今更ながら『最先端の日本酒ペアリング』を紹介してみる
起爆! 花火があがって見えました。なんだろう、このドキドキする感じ。お酒と料理を口にした瞬間、それはただおいしいだけでなく、全く新しい味覚の体験でした。
千葉麻里絵・宇都宮仁著の『最先端の日本酒ペアリング』の本編はこんな一節から始まっています。昨年の5月に出版された本です。千葉麻里絵さんが独自に積み重ねてきた理論に基づいて日本酒と料理を組み合わせるときに大切なポイントを解説したり、宇都宮仁さんがそれを科学的知見に照らして解説したりしています。
この本が出版されて日本酒と料理のペアリング(文字通りそれらを組み合わせて思いもよらぬ風味を作り出すこと)の世界に激震が走った…のかはわかりませんが、今までにこういう体裁の本がなかったのは事実であると思います。本の出版前後から―いや、実はわたしが知らないだけで、もっとずっと前から?―今日に至るまでに、様々なメディアで多くの方々がペアリングについて言及しています。おそらくこれからもっと色々なところでペアリングは語られていくことでしょう。
今回は今更ながらこの本に書かれていることを紹介したいと思います。一応前置きしておきますが、わたしは酒類業界で働いています。ただ、飲食店ではありません。ということであくまでペアリングに関しては一般人として楽しんでいます。酒に関わるとある一般人からみたペアリング本の内容報告&考察という感じでしょうか。ですので、何か「ペアリングかくあるべし!」というような答えが知りたい方の願望には答えられないと思います。その点にご留意ください。
それでは、始めていきます。
文だけだと寂しいので、合間合間にわたしがGEMに行ったときの写真を挟みます。
(※千葉麻里絵さん、宇都宮仁さんのことを以下では「麻里絵さん」、「宇都宮先生」と表記します。)
1.本の概観
この章では全体をざざっと紹介します。この本は大きく分けて8つのパートでできています。プロローグ、ペアリングレッスン1〜5、誌上ペアリングレッスン、ペアリングのための日本酒講座の8つです。
プロローグでは麻里絵さんと宇都宮先生がそれぞれ本全体を貫くコンセプトを述べています。ペアリングレッスンではまず麻里絵さんがペアリングを考えるとき使っている理論が語られます。次にペアリングの際に重要になる個性豊かな香りについて宇都宮先生が科学的知見を基に解説しています。それらのフレーバーが日本酒の醸造過程でどのように登場してくるかの解説もあります。そのあと料理とお酒をピタリと合わせるためにお燗を調理として捉える考え方の紹介や、鰹と日本酒のペアリングについて麻里絵さんと宇都宮先生が検討する過程などが続きます。最後にペアリングをより発展的に行うために必要な日本酒の知識を宇都宮先生が書いています。盛りだくさんですね。
この記事の冒頭で「今までにこの本のような体裁の本がなかったのは事実」と書きました。なんでそう言えるかは全体を通して散見される科学的な(主に化学的な)アプローチを見てもらえればわかるかと思います。
例えば今までだったら「リンゴのような香り」、「ヨーグルトのような香り」という風に表されていた香りに「カプロン酸エチル」、「ジアセチル」という具体的な物質名を当てはめて諸要素との相性を検討する。単なる印象、主観にすぎなかったフレーバーについて複数人の間で意思疎通できるようになる―もちろん単一、数種類の物質では捉えることができない絶妙なフレーバーもあるので、物質の名前を当てはめてもそれはスタート地点にしか過ぎないわけですが―だけでもペアリングの検討や酒のディティールに関する話がスムーズにいく場面もあるのではないでしょうか。プロで相当研鑽を重ねた方にとっては既に基礎の基礎なのかもしれませんが、これから成長していくプロの卵や一般読者にはそういった点が何より革新的なのではないかと感じます。
2.特筆すべきトピックについて
どこをとっても目新しい話題が多い本なので、全部を紹介したいところです。しかしそれなら本を買ったほうが早いので特筆すべき点を数点簡単に書きたいと思います。
2.1 実際にGEM by motoで使われているレシピが公開されている点(※GEM by motoは麻里絵さんが店主をやっている恵比寿の日本酒酒場です)
ここは結構読む方々が驚くのではないでしょうか。料理の材料からお酒と合わせるためのポイントまで丁寧に解説されています。わたしも当然最初は驚きました。「えっ、公開して大丈夫なの?!」と。長らく疑問だったのですが、最近流行った「グランメゾン東京」というドラマのワンシーンを見て疑問が氷解しました。そのシーンは主人公と仲間が切り盛りするお店のスタッフがライバル店のスタッフにそそのかされて自店のレシピを盗んで渡してしまうというものです。スパイですね。紆余曲折あって、渡してしまったスタッフが盗んだことを告白するとこんなニュアンスのセリフが役名わからないんだけど木村拓哉さんと沢村一樹さんの口から出ました。
「俺たちが本気で考えた料理真似できるわけねえだろ」
「一流のシェフはね。レシピが外に出ることを気にしないんだよ。自分がそれを一番おいしくできる自信があるから」
解釈するに、料理は書かれた文字だけで出来てるわけではないということでしょうか。食材のコンディションの見極めからそれを食べるお客さんのこと、お酒が一緒に出るならそれとの相性のこと(つまり酒のコンディションも!)をも見極めねばならない。その他にも実際調理をするときにいくつも言葉になってないポイントがあるのでしょう。その人が料理に費やしてきた時間、ホールのスタッフとの意思疎通の出来不出来など要素あげればあげるほどきりがないですね。後述しますが、GEMの場合は接客が肝になっているのでそれもレシピを公開しても問題ない一因になっているかと思います。
ということで、ここではレシピを載せたのは自信の表れ、ということで解釈しておきます。(勝手に言いすぎかな)
2.2 ライブ感あふれる誌上ペアリングレッスンが面白い点
本の終盤に麻里絵さんと宇都宮先生が編集者の方を交えて鰹と日本酒の相性を検討するプロセスを載せた箇所があります。ここが実に面白い。どこが面白いか。それはよい意味で整ってないところです。どういうことか。
この手の対談には予定調和が入り込む余地が多分にあり、それが読者に伝わると興ざめになってしまいます。つまり、「カツオと○○がベストなのだ!」というゴールが最初に設定されており、途中の紆余曲折は茶番に過ぎずそれが読者に伝わってしまうようなものですね。しかもそのゴールも革新的な要素がなく過去どこかで見たような組み合わせ…みたいな。その手のものはプロセスがスカスカなので結論にしか価値がない訳です。それ自体がつまらないだけならまだマシですが、本のページ数によっては水増し感が出てしまって二重に興ざめな雰囲気が出ることがあります。
このペアリングレッスンは紆余曲折にこそ価値があります。「これだと悪くないけどドンピシャじゃない」「じゃあこれは?」「いやこっちのほうがもっと」「まさかあのハーブとお酒が好相性とは!」…という丁々発止のやりとりを追体験することで、「ああ、多分普段お店で提供しているペアリングもこんな感じで新しいものを追求してるのかな。」という心持ちになれると思います。現場ではさらにその日のお客さんの状態に合わせて微妙な調整が行われる、と。オーダーメイドですね。途方も無い過程です。
2.3 科学的なアプローチに隠れてもっと大切なことが書いてある点
先程からちょいちょい触れているのですが、この本には科学的アプローチと同じくらい大切なことが載っています。場合によってはそれより大切かもしれません。大切なことというのは、接客です。
本の132〜133ページにはこんなことが書いてあります。
ペアリングでお客様を喜ばせるためには、接客サービスがとても重要です。
料理とお酒の知識を説明するだけではなく、そのお客様が求めているものを先読みして提案してあげる。
(中略)
必要なのは、お客様の「こうしてほしい」という潜在意識に先回りして手を打つことです。
極力お客様から「すみません」と言わせない。一杯目のグラスが空になる前に次のお酒を考えておく。
(中略)
初めてのお客様が好みの日本酒の味をおっしゃる時は、特にしっかりコミュニケーションをとります。辛口が好きという人が、実はフルーティなお酒が好きだったなんてことはよくあるので。
(中略)
お客様の求めている辛口はどんな味か、質問してコミュニケーションをとって、傾向をノートに書き留める。そうやってお客様の飲みたい味を一緒に探してあげることで、信頼が築けるのです。
(中略)
お客様は日本酒の味の表現をそれほど多く持っていません。それでも一生懸命私に伝えよう、お金を払ってでもおいしいものを飲もうとしている人に対して、きちんと向き合い、寄り添う。プロの接客とはそういうところにあると思います。
まあまあの量引用してしまいましたが笑
実際にGEMに行って麻里絵さんと接したことのある人であれば、積み重ねてきた科学的アプローチと同じかそれ以上に接客に驚いたことがあると思います。
わたしも何度も驚かされましたが、ひとつだけエピソードを紹介しておきます。あれは確か初夏くらいだったと思うのですが、その時わたしは揚げ物と日本酒の相性が気になっていてSNSに何度かそれらしいことをアップしていました。で、ある時GEMを訪れました。
特にオーダーはせずにおまかせを頼んだのですが、びっくりしたことにその日はすべて揚げ物と日本酒のペアリングでした。4〜5種類の、それもタイプが違うペアリング。あるものは油を切るような組み合わせ、別のものは油と酒が心地よく一体化するような組み合わせ、そのまた別のものは…。もちろんこんなのは外せば一大事でしょう。けれどもわたしは満足しました。参考にもなりました。あと太りました。
その日は客がわたしだけだった、とかそういうオチもありません。前述のオーダーメイド感がある程度まで高まると、そういったこともあるのでしょう。とにかく驚きました。宇都宮先生の確かな知見が合わさったこの本が出たこともあり、何かと科学的アプローチが特集されることがとかく多いように思います。ですが、お店を訪ねたときにはぜひともそういう点にも着目していただければと思います。
↑この写真の唐揚げはその時食べたものだったかも…?
3.この本を手にとってプロは、あるいは一般の日本酒愛好家はどうしたらいいのだろう
この本が現れて、日本酒を扱う飲食店の方々はどういう風に思っているのだろう。ペアリングやそれに類することをすでに行っているところは、これを参考に更に素晴らしいものを編み出そうとするだろうか。それとも拒否反応が起きたりするだろうか。わたしは飲食店関係者ではないのでわかりません。とかくいい影響であれそうでないものであれ、何らかの動きはあるのでしょうね。
では、一般の日本酒愛好家はどうしたらいいのでしょうか。その疑問に対する答えを出すのは容易ではありません。単純に真似をするのは一時的に楽しいことかもしれませんが、おそらく続かないのではないかと思います。簡単そうに見えても料理は凝ったものが多いし、何より自宅にそんなにたくさんの種類の酒がおいてある人は少ないと思います。
ということを前提において、以下ではイチ日本酒愛好家としてわたしが「こんな風にしてみたら面白いのでは?」とやってみたことを載せておきます。
3.1とりあえず類似性(同一性)に着目してみる
本の中で麻里絵さんが提示している理論は実に多彩です。概観で紹介した「ペアリングレッスン」の2で9つの理論が提示されています。
酒と料理を合わせるための9つの理論のうち、最初の方はまだ理解しやすそうです。「似たもの同士」「対照的なもの同士」「味の濃淡を合わせる」。うん、ギリギリわかりそうです。
しかしその先はどうでしょうか。「味を重ねる」…うん。「余白を埋める」…うん?「陰影をつける」…。「記憶にある香味の再構築」…
はっはっはっ、わかりませんね笑
これが分かる人はこの記事を読む意味ありませんので自分のペアリングを極めてください笑
で、わたしと同じくわからない人のためにちょこっと提案なのですが、まずは類似性、あるいは同一性に着目するところから始めませんか?
ペアリングレッスン2に載っているペアリングの解説文をちょっとよく見てみましょう。
↑こんな感じのやつ
こんな感じでペアリングのためのワンポイントが書かれているのですが、実はペアリングレッスン2の解説文の中だけで「~をイメージする」、「~のような」、「~に似ている」、「~みたいな」などなどの類似性・同一性に着目する言葉が約40個も使われているのです。
ひとまずなによりもそこに着目することがスタートなのではないでしょうか。
「あ、この酒なんかスモーキーな燻したような香りだな。」
↓
「じゃあなんか焼いた感じのやつと合うのかな。」
↓
「焼鳥と合わせてみようか。」
単純ですが、こんなのとかね。で、この「似ている感」をベースにして他の合わせ方も想像できるような気がするんですよ。
「焼き鳥香ばしいなあ。」
↓
「そういえば単体で飲むと柑橘みたいに酸っぱい酒あったな。」
↓
「オイリーな焼き鳥にレモン、みたいな感覚で酒を合わせてみようかな。」
こんな風に。もちろん他にも9つの理論を理解する方法はあるでしょう。とりあえずここでは類似性に着目するというのを推しておきます。これやってると酒とか料理とか関係なく生活が豊かになる気がします。夕焼けの川辺の香りで自転車で走り回ったいつかの夏のことを思い出したりとか。あ、余談です。
3.2自分が無理なくできるように身近な形に落とし込んでみる
で、同一性に着目した後どうするか。自宅にはいい食材があるわけでもないし、変わった調味料、香辛料もないかもしれない。レッツ想像力。できることはいつでも何かあるものです。
わたしがやったのは本に載っている料理をコンビニのお菓子で再現するという方法です。再現なんて大層な言葉で語れるものではないですが。
本で紹介されているペアリングに、甘くて華やかな香りのお酒にじゃがいもを軽く揚げて作ったポテサラを合わせるというものがあります。わたしは油や脂が好きな人間なので、これを手軽にやってみたくなったわけです。
ということで、ポテトチップスとクリームチーズに生ハムを使って再現することにしました。
これらはコンビニにあるものです。あとオリーブオイル。
ポテトチップスにクリームチーズを乗っけて生ハムで包み、それにオリーブオイルをかけました。手持ちの甘く華やかな酒でいざ実食。
…うん、悪くないけれどいまいち要素が混じり合いません。さてどうするか。諦めるか。いや、諦めたらなんとかが終了してしまう。
ということでポテチをじゃがりこに替えてみました。
アスパラベーコンの要領で生ハムを用いてクリームチーズを間に挟んだじゃがりこを束ねる。それにオリーブオイルをかける。はい実食2。
これがなかなかイケるんだな。ふっふ。じゃがりこのホクホク感にクリームチーズやオリーブオイル、酒のオイリーな要素が混じり合ってなかなかです。
思うにポテチは形状が平坦すぎたのではないか。じゃがりこを束ねると立体的になるし、そもそもじゃがりこはポテチより硬いです。立体的で硬いものを咀嚼すると、口の中でよりダイナミックな動きが起きます。それに巻き込まれて諸要素が混じり合う。その結果、上記のような体験ができたのではないかと思います。
こんな風に自分ができる形でトライしてみると結構面白いのではないかと思います。味だけじゃなくてものの形状や硬さもペアリングに関わるんだなーって気がつけましたし。そういう副産物もある。
もしかしたら、やりようによっては完全再現よりも面白いかもしれませんね。ということで、コンビニ食材でペアリングはいかがでしょうか。
4.これからの事について
ここまで本の概観を紹介したり、本にまつわる諸々を書き連ねてきました。長いですよね。ここまで読んでくれた方々ありがとう。もう少しお付き合いください。最後に未来のことを思ってもいいですか。だめと言われても思って語りますが。
この本が出版されて、酒に携わる人はどう感じてどう動くのだろう。酒販店は?異分野の方々、例えばソムリエの方々は?そして、一般の日本酒愛好家は?
そういうものを考えるとき、わたしは暗い未来と未来を想像します。
暗い未来は、例えばペアリングという新規なものとクラシカルな日本酒の価値がぶつかってしまうような未来です。
クラシカルな考え方の一例を出しましょう。「酒は単体でうまいものが素晴らしい」というような考え方があります。多くの日本酒職人たちは常にそれを念頭においていることと思います。それだからこそ技術の研鑽を数え切れないほどの人々が積んできたのでしょう。その歴史は尊重されるべきです。(それはそれでもっと待遇面やなんやらで尊重されるべきだ、と考えているのですが。余談。)
ただ、一見対立するかに見える「単体としての酒」という趣旨の考え方と「ペアリング(酒と料理で完成させる、という考え方)」は実はそんなに対立しないのではないかとも思うのです。
単体としての酒を尊びすぎると、途中で多くの要素がはじき出されてしまうことがあります。どういうことか。単体で完結するためにはなにか大きな美点がなければいけませんが、それ以上に製造上生まれるオフフレーバー(いわゆる欠陥・技術不足だと指摘される風味)があってはいけません。蔵が精魂込めて造った大吟醸酒のコンテストである「全国新酒鑑評会」がオフフレーバーがあると点を引かれてしまう減点方式で審査されていることからもそれは明らかだと思います。
しかし、ここが重要なのですがオフフレーバーはあくまで製造中になにか不手際があったと推測されるため減点されるのであって、味として必ずまずいというわけではないのです。それはあくまで人の好みです。例えばヨーグルトのような香りは明らかに製造上減点な香りなので、審査員はみな減点するでしょう。けれどもそのヨーグルト香が魅力的に感じる状態だったなら、それを飲んだ一般の人は「おいしい!」と思うかもしれない。むしろ欠点・クセがない減点されない酒より好きかもしれない。減点を恐れて(あるいは以上を意識するのなら、トレンドを追いすぎてとか)没個性になってしまっては酒の味の幅が小さくなります。極論ですがそういうこともあるかと思います。この点は本の中で宇都宮先生もおっしゃっています。
香味が“よい”、“悪い”という判断は、個人によっても、文化的背景や時代によっても異なる。同じ商品を大量生産する時代には、オフフレーバーを撲滅し品質の安定化を図るということが造り手の目標だったが、特徴ある商品や、野生酵母や乳酸菌を使った酒造りをしてみようとすると、“オフ”とされていた香味は、飲みてと造り手の関係で“オン”に変わる。
この時代変化は、日本酒ばかりでなくクラフトビールやナチュラルワインの中にも見られ、世界的な傾向となっている。(116ページ)
で、どこが対立しないかって話でしたね。
オフフレーバーがオンに好転する可能性があるとはいえ、出過ぎれば誰も見向きもしないと思います。強烈な香りが多ければ多くの人のNGゾーンに触れる可能性が高まり得るのは容易に想像がつくことでしょう。(ま、それでもそういうものが大好きな人がいる可能性はどこまでもありますが…)
ですから、日本酒を造る人が自分たちの信じる最高のものをなるべく丁寧に造ろうとするのはそもそものベースです。それがなくては成り立たない。だから単体としての酒が素晴らしくあるべきだというのは造り手の間ではこれからも尊ばれていいと思います。
しかし、酒造りは人の手が及ばないところもある。その蔵でその米で、その人たちが造ると素晴らしいんだけど、だけどどうしてもあのオフフレーバーは出てしまう…何をやっても消えないんだ!(これを「蔵グセ」なんて呼ぶこともあります)みたいなところもあるのです。
努力の結晶が単に「あ、オフフレーバーでてるね。ダメ!」で終わってしまったら、あまりに悲しすぎると思うのです。
そこでペアリングが登場する訳です。クセがあっても美点もあるような酒は、提供者の工夫でいくらでも素晴らしいものに変えることができます。
そういうペアリングと出逢えば、その酒のクセは個性として花開きます。というかそういう形でしか認識できないその酒の隠れた美点もあるかもしれません。それはいわば研ぎ澄まされた個性と認知されて、なくてはならないものになるかもしれませんね。納豆好きなひとの中には「匂いがなければ納豆じゃない!」というひともいるでしょう。そんな感じです。故に「単体でうまい酒こそが素晴らしい&ペアリングが素晴らしい」という一見両立し得ない価値観が両立し得ると考えているのです。
この本を読み終わった方ならば、きっとそういうポジティブな可能性に気がつくはずだと信じています。
さて、明るい未来についても語っておきます。簡単に。
これを見た人が「うわこれおもしろっ!」って感じる。自分の手持ちの酒と家の料理で試してみる。うまくいかなくて笑ってしまう。本当にペアリングって素晴らしいのか?!って思う。GEMやその他のペアリングの店に行ってみる。で、
素晴らしい酒と料理で経験できないような素晴らしい体験をする!
で、もっと酒のこととか料理のことを知りたくなる。また自分でトライする。できることが増える。できないことがわかる。それが何の気なしにできてしまうプロに敬意を覚える。プロも一般の方々も一体になって、料理と日本酒を、時には酒単体で楽しめるようになる…。
夢物語かなあ。いや、そんなことはないでしょう。
その可能性は今日飲む酒のグラスの中に浮かんでると思うのですが。いつでもそれを思いっきり美味しく飲んで楽しく享受することから価値が生まれるのだと思います。乾杯します?じゃ、カンパイ。
5.おまけ
これはほんのおまけです。
昨日は新宿のロフトプラスワンで麻里絵さんとお笑い芸人のナイツ・塙さんのトークショーがありました。
内容は酒に偏ることもなくお笑いに偏ることもなく…というかお二人が地上波では流せないぶっちゃけ話をするたびに笑いが溢れるトークショーでした。
塙さんの故郷、佐賀のお酒も用意されていました。この七田というお酒を造っている蔵元さんもいらっしゃったようですね。
とても楽しいお酒でした。
今年はガチ日本酒な感じのイベントだけでなくこういうものも積極的にやっていくのかな。麻里絵さんの今後が気になるところです。
このトークショーと、その後あった小さな二次会についてのお話はまた後日。
長々とお付き合いいただきましてありがとうございました。よかったら本を買って読んでみてくださいね。ではでは。