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P.S.「The moon is beautiful」

仕事終わりに見えた月がとても綺麗だった。秋は夕焼けと月が交わる瞬間が一番綺麗な季節だと思うんだよ。

少し欠けてしまった月。欠け具合を加味しても、満月と呼んでも差し支えない程度のまんまるで綺麗な月。好きな人に「月が綺麗ですね」って簡単に言えてしまうぐらい気概のある男でありたかった。

あまりにも月が綺麗だったから、帰り道の河川敷で1人ぼーっと眺める。後ろを振り返るとオレンジ色した空が、少しずつ暗くなってきて、さっきまでの綺麗な夕焼けが嘘みたいに、なくなってしまった。

誰かと見たかったけど、気軽に誘えるような相手もいない。誘ったところでどうせ断られてしまう。いや、君を誘う勇気すら持ちえていないだけだね。だから君に「月が綺麗だね」って言葉を共有できない。

僕は月よりも君を見たかった。あわよくば美しいお月様を笑顔が素敵な君と一緒に見たかった。でも多分月よりも君の横顔に見惚れてしまうんだろうな。

夕日が沈み、少しずつ月が遠くなる。さっきまでは手を伸ばせば届きそうだった月がだんだん手が届かない位置へ移動してしまう。

手が届きそうで届かない月。遠いようで近くて、近いようで遠い僕たちの関係性とおんなじような感じ。

好きな人が僕に気がないことは知っていた。伝えたら最後、もう会えないとわかっていたから、自分の気持ちを伝えない曖昧な関係でいることをあえて選んだ。

踏み込んではならない領域、僕らの見えない距離。君の1番に僕はなれなかった。

かの夏目漱石は「I love you」を「月が綺麗ですね」と訳したそうだ。その言葉を初めて聞いたときは、「なんて素敵な訳し方なんだろう」ってつい胸の内が熱くなった。

夏目漱石の「I love you」の訳を知ってから、「月が綺麗ですね」という言葉を使うことに躊躇してしまう。軽々しく口にしてしまえば、「言葉の軽い人だな」って思われそうで、なんか嫌だった。

でもきっと君はこれから僕が使う「月が綺麗ですね」に「愛している」が含まれているとは思っていない。自分で勝手に勘違いして、恥ずかしくなって、使えなくなっているだけ。

月が綺麗と言いたいときにもその言葉が使えない。「愛している」を含んでいるその言葉が一向に使えない。

もっと気軽に「月が綺麗だね」って言える人でありたい。そして、好きな人には簡単に「愛している」と自分の気持ちを率直に伝えられる男でありたいよ。

自分の気持ちを伝えたら最後、僕の僕なりの最大限の言葉を。「愛している」が含まれているこの言葉を君に贈るよ。

「今日は月が綺麗ですね」

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サトウリョウタ@毎日更新の人
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