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涙がこぼれそう

滴り落ちる雫。雨音がどんどん激しくなる。流してもらいたい過去の出来事。思い出という確かな事実だけが残り、君は無情にもいなくなってしまった。

雨が降るたびに君と相合傘をしていた頃のことを思い出す。私はいつも天気予報を見ずに会社に行く。外に出るときに雨が降っていなければ傘を持たない主義だった。

だからいつも君は仕事終わりに駅まで傘を持って私のことを迎えにきてくれていた。私の性格をお見通しの君。でも持ってきていた傘はいつも1つだけ。

雨の日に傘を忘れて君と一緒にした相合傘。相合傘をした数だけ君との距離が近くなった気がしたから、その時が世界で1番幸せな時間だった。こんな幸せがいつまでも続けば良いなと君の横顔を見ながらいつも思っていた。

相合傘は濡れている方がどうやら惚れてしまっているらしいね。それが本当に正しいのなら惚れていたのはこっちの方だった。でも終わってしまった恋にはどっちが惚れていたのかなんて何の意味もない。

雨が悲しみを洗い流してくれる。そんな気がしていたから雨が降ればいつも雨に濡れていた。でも悲しみはちっとも薄くならない。薄くなるどころかどんどん美化されていく。

過去の思い出はいつまでたっても原液のままで、いくら時間をかけても薄くならない。良いことばかりが美化され、君の笑った顔や声を未だに鮮明に覚えている。

仕事の帰り道。雨に濡れながら君と過ごしていた日々のことを思い出していた。

約束していた先の未来。結局はなくなってしまったずっと一緒。君の言葉を盲目的に信じていたこっちがまるでバカみたい。

あの日の約束はもう叶わないから、いっそのこと約束自体をなかったことにしてしまうから。君がいたことを過去にして少しずつ前に進んで見せるから。

綺麗さっぱり忘れて、君がいたことすらも忘れるよ。雨が全てを洗い流してくれるなら、2人の思い出も記憶も全部流してほしかった。

轟々と降り注ぐ雨。過去の君の過ちも全部雨に流せる気がした。

傘に付く雨粒の数だけ思い出を作りたかった。繋いだ手を離したくなかった。

勝手にいなくなった君には、愛想を尽かして「ばいばい」って言ってやりたかったのに、その言葉が言えなかったのはなんでだろうね。

降りしきる雨。君に振られるなら雨の日がよかった。

だって涙を雨のせいにできてしまうから。

関係が終わったのは2人に原因があるのに全部自分のせいにしてしまえば楽ってことを知ってるから、全部自分のせいにして馬鹿みたい。

ああ雨がやけに鬱陶しい夜だね。

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