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先生は、喉が○○○○○を知らないのかい?【FACTFULNESS】①

剣飲み芸人ーーー



   「わたしはサーカスが大好きだ。」


唸りをあげる電動のこぎりを

 宙に投げるジャグラー。


網の上で宙返りをくり返す綱渡り芸人。


ハラハラドキドキの舞台や、

 不可能が可能になるときの

 ”驚き”や”感動”が、

 好きでたまらない。



   「小さい頃の夢は

    サーカスの団員になることだった。」



しかし、

 まともな教育を受けられなかった

 両親の期待を背負ったわたしは、

 気づけば医学の道に進んでいた。


 


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医学時代のある昼下がりのこと。

 その日の講義は

 喉の機能についてだった。

 退屈だなぁと思って聞いていたら、

 教授がこんな説明を始めた。


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   「喉に何かが詰まったときは、

    あごの骨を前に押し出せばいい。

    通り道がまっすぐになるからね」


教授はそう言って、

 口から剣を飲み込む芸人の

 レントゲン写真を紹介した。



わたしはハッとした。




   ”剣飲み芸人になれば

    夢を叶えられるかもしれない”



数週間前、

 反射について学んでいたとき、

 クラスのみんなでとある実験を行なった。


[吐き気がするまで喉に指を突っ込む]

  というものだったが、

  最も奥まで指を進められたのは

  わたしだった。


そのときは、

 「こんな特技なんて何の役にも立ちやしない」

 と思っていたが、とんでもない。

 役に立つ職業があるじゃないか。


それに気づいた途端、

 せきを切ったように、昔の夢が蘇ってきた。


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   ”決めたぞ。わたしは剣のみ芸人になるんだ”


 


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決心はしたものの、初めは失敗続きだった。

 そもそも剣すら持ち合わせていなかったので、

 代わりに釣竿を使うことにした。


だが、洗面台の鏡の前で何度試しても、

 釣り竿を3センチほど飲み込むのが限界。

 結局、わたしはまたしても

 夢をあきらめてしまった。



その3年後、

 研修医になったわたしは、

 内科病棟で診察していた。


わたしが初めて診た患者のひとりは、

 咳が長引く年配の男性だった。


わたしは診察の際、

 必ず患者の職業を尋ねるようにしている。

 何かの手がかりになるかもしれないからだ。


するとこの男性、

 以前は剣飲み芸人をしていたという。

 しかも驚くべきことに、彼は

 ”あの時教授が見せたレントゲン写真の男性”

 その人だった。


そして、釣り竿を飲もうとして挫折したことを

 彼に話してみると、

 もっと驚く答えが返ってきた。


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   「先生は、

    ”喉が平たい”ことを知らないのかい?

    ”平たいものしか、

    喉の奥に入れられない”
んだよ。

    だから、剣を使うんだ」



その晩、わたしはスープのおたまを見つけ、

 平たい取っ手の部分でさっそく練習を再開した。

 そしてすぐに、

 取っ手を全部飲み込めるようになった。

 だが、喜ぶのはまだ早い。


わたしは”おたまの取っ手飲み芸人”

 なりたいわけじゃないのだから。


次の日、わたしは新聞広告で剣の募集をかけ、

 1809年製のスウェーデン陸軍の

 銃剣を手に入れた。そしてこの剣も、

 見事に飲み込むことができた。



   ”やったぞ!”

   ”わたしも捨てたもんじゃない”

剣もムダにせずにすんだし、

 言うことなしだ!



剣飲みの芸はインドで生まれた。

”一見不可能なことが可能になり得る”ことや、

”常識にとらわれない発想”の大切さを、

古来から人類に教えてくれた。



わたしは国際開発の授業では、

 たまに講義の締めくくりに

 剣飲みの芸を披露することがある。


わたしは演台によじ登り、

 地味なチェックのシャツを脱ぎ捨てる。

 下に着ているのは、

 金のスパンコールで稲妻をかたどった、

 黒のベスト。


教室が静けさに包まれると、

 スネアドラムの音が鳴り響く。

 それに合わせて、

 銃剣をゆっくりと飲み込む。


腕を広げる頃には、教室は大騒ぎだ。


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この本は世界についての本なのに、


   ”なぜサーカスの話をしたのか?”

 

なぜわたしは


   ”講義の最後に、

   けばけばしい服装で芸を披露するのか?”


それは、

 ”一見不可能なことが可能になり得る”ことを、

 ”身をもって証明するため”だ。


続きで出てくる世界についてのクイズの答えが、


   ”想像とはまったく違っていること”


   ”解決不可能に見えた世界の課題が

   すでに解決していること”
を伝えるためだ。


それでも、いままでの思い込みや、

 毎日ニュースで流れていることから

 頭を切り離して、

 世界には可能性があふれていることに

 気づいてもらうのは難しい。



   ”だからわたしは剣を飲む”


”直感がどれほど現実とかけ離れているか”

 を知ってもらうために。


”想像できないことも、ありえないと思うことも、

 実現できてしまう”ことを知ってもらうために。



世界について誤解していたと気づいたときには、

 恥ずかしいと思わないでほしい。

むしろ、

 子供のように純粋な興味を抱いてほしい。

 わたしはいまでも

 サーカスの興奮を忘れていないし、

 自分の間違いに気づくたびに、


   「すごい!そんなことがあるなんて!」

と思うようにしている。



この本は”世界の本当の姿について”の本でもあり、

”あなたについて”の本でもある。


あなたや、わたしが出会うほとんどの人が

 ありのままに世界を見ることが

 できないのはなぜだろう?

 どうすれば世界を正しく見られるのだろう。

 そんな疑問にこの本は答えてくれる。


そして、この本を読み終えたら、

 サーカスを見たあとのように心が軽くなり、

 前向きになり、

 世界に希望が持てるようになるはずだ。


 


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というわけで。



   ”自分の殻に閉じこもるよりも、

    正しくありたいと思う人へ”



   ”世界の見方を変える準備ができた人へ”



   ”感情的な考え方はやめ、

    論理的な考え方を身につけたいと思う人へ”



   ”謙虚で好奇心旺盛な人へ”



   ”驚きを求めている人へ”



ぜひとも、ページをめくってみてほしい。


 


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つづく


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