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なんにもない、なんでもある

なんにもないありきたりな日々を、僕は過ごしていました。そして、なんにもない日々に、君と出会いました。2人の出会いは、バイトでした。ただのバイトの関係から、恋人に昇格し、なんにもない日々に君が加わることが決まり、なんでもある日々に変わりました。。そして、なんにもない日々に君という彩りが加わったおかげで、幸せという二文字が追加されたことをふと思い出して、感傷に浸っています。

些細なことで喧嘩した夜、いつも君は泣いていました。僕が悪くないときも、いつも謝るのは僕でした。そして、怒っている理由を尋ねると、いつも「なんにもない」って君は言ったけど、それでなんにもなかったことはありませんでした。君のなんにもないは、いつだってなんでもあるでした。なんにもないとなんでもあるの境界線の見極めができませんでした。そして、僕に愛想をつかした君は、僕のなんでもある日々にいなくなりました。

かつてはなんにもない日々に、君と出会いました。でも、なんでもある日々には、もうすでに君はいません。なんでもあることに気付けなくて、君がいなくなったことを後悔しています。失ったものは、いくら後悔しても元には戻りません。「後悔先に立たず」という言葉を作った人は、本当に言い得て妙な言葉を作ったなと思っています。

勝手に僕の元から去っていった君を思い出したくもないし、忘れたくもない。でも、忘れなきゃ前には進めません。無理に忘れる必要はないけど、きみがいると前に進めなくなってしまう。無理矢理にでも忘れようとしては、忘れられないの繰り返しを生きています。でも、本音を言うと、君とずっと一緒にいたかったから、君との日々を思い出にしたくないのです。君が思い出になるなんて考えたくもないし、君がいなくなるまでは、考えてもみなかったのです。

君を失った後でなんですが、君を傷付けたことを忘れたいのです。お別れの季節に咲かなかった花を、もう1度咲かせたいのです。でも、正直なところ、罪の忘れ方がわからないので、なにがなんだかわかりません。今更君に謝ってもなにも届かないし、言葉は力をなくしたままになるのがオチ。

君を傷付けたことを後悔しながら、新しい恋人に優しさを振る舞えばいいんですか。新しい恋人はきっと僕に「優しいね」っていうけど、それは君を傷付けたことで、痛みを知ったからなんです。新しい恋人に、ごめんなさいって心の中で謝り続ければいいですか?君に備え付けられたトラウマを、いつか卒業できる日は来るのでしょうか?

もしもまた君と会えたならどんな話をしようか。いつも通りくだらない話をたくさんして、くしゃくしゃになるまで笑い合いましょうか。君がいた日々は幸せそのもので、君がいない日々は不幸そのものですよ。この際、君とのすべてをなかったことにして、また1からやり直しましょうか。いや、いっそのこと知らない人のふりをしましょうか。さよならだけが答えなんでしょうか。もう会えない日々に答えはありましょうか。

いくら問いかけても、その問いは空気を切るだけで、返答はなにもないまま。なんにもない日々に君と出会いました。そして、なんでもある日々に君はいなくなりました。なんにもない部屋に、置かれたふたりの歯ブラシ。片方だけが痛み、もう片方は痛みを覚えず、新品のままなのは、いったい何故なんだろうか。

なんにもないからなんでもあるへ。そして、なんでもあるからなんでもないへ。さようなら、愛しき人。どうかお元気で。

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サトウリョウタ@毎日更新の人
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