澪つくし美食部「味鳥(ミナミ・難波)」2023.11.23
(3分ほどでサクッと読めるくいだおれ食コラムです)
外国人観光客を中心にごった返しているミナミの街中。法善寺横丁も味わいこそ今まで通りとはいえ、大人気の観光スポットと化している。
そんな、法善寺さん界隈とは一線を画すのが、そこからほど近くにある「利兵衛横丁」。こういうところに通える大人でありたいと思える、ひっそりとした路地裏だ。
そして、この地で昭和33年から創業しているのが、難波の老舗焼鳥屋「味鳥(みどり)」さんだ。
基本はコース、つまりおまかせだ。そのうえで、追加で食べたい串や一品を頼むことができる。
興味をそそられるのは「松コース」。選りすぐりの串6本に加え、肝、砂ずり、ささみの刺身3種盛り、そして日本酒3飲み比べがついてくる。
酒に行く前にまずは喉を湿らせるために、小さいグラスビールを注文。
酒が飲めない連れはジンジャエールを注文。
手際よく串を焼いているご主人が「あぁ、カルピス売れへんなぁ」と笑いながらつぶやく。
たしかに、飲み物のメニューにある。そして、ガラス冷蔵庫の中には、最も王道の割って飲むタイプのカルピスの原液が。聞くとここのところ全然注文が入らないそうだ。
「おいしんねんけどなぁ、カルピス」ご主人が続けてつぶやく。
子供の頃、割って飲むカルピスの中でもオレンジカルピスとか出てくると、ちょっとリッチな気分になったよね、なんて話をしつつ、「こりゃあ次はカルピス飲むしかないなぁ」と連れと笑いながらうなずく。
カウンター10席だけのこじんまりとしたお店、まして老舗だ。
店によっては常連客だけでできあがっていたり、店主の重厚さに緊張してしまうパターンも決して少なくない。だからこんな風に自然と会話があると、食べる時間が一気に柔らかくなって嬉しい。
つきだし2品をつつきながらビールを飲むと、刺身3種盛りが登場。
いずれの部位も新鮮で歯ごたえ、味わい共にたまらない。
さぁ、酒に切り替えよう。日本酒飲み比べは、普通酒から2種、高級酒から1種をチョイスするスタイルで選ぶ楽しみがある。
今回は、久々の「呉春」、高知の名酒「美丈夫」に、お初にお目にかかる秋田の酒「ど辛」の3種にしてみた。
目の前では、ほかのお客さんの串が絶え間なく焼かれ続けている。炭火の焼き場面は本当に眺めているだけで楽しい。炎と煙による躍動感がたまらない。
ここからは、串堪能時間だ。
「若どり(せせり)」、「親どり」「剣状(やげん)軟骨」、「しゃもネギ」、「味鳥巻」、「アスパラ巻」、「陣笠」といった構成だったが、特に印象的だったのは、「やげん軟骨」、「しゃもネギ」、「味鳥巻」、「アスパラ巻」だ。
「剣状軟骨」は肉としての旨味と軟骨の歯ごたえのバランスが絶妙で追加でもう一本注文したほど。
そして「しゃもネギ」は、王道のねぎまの中でも、高級鶏である軍鶏とぷっくらとしたネギを使用することで、その美味さが高次元だ。
ごぼうに肉を巻いた「味鳥巻」と「アスパラ巻」は美味いのはさることながら、ベーコンや豚肉の薄切りのように、鶏肉を本当に野菜に巻いているというから驚きだ。「鶏肉を巻く?!って思うでしょう?ほんまに巻いてるんですよ」そう得意げに話してくれるご主人の表情がまたいい。
素材の良さ、塩やたれの旨味、そして紀州備長炭で丁寧に焼き上げられた炎と煙の力。
上質で美味い焼き鳥屋を求めて、いろいろな店を訪れているが、一つ共通しているのが「塩で食わせる店が多い」ということだ。これは天ぷら屋にも言える。たしかに塩で食う焼き鳥も美味いが、それは部位・食材による。だいたい「タレ=庶民的・大衆的、塩=上質・高級」という風潮が納得いかない。
実際、この味鳥のタレは醤油と酒、そしてこれまでの鶏たちの旨味エキスがぎゅっと詰まっていて、とてつもなく味わい深い。
そして、串と串の合間、残ったタレをキャベツにつけて食べるのがこれまた美味い。
ひとつ一つ、丁寧な仕込みと焼き上げがなされた料理と美味い酒、そして何より、時代を重ねた店の空間と店の人が醸し出す雰囲気が、この「おいしい時間」を生み出していると実感できる。
心地いいタレの味を求めて、これからも足繫く通いたくなる店と出逢った。