと千原さんの共通点は、「場」と「座」のコーディネートのうまさにある。「場」とは、その場の空気。「座」とは、そこに集まった顔ぶれ。キャスティングされたメンバーそれぞれの魅力を引き出しながら、アンサンブルを奏でてより良い空気をつくり上げてゆく。ユーモアと堅実さを散りばめ、独特のグルーヴを生みながら調和させてゆく(時に予定調和を崩したりして)。モノをつくる上で「いい空気」がいかに重要か、それを熟知した二人の対話。森田さんは、芸人として。千原さんは、アートディレクターとして。
「場」と「座」のデザインがそこにはありました。
講義の内容は、クリエイトとビジネスの二つの観点から光の当たる場所を模索する二人の軌跡にフォーカスされていますが、本質的な価値は二人の通奏低音として息づく「場」と「座」のデザインにあるのではないかと思います。
場をコーディネートする上で、森田さんが意識している点が大きなヒントとなりました。
秘密の共有。人とのこころの距離を近づける方法だ、と。森田さんは冗談のように言いましたが、かなり説得力のあることばでした。
「こんな手の内ばらしてええんかな」と笑いながら森田さんは続けます。
「場」と「座」をデザインする二人。そこには、呼吸するように行われている自然な営みが確かにあります。つぶさに観察しながら、ことばにならない彼らのつくる空気の“声”に耳を傾けてみてください。
※「モノづくり」の観点からの二人の対話は、こちらの記事からご覧ください。読み応えのある内容となっております。
懇親会は、れもんらいふプロデュースの喫茶檸檬。お酒を飲んで料理を楽しみながら、ゲスト講師や千原さんとも一緒にお話できます。
ぜひ、会場まで足を運んでクリエイティブの楽しさを味わってみてください。
さて、次回の講義は一月二十八日。ゲスト講師は株式会社スマイルズ代表取締役社長の遠山正道さんです。
チケットの購入はこちらからどうぞ。会場用とオンライン用、二種類から選べます。
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そして、わたしも制作にかかわっている本塾の主宰、千原徹也さんの著書『これはデザインではない』もチェックよろしくお願いします。