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調の話 嬰ト短調/変イ短調

調は長調、短調合わせて24個の調が存在します。
嬰ト短調/変イ短調は調の中でもほとんど用いられていない調であり、平均律においてはこの2つの調は異名同音調(エンハーモニックな調)と呼ばれ、同じものとみなします。あくまで平均律においてはです。他の調律ではそれぞれは違う調とみなします。

バロック、古典派音楽においてはほぼ用いられず、ロマン派になってようやく使用する機会が増えた調です。仄暗く、混沌とした印象を持つ調です。短調でありながら悲しさや激しさと一番遠い調だと個人的には感じています。なにかすっきりしない雰囲気を漂わせているのがこの調だと思います。

この調を使った作品で一番有名なのはリストのラ・カンパネラでしょう。

Liszt La Campanella

ご存じの方もいらっしゃるかもしれませんが、この曲はイタリアのヴァイオリニスト、作曲家のパガニーニヴァイオリン協奏曲第2番第3楽章の編曲になります。パガニーニによる大練習曲という作品集に収められており、現在演奏されるものは改訂版となります。改定前の曲集はパガニーニによる超絶技巧練習曲と題され、こちらの方が難易度が高いと言われています。改訂前は変イ短調で書かれており、内容もヴァイオリン協奏曲第2番第3楽章だけではなく、パガニーニのヴァイオリン協奏曲第1番第3楽章の主題も組み合わされて作られおり、この部分では同音連打が特徴的です。

Liszt La Campanella (1838 Ver.)


同年代のショパンも数は多くありませんが、この調を使っていくつか曲を遺しています。中でも練習曲Op25-6はピアノの技巧をこれでもかと詰め込んだ曲になっており、右手は常に3度の重音で演奏されることになります。練習曲で一番難しいのはこの曲ではないかとされるほど、難易度の高い曲になっています。そして嬰ト短調だからこそ弾けるものになっており、半音上のイ短調であったら演奏困難であったでしょう。

Chopin Etude Op25-6


スクリャービンはこの調を使ってピアノソナタ第2番を作曲しています。スクリャービンは初期はロマン派風の作風で、後期は無調音楽になり作風が前半と後半で大きく変わる作曲家です。ソナタ第2番はまだ初期の作品で明確な調性のもと作曲されています。ピアノソナタで嬰ト短調は本当に珍しいです。全2楽章で構成され、アンダンテによるソナタ形式の第1楽章と、無窮動のプレスト楽章で構成されています。

Scriabin Piano Sonata 2


ラヴェルの夜のガスパールという組曲の最終曲、スカルボにこの調が使われています。

Ravel Scarbo from Gaspard de la nuit

この曲はルイ・ベルトランという詩人の詩集を題材としており、スカルボはこの詩集に登場する悪魔です。ラヴェルのピアノ曲のなかでも特に難易度が高いものになっており、悪魔が悪戯をしている場面を描写しています。

管弦楽においてはこの調はほぼ使われておらず、レアなケースとしてミャスコフスキー交響曲第17番嬰ト短調で書かれています。

Myaskovsky Symphony 17

やはり管弦楽にはうまく響かない調で、全体的にくぐもったサウンドになっていますね。

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Ryo Sasaki
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