「君」と「僕」という偽りの関係。
胡散臭い文章に胡散臭い音楽。
疑い出せば全てに疑い深くなり、何も信じられなくなった。
君の「愛してる」という言葉はかつては効能を持つ言葉だった。でも月日が経つにつれて徐々にその言葉の効能は失われてしまった。何がきっかけで二人の気持ちが疎遠になったのかはもうわからない。
きっと話し合いをしてしまえば、二人の関係は簡単に終わる。終わった関係に成り下がることがただ怖かった。
僕は土日休みで、君はシフト制の仕事だから休みもバラバラでどこかに出かけるなんてことはここ一年ぐらいはしていない。僕らが社会人になる前は、お互い学生だから休みも合わせられた。バイトの大型連休を取って旅行にも何度か行ったことがある。
社会人になって同棲を始めてから、君と価値観が合わなくなった。お互い働いているから、家事は両方している。最初はどちらかが忙しい時は、家事の負担を多めにして、仕事の負担にならないよう気遣いもできていた。
でもいつの日かその気遣いもできなくなり、散乱する洗濯物や洗い物がを目にすることが多くなった。お互いに気遣いができなくなった理由はきっと価値観の違いが重なった結果なんだろう。
かつては一緒に住んでいた二人も、やがて会話が少なくなり、徐々に会話はなくなっていった。かつては一緒に寝ていたダブルベッドも今は一人で寝ている。
でも今は一緒にいるのに、なぜか同棲している気分じゃない。会話は必要最低限のみ。一緒に住んでいるのに、なぜか遠距離恋愛をしているような気分。
たまにしか会えないという喜びがない心も身体も離れてしまった遠距離恋愛。君から感じていた温もりもやがて温もりを失くし、冷たい視線を浴びることが多くなった。
僕たちはなんで一緒になったんだっけ?ふと付き合い始めた当初のことを思い返してみる。
「クシャっと笑う顔が好きだったよな。僕にだけ特別優しいところも好きだった」
今思い返せば最初に好意を抱いていたのは僕の方だった。でも今は君の好きだったところを好きとは思えなくなってしまっている。
君に惹かれていたあの頃の自分は一体どこに行ってしまったんだろう?
そして、僕に惹かれていた君は一体どこに行ってしまったんだろう?
家の中からありきたりな言葉にありきたりな音楽が流れる。
愛がどうとか知らないからもっと根っこの部分を伝えてくれよ。
「愛してる」とか「ずっと一緒」というありきたりな言葉は僕らには響かない。
「続きがない関係はこれで最後にすることにしよう。」
なんて言ったところで自ら別れを切り出す勇気もない。
また僕たちはかつてのような歩みを取り戻せるのだろうか。
先のことなんて誰にもわからないし、それは今後の僕次第なんだろう。
不安にさせていたのなら、僕が変わるから。きっと変えてみせるから。
「また明日。おやすみなさい」と言って、君は部屋を出た。
寝室のダブルベッドがやけに広いや。