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【別件】『遺教経』について(1/3)【書道以外】

◎書道とは無関係の記事です◎

現在、仏教のお経『ゆいきょうぎょう』について調べておりまして、せっかくなのでアップいたします。

書道とは全く関係ありませんが、ご興味があればご覧ください。

ちなみに『遺教経』は、お釈迦様の命日とされる2月15日の「涅槃会ねはんえ」の頃に多く読まれるお経です。

※タイトル画像「フリー仏教イラスト素材 ほとけの素材


はじめに

ゆいきょうぎょう』は『はんにゃしんぎょう』のように漢文体を読むのではなく、書き下し文体を読みます。

『般若心経』
観自在菩薩かんじざいぼさつ 行深般若波羅蜜多時ぎょうじんはんにゃはらみったじ…」

『遺教経』
釈迦牟尼仏しゃかむにぶつはじめ法輪ほうりんを転じて…」

そのためお経を読むだけである程度は意味がわかります。
しかし難しい単語や言い回しも出てくるので、このnoteではお経を1文ずつ記し、難しい語句があればその意味を添えました。
お役に立てば幸いです。

経文は書籍 安藤嘉則(2021)『改訂版 遺教経に学ぶ』曹洞宗宗務庁 のp191~201を、
語句の意味はこの本および下記のwebサイト(現代語訳あり)、ネット検索結果などを参考にしました。

『仏垂般涅槃略説教誡経(仏遺教経)』 ① ―仏陀、最期の教え ‖ VIVEKA. For All Buddhist Studies

仏教講座 遺教経 --その1--【曹洞宗 正木山西光寺】

お経の正式名称と全体の流れ

遺教経(ぶつゆいきょうぎょう)の正式名称は、『ぶっはつはんりゃくせつきょうかいきょう)』。

お釈迦様がお亡くなりになる(入滅)前に、教えの要点を弟子達に説いたお経です。

お経の「汝達比丘なんだちびく、」で始まるところはお釈迦様のセリフです(ほぼこれ)。
世尊せそん、」で始まるところは弟子阿㝹楼駄あぬるだのセリフです。
それ以外は状況説明です。

全体の流れは次のようになっています。

  1. 序文

  2. お釈迦様の言葉①(波羅提木叉はらだいもくしゃについて)

  3. お釈迦様の言葉②(八大人覚はちだいにんがくについて)

  4. お釈迦様の言葉③(念押し)

  5. お釈迦様の言葉④(四諦したいについて問い)

  6. 弟子阿㝹楼駄あぬるだの回答

  7. お釈迦様の言葉⑤(最後に)

この流れにそって、お経全文を書いて行きます(3回に分ける予定)。
なお、見出しは私が勝手につけたもので、お経にはありません。

1. 序文

涅槃図
「遺教経について(学校法人駒沢学園)」より
https://www.komajo.ac.jp/uploads/news_gakuen/2019/01/news_gakuen_18017_01.pdf

釈迦牟尼仏しゃかむにぶつはじめ法輪ほうりんを転じて、阿若憍陳如あにゃきょうぢんにょし、最後の説法に須跋陀羅しゅばつだらを度したもう。
  【初に法輪を転じて】最初の説法において
  【阿若憍陳如】【須跋陀羅】人の名前
  【度し】救済し

まさに度すべき所の者は、皆すでに度しおわって、娑羅双樹しゃらそうじゅの間に於て、まさ涅槃ねはんりたまわんとす。

の時中夜ちゅうや寂然じゃくねんとして声無し、もろもろの弟子の為に略して法要を説きたもう。
  【中夜】午前0時頃
    仏教の「六時ろくじ
      ・朝6時~午前10時:晨朝じんじょう
      ・午前10時~午後2時:日中
      ・午後2時~夕方6時:日没にちもつ
      ・夕方6時~夜10時:初夜
      ・夜10時~夜中2時:中夜
      ・夜中2時~朝6時:後夜ごや
  【法要】教えのかなめ

2. お釈迦様の言葉①(波羅提木叉はらだいもくしゃについて)

戒律を大切に

汝達比丘なんだちびく、我が滅後に於て、まさ波羅提木叉はらだいもくしゃを、尊重そんじゅう珍敬ちんぎょうすべし。
  【汝達比丘】比丘(出家した修行者)達よ→弟子達よ
  【波羅提木叉】比丘の戒律システム
  【珍敬】大事にすること

あんみょうに遇い、貧人びんにんの宝をるが如し。

まさに知るべし、此れは即ち是れ汝達なんだち大師だいしなり。
  【大師】偉大なる師

し我れ世にじゅうするとも、此れに異なること無けん。
  【世に住するとも】(入滅せずに)留まるとしても
  【無けん】「無けむ」無かっただろう

浄戒じょうかいたもたん者は、販売貿易ぼんまいむやくし、田宅でんたく安置あんちし、人民奴婢畜生じんみんぬびちくしょう畜養ちくようすることを得ざれ。
  【浄戒を持たん者】出家した修行者
  【販売貿易し】物を売買したり、物々交換したりすること[以下同様に世俗的な活動の例が出てきますが、解説は省略します]
  【得ざれ】得意とするな→行ってはならない

一切の種植しゅじき及びもろもろの財宝、皆まさ遠離おんりすること火坑かきょうさくるが如くすべし。
  【火坑】火の燃えさかる穴

草木そうもく斬伐ざんばつし、たがやし地を掘り、湯薬とうやく合和ごうわし、吉凶きっく占相せんそうし、星宿しょうしゅく仰観ごうかんし、盈虚ようこ推歩すいほし、暦数算計りゃくしゅさんけいすることを得ざれ、皆応ぜざる所なり。
  【応ぜざる所なり】応じてはならない

身を節し時にじきして、清浄しょうじょうにして自活せよ。
  【時に食して】定められた時(日の出から正午まで)に食事をして
  【清浄】戒律に違反しないこと
  【自活】布施によって得たもののみで生活すること

世事に参預さんよし、使命しみょうを通知し、呪術しゅじゅつし、仙薬せんやくし、よしみを貴人きにんに結び、親厚媟慢しんこうせつまんすることを得ざれ、皆に応ぜず。
  【作に応ぜず】応じるべきではない

まさに自ら端心正念たんしんしょうねんにして度を求むべし。
  【端心正念にして】心を正して本気で
  【度を求む】悟りを求める

瑕疵けし包蔵ほうぞうし、異をあらわし衆を惑わすことを得ざれ、四供養しくように於て量を知り足ることを知るべし。
  【四供養】飲食おんじき衣服えぶく臥具がぐ湯薬とうやくの4種の供養

わずか供事くじを得て、蓄積ちくしゃくべからず。
  【蓄積】たくわえること

此れ即ち略して持戒じかいの相を説く。
  【持戒の相を説く】出家した修行者の守るべきことを説明した

戒は是れ正順しょうじゅん解脱げだつもとなり、かるがゆえ波羅提木叉はらだいもくしゃと名づく。
  【正順】正しい順序の

此の戒に依因えいんすれば、諸の禅定ぜんじょう及び滅苦めっく智慧ちえを生ずることを
  【戒に依因すれば】戒律を守って修行すれば
  【禅定】心の安心
  【滅苦の智慧】苦悩から脱する智慧

是の故に比丘びくまさに浄戒をたもって、毀欠きけつせしむることなかるべし。
  【浄戒】清らかな戒律
  【毀欠せしむること】破ったり、そしったりすること

し人く浄戒を持すれば、是れ則ち能く善法ぜんぽうあり。
  【善法】よい教え

若し浄戒無ければ、諸善しょぜん功徳くどく皆生ずることを得ず。

是を以て当に知るべし、戒は第一安穏あんのん功徳くどく所住処しょじゅうしょたることを。
  【所住処】よりどころ


五欲のいましめ

汝達比丘なんだちびくすでく戒にじゅうす。
  【戒に住す】戒律を守っている

まさ五根ごこんを制すべし、放逸にして五欲ごよくらしむること勿れ。
  【五根】5つの感覚器官(げんぜつしん
  【放逸】勝手気まま
  【五欲】五根から得られる刺激(しきしょうこうそく)に執着することで生じる5つの欲望

たとえば牧牛ぼくごの人の杖を執って、之を視せしめて、縦逸じゅういつにして人の苗稼みょうけおかさしめざるが如し。
  【縦逸】勝手気まま
  【苗稼】農作物

若し五根をほしいままにすれば、ただ五欲のまさ涯畔がいはんのうして制すべからざるのみにあらず。
  【涯畔】際限
  【制す可らざるのみにあらず】制御できないだけではない

悪馬あくめくつわづらを以て制せざれば、将当まさに人をひきいて、坑陥きょうかんおとさんとするが如し。
  【坑陥】地面に掘られた穴

劫害ごうがいを被むるが如きんば、一世いっせとどまる。
  【劫害】災難、わざわい
  【被むるが如きんば】「被むるが如きは」被るようなことは

五根の賊は禍殃かおう累世るいせに及ぶ、害たること甚だ重し、慎まずんばあるべからず。
  【禍殃】わざわい
  【累世】何代も
  【慎まずんばあるべからず】「慎まずばあるべからず」慎まずにいてはならない→よくよく慎みなさい

是の故に智者は制してしかしたがわず。
  【制して而も随わず】五根を制して五欲に惑わされることがない

是を持すること賊の如くにして、縦逸じゅういつならしめざれ。
  【縦逸ならしめざれ】勝手気ままな状態にさせるな

仮令たとい之をほしいままにするとも、皆た久しからずして其の摩滅まめつを見ん。
  【摩滅】すりへってなくなること

此の五根はしんを其のしゅと為す。

是の故に汝達なんだちまさに好くしんを制すべし。

しんおそるべきこと毒蛇どくじゃ悪獣あくじゅう怨賊おんぞくよりもはなはだし。

大火たいか越逸おついつなるも、未だたとえとするに足らず。
  【大火の越逸なるも】大火事も手に負えないが

たとえば人あって手に蜜器みつきを執って、動転軽躁どうてんきょうそうして、但だ蜜のみを観て、深坑じんきょうを見ざるが如し。
  【深坑】深い穴

又た狂象おうぞうかぎなく、猿猴えんこうを得て騰躍踔躑とうやくちょうちゃくして、禁制きんぜいすべきことかたきが如し。

まさに急に之をとりひしいて、放逸ほういつならしむること無かるべし。
  【急に】早急に

しんほしいままにすれば、人の善事ぜんじうしのう。
  【人の善事】人としての良識や善行

之を一処いっしょに制すれば、事として弁ぜずということ無し。
  【事として弁ぜず】物事が解決しない

是の故に比丘びくまさに勤めて精進して、汝がしん折伏しゃくぶくすべし。
  【折伏】従わせること


食事のいましめ

汝達比丘なんだちびくもろもろ飲食おんじきを受けては、まさに薬を服するが如くすべし。

きにおいても、あしきに於ても、増減を生ずること勿れ。

わずかに身を支うることをもっ飢渇きかつを除け。

蜂の華を採るに、但だ其のあじわいのみをとって、色香しきこうを損せざるが如し。

比丘びくしかなり。
  【爾なり】同様である

人の供養を受けてわずかに自らのうを除け、多くを求めて其の善心ぜんしんすることをることなかれ。
  【悩】飢渇の苦悩
  【善心】善良な心

たとえば智者ちしゃ牛力ごりきうる所の多少を籌量ちゅうりょうして、ぶんすごしてもって、其の力をつくさしめざるが如し。
  【籌量】量ること
  【竭さしめざる】つきさせないようにする


惰眠のいましめ

汝達比丘なんだちびく、昼は則ち勤心ごんしん善法ぜんぽう修習しゅじゅうして、時をしっせしむることなかれ。
  【勤心】仏道に励む心
  【修習】修行

初夜しょやにも後夜ごやにも亦た廃すること有ること勿れ。
  【初夜】夕方6時~夜10時
  【後夜】夜中2時~朝6時
  【廃する】(修行を)止める、怠る

中夜ちゅうや誦経じゅきょうして以て自ら消息しょうそくせよ。
  【中夜】夜10時~夜中2時
  【誦経】お経を読むこと
  【消息】休息

睡眠の因縁を以て一生むなしく過して所得しょとくなからしむることなかれ。
  【睡眠】惰眠を貪ること、ぼんやりと不活性な状態でいること

まさに無常の火のもろもろの世間を焼くことを念じて、早く自度じどを求むべし。
  【念じて】肝に銘じて
  【自度】自らを解脱させること

睡眠すること勿れ、もろもろの煩悩の賊、常に伺って人を殺すこと、怨家おんけよりもはなはだし。
  【怨家】自分に対して怨みをいだいている者

いずくんぞ睡眠して自ら警寤きょうごせざるけんや。
  【安んぞ~可けんや】どうして~でよいことがあろうか、いや、よくない
  【警寤】用心して目覚める

煩悩の毒蛇どくじゃねむって汝がむねに在り、たとえば黒蚖こくがんの汝がしつあって眠るが如し。
  【黒蚖】黒いマムシ

まさ持戒じかいかぎを以て早く之を屛除びょうじょすべし。
  【屛除】退ける、除く

睡蛇すいじゃ既に出でなばすなわち安眠すべし。

出でざるにしかも眠るは是れ無慙むざんの人なり。
  【無慙】恥知らず

慙恥ざんちの服はもろもろ荘厳しょうごんに於て最も第一なりとす。
  【慙恥】恥じること
  【荘厳】装飾

ざん鉄鉤てっこうの如く、く人の非法ひほうを制す。 
  【慙】恥じること
  【鉄鉤】鉄製のかぎ

是の故に比丘びく常にまさ慙恥ざんちすべし、しばらくもつることをること勿れ。
  【暫くも】少しの間も
  【替つる】捨てる(?)

若し慙恥ざんちを離すれば、則ちもろもろ功徳くどくを失す。

有愧うぎの人は則ち善法ぜんぽうあり。
  【有愧】恥を知る

もし無愧むぎの者はもろもろ禽獣きんじゅうあい異なること無けん。
  【無愧】恥を知らない
  【禽獣】鳥や獣


怒りのいましめ

汝達比丘なんだちびく、若し人ありきたって節節せつせつ支解しげするとも、まさに自らしんおさめて瞋恨しんごんせしむること無かるべし。
  【節節に支解する】バラバラに手足を切り離す
  【瞋恨】怒り恨む

まさに口をまもるべし、悪言あくごんいだすこと勿れ。

恚心いしんほしいままにすれば、則ち自ら道を妨げ、功徳くどくの利を失す。
  【恚心】怒りの心

忍の徳たること持戒苦行じかいくぎょうも及ぶことあたわざる所なり。
  【能わざる】可能でない

く忍を行ずる者は、すなわち名づけて有力うりき大人だいにんと為すべし。
  【有力の大人】修行の出来た立派な菩薩

悪罵おめの毒を歓喜かんぎ忍受にんじゅして、甘露かんろを飲むが如くすることあたわざるものは、入道智慧にゅうどうちえの人となづけず。
  【悪罵】口ぎたない悪口、ひどくののしること

所以ゆえかんとなれば、瞋恚しんいの害は、則ち、もろもろ善法ぜんぽうを破り、こうみょうもんす、今世こんぜ後世ごせの人、見んことをねがわず。
  【瞋恚】怒り
  【好名聞】よい評判
  【今世】現世
  【後世】来世
  【見んことを喜わず】目にすることを嫌う→嫌われる

まさに知るべし、瞋心しんじん猛火みょうかよりもはなはだし。
  【瞋心】怒りの心

常にまさ防護ぼうごして、ることをせしむること勿るべし。
  【入ることを得せしむること勿るべし】入り込ませてはならない

功徳くどくかすむるの賊は瞋恚しんいに過ぎたるは無し。

白衣びゃくえ受欲じゅよく非行道ひぎょうどうの人、法として自ら制すること無きすら、しんなだむべし。
  【白衣受欲非行道の人】在家の人
  【瞋】怒り
  【恕む】制する

出家しゅっけ行道ぎょうどう無欲むよくの人にして、しか瞋恚しんいいだけるははなはだ不可なり。
  【出家行道無欲の人】出家した修行者

たとえば清涼しょうりょうの雲の中に霹靂びゃくりゃくおこすは、所応しょおうあらざるが如し。
  【霹靂火を起す】にわかに雷が鳴り、稲妻が光る
  【所応に非ざる】相応ではない


おごり高ぶりのいましめ

汝達比丘なんだちびくまさに自らこうべづべし。
  【摩づ】なでる

すで飾好しきこうを捨てて、壊色えじきころもちゃくし、応器おうき執持しゅじして、こつを以て自活じかつす、自見じけんかくの如し。
  【飾好】身を飾ること
  【壊色】濁った色
  【応器】鉄鉢
  【乞】托鉢
  【自見】自ら顧みて

憍慢きょうまんおこらば、まさはやこれを滅すべし。
  【憍慢】おごり高ぶり、思い上がった心

憍慢きょうまんを増長するは、世俗せぞく白衣びゃくえよろしき所に非ず。

いかいわんや出家しゅっけ入道にゅうどうの人、解脱げだつの為の故に、自らの身をくだしてしかこつぎょうずるをや。
  【況んや~をや】まして~はなおさらだ


媚びへつらいのいましめ

汝達比丘なんだちびく諂曲てんごくしんどう相違そういす。
  【諂曲】他人にこびへつらうこと

の故によろしくまさしん質直しつじきにすべし、まさに知るべし、諂曲てんごく欺誑ごおうを為すことを。
  【質直】素直な心
  【欺誑】人を欺くこと

入道にゅうどうの人は則ちことわりなし。
  【処】道理(?)

の故に汝達なんだちよろしくまさ端心たんしんにして質直しつじきを以てほんと為すべし。


<今回のまとめと補足>

まとめ

今回記したお経の中から要点を抜き出しました。

戒は是れ正順しょうじゅん解脱げだつもとなり
(戒は正しく導かれた解脱の根本となるものである)

五根ごこんしんを其のしゅと為す
まさに好くしんを制すべし
(5つの感覚器官(げんぜつしん)は心をその主としている)
(よくこの心を制御しなければならない)

人の供養を受けてわずかに自らのうを除け
(他者から供養を受けてただ飢えや喉の乾きを除くにとどめなさい)

睡眠の因縁を以て一生むなしく過して所得しょとくなからしむることなか
(睡眠のために一生を空しく過ごして何の得るところもないというようなことがあってはならない)

功徳くどくかすむるの賊は瞋恚しんいに過ぎたるは無し
(功徳をその人から奪い取ってしまうものは、怒りの心に勝るものはない)

憍慢きょうまんおこらば、まさはやこれを滅すべし
(おごり高ぶりの心が起きたら、速やかにその心を取り除きなさい)

諂曲てんごくしんどう相違そうい
(他者に媚びへつらう心は仏道に相違する)


補足

上記は出家修行者に向けた教えですが、お釈迦様は在家信者にも同様のお話をされたようです。

書籍 アルボムッレ・スマナサーラ(2010)『テーラワーダ仏教「自ら確かめる」ブッダの教え』大法輪閣 では『パッタカンマ経』というお経を例に、在家信者に向けたお釈迦様の教えを紹介しています。

我々一般人が『遺教経』を読むときに知っておくと良さそうな教えを、書籍から抜粋します(【】内は私が加えました)。

■五戒
お釈迦様は在家信者も次の5つの戒を守るべきだと説いています。

○生命を害さない(不殺生ふせっしょう
○他人の物を奪わない、与えられている物以外は盗らない(不偸盗ふちゅうとう
○よこしまな行為をしない(不邪淫ふじゃいん
○嘘をつかない(不妄語ふもうご
○酒を飲まない(不飲酒ふおんじゅ

『テーラワーダ仏教「自ら確かめる」ブッダの教え』

■五がい
お釈迦様は次の5つの心の汚れは人間の成長にふたをしてしまうので、それらを破るべきだと説いています(各解説は著者のアルボムッレ・スマナサーラ氏によるもの)。

1. 異常欲
生きる上では、完全に欲を禁止することなど成り立ちません。お釈迦様がおっしゃるのは、非論理的・非社会的で、異常な欲は止めなさい、ということです。(略)具体性のない欲の妄想はお止めなさい、ということです。理性を失って回転する妄想こそが、あらゆる精神的な病の原因なのですから。

2. 異常な怒り
在家生活では、怒ったり、怒鳴ったりしないと上手くいかないときもあるのです。しかし、心が理由のない怒りのループにはまったら危険です。これも言い方を変えれば、具体性のない怒りの妄想を止めなさい、ということです。

3. 惛沈こんじん・睡眠
惛沈・睡眠とは、心が明るく活発ではないこと。いつでもだるい、眠たい気分で、あまり身体を動かさずにじっとしていたい、外に出たくないと、引きこもりがちになることです。(略)在家信者として必要な社会的義務を果たさなくなって、無気力でいるうちに、本人が社会からも捨てられてしまいます。

4. 掉挙じょうこ・後悔
掉挙というのは、興奮・混乱状態で、決して落ち着かないこと。簡単に言えば、精神不安定、ということです。(略)あるいは掉挙は未来のことを妄想して焦ることで、後悔は過去に引っかかって暗くなること、という解釈でもいいかもしれません。どちらにせよ、「いま」から離れ、「いまするべきこと」を怠っているのです。

5. 疑
なんでも物事を鵜呑みにしないで、調べて確かめるまで、結論・判断を保留にすること。これは正しい「疑」です。(略)一方、悪い疑は、知識、能力、理性の不足によって現れる「無知の疑」です。(略)無知の疑があると、態度がどんどん後ろ向きになって、いつまで経ってもなにもできていない状態になります。

【まとめ(本文から抜粋して箇条書き)】
・欲を理性の範囲にとどめる。
・うっかり怒ってしまっても、瞬時にそれを処理して異常な怒りに発展しないようにする。
・いつでも活発でいること。ふと眠くなってきても何とか眠気をなくして、眠りは夜までお預けにしておく。
・いつでも落ち着いて、前向きに、いまなにをすべきかという思考でいる。
・世の中の出来事は鵜呑みにしないで、理性で分析して、正しいことを認めるようにする。

『テーラワーダ仏教「自ら確かめる」ブッダの教え』


今回は以上です。

(次回へ続く)