YKKのサポートが神だった件(プロジェクトX風)
みなさん、YKKという会社、ご存知ですよね? 身近なところではファスナーとかでお世話になっている人が多いんじゃないでしょうか。ファスナーの引っ張るところ(引き手)をよく見ると「YKK」の3文字を見かけませんか? 会社としては衣類のファスナー以外にもグループ企業で窓を作っていたり、色々と事業を展開されている会社です。。。。。さて、ここから書くことは実話です(というか、つい一昨日の話です)が、普通に書いてもアレなので、プロジェクトX調で、事実を述べていきたいと思います。ここからは田口トモロヲさんのナレーションを思い浮かべながら是非お読みください。
プロジェクトY 〜ある男を救った無名の男たち〜
ここに、ある一人の男がいる。彼は古屋という。小さなITベンチャー企業を経営する、どこにでもいる普通の男だ。
彼には、セミカジュアルな服装で出かける際に、気になることがあった。
お気に入りのスラックスのファスナーの、引き手の部分がいつの間にか、無くなっていた。すると、引き手のないファスナーは、何回引き上げて閉めても、次第にファスナーが落ちてきて開いてしまうのだった。
彼は、面食らった。
そして彼は、思った。「このまま、1日に何回もファスナーを引き上げる動作が必要なのか」と。
けだるくセミが鳴きかう、ある夏の日のことだった。
その日も彼はそのスラックスを着用して、東京アメリカンクラブに向かった。そこにはドレスコードがあり、そのスラックスが最適だった。
そこでのミーティングは順調だった。しかし、彼の脳裏には、いつもファスナーのことが付きまとった。
何回も何回も、ファスナーを手でずり上げた。その度に、周囲の人の目線が気になった。
「もはや、このスラックスを捨てて、新しいものを探さなければならないのか」と、彼は何度も考えた。
彼は、限界寸前だった。
それは、ミーティングから会社に戻った直後のことだった。彼は行動を起こした。誰もが知る通販サイトを開き、新しいスラックスを探そうとした。
その時、脳裏に閃いた。
「そうだ、引き手の部分だけ、パーツとして購入できるのではないか?」
おもむろに、通販サイトを後にし、引き手のパーツを検索し始めた。そして、目に入った検索結果を見て、目を見張った。
思った通りだった。たくさん、ある。
しかし、彼は呆然とした。
あまりに多くの種類があり、ここから自分のスラックスに適合するものを探すことは、あたかも校庭の砂の中から、同じサイズのダイアモンドを見つけ出せ、と言われてるように等しく感じた。
彼は、絶望した。
その時だった。おすすめの欄に「YKK」という文字が入ったファスナーが目に入った。そして、彼の脳裏に閃光が走った。
古屋は、自分のスラックスのファスナーの裏側にもYKKという文字が入っていたのを記憶していた。YKKにカスタマーサポートセンターがあるのであれば、そこから相談できるのではないか、と。
YKK株式会社のホームページを探し出し、そして、そこにある文章を見て、心が震えた。
「YKKグループの商品に限って補修のサービスを行っております」
彼は思った。これが自分が求めていた最適解であると。
そのページからお問い合わせフォームへの入力は簡単だった。そして待つことにした。
翌朝、お問い合わせに対してYKK株式会社の担当者からのメールが届いていた。その返信日時を見て、彼は愕然とした。
問い合わせた当日だった。
修理を行うに際し、まず写真を送ってほしい、という内容だった。
彼は即座に写真付きのメッセージを返信した。翌日には「送料は自己負担となるが、自社製品であれば、引手を含むファスナーを交換すれば大丈夫だと思う」という趣旨の返信があった。
月曜日、彼はそのスラックスを郵送した。
彼は思った。スラックスの先方への到着は火曜日になるだろう。そこから社内工程のチェック、稟議等を経て修理が完了するのに数日以上はかかるだろう。運悪く、ちょうどお盆休みが控えている。だから、修理がされたスラックスを受け取るのはお盆明けになるだろう、と。
水曜日、彼はいつものように自分の会社に出勤した。そして仕事に没頭しているとき、妻から1件のLINEメッセージの着信があった。何気なしにそれに目をやった。
彼は、目を疑った。
そこには、修理されたスラックスが到着したことが記されていた。
配送と返送を含めて、たった3日間。しかも、送料以外、修理料金や部品の交換代金を求める記述は一切なかった。見も知らぬ、ただ普通の男のために、YKKのサポート担当者は無償で極めて迅速で素晴らしい活躍をしたのだ。
彼は、感動のあまり、心が痺れた。
そして同時に、自分の会社で同じような対応が顧客にできているかに思いを馳せ、自社もこれを見習うべきだ、と真剣に反省した。
水曜日の夜、彼は、YKKのサポート担当に心からのお礼のメッセージを送った。
彼は、純粋に嬉しかった。そして、その喜びを伝えたかった。
翌朝にはサポート担当の方から、無事に到着して嬉しい、との返信があった。
サポート担当の方は、常に自分の名前を明かさなかった。大きな会社であるので、複数の担当者がいるのであろうとは言え、ここまで親切にしてくれた人は、慎ましくも、最後まで名を明かすことはなかった。
人は、時として、見知らぬ人から暖かい言葉や行動を受けることがある。
彼は、決心した。自分もそのように、人に暖かさを与えられる人間になろう、と。
--- プロジェクトY
補足となりますが、普通スラックスを購入すると、当然部品としてファスナーも同時に購入していることになりますが、YKKさんに対して直接にお金を払うことはない訳です。スラックス製造のサプライチェーンを考えると、YKKさんはその一工程を担っているに過ぎないわけで、つまり、YKKさんにとって、自分は直接の顧客ではありません。それにも関わらず、見知らぬ人間からの要請に応じ、無償で破損部品を交換してくれるYKKさんの懐の深さには、感動を覚えます。自分の会社もそのような社会への貢献を常に忘れずに経営していきたいと思います。