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君のおもかげ
君のおもかげをずっと探していたんだよ。家に帰ればまた君がご飯を作って待っていてくれているんじゃないかって。一緒に暮らしていたという事実が戻ってくるんじゃないかって。
一縷の望みが叶えられることはなく、以前君がいた部屋には今は僕1人しかいない。2人では狭い部屋も1人では広すぎるということを1人になってから知った。良い塩梅の部屋がないかと探しているんだけど、君がいたという事実をまだ消せやしないから、今も尚ここを離れられないでいる。
君がいない事実をまだ受け入れられることができていない僕は愚か者なんだろうか。履き慣れたスニーカーで歩いても今はまだ上手に歩けない。前髪がやたら邪魔をしているからだろうか。うまく前が見えないからここから動けないでいるんだよ。
君の下着の場所も、箸の持ち方が変だったことも、へそくりを隠していた場所も全部知っていたんだよ。お風呂は無駄に長いし、掃除も指示がやたらと細かいくせに、「自分のテリトリーは汚くて良いの」って、自分のテリトリーに着ていた服を脱ぎ散らしてばかりいたよね。
わがままばかりの君だったけど、そのわがままが聞けないとなると、少しもの寂しく思ってしまうんだよ。「矛盾してるよね」って自分でも思うんだけど、大切なものが大切だということを、いつもなくなってから気付いてしまうのから僕は本当にバカだね。
君の服でいっぱいだったクローゼットも今はもぬけの殻。ファッションショーと称したただ「可愛い」と言ってもらいたかっただけの会も今思えば悪くなかったんだよな。可愛いと言わないと拗ねる君が僕は好きだった。
お揃いの歯ブラシもお揃いのマグカップもお揃いのものは全て君が捨て去ってしまった。家にある君のものが全てなくなるという事実。君がここにいたという事実を捨て去ることに君はなんの躊躇いもなかったよね。
2人から1人に戻るときに、君はどうして泣いていたんだろう?
僕が君の期待に応えられなかったからだろうか。変わると信じていた人がいつまでも変わらずにいたことに悲しんでいたのだろうか。
外を歩いているときにふと目の前に君が現れてくれやしないだろうかなんて、期待できないことをいつまでも期待している自分がいる。君を失った今、誰にどうやってすがろうかしか考えることができないんだよ。
本当は君がそばにいてくれるのが一番なんだけど、それはもう叶わないから、前を進まなくちゃならないんだよ。
どこにいても、何をしてても、君のことが脳裏にちらつく。僕を捨て去った君のことなんか思い出ごと消し去りたいのに、君のことを思い出してしまうからもう嫌になる。
君は以前言ってたよね。幸せは2人で作っていくものだって。君を失った今、どうやって幸せを作っていけば良いの?
2人で乗った夜のブランコ。君のびしょ濡れの髪を乾かしたドライヤーの音。ふと目が覚めたときに横にいた寝顔の君。
今では全てが過ぎ去りし、君との思い出。
君のおもかげを探して。
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