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憧れの自分という「呪い」

こんにちは、中川リョウ(@ryonotrio)です。
1988年生まれで広告代理店でコピーライター・PRアーキテクトという仕事をしています。「恥をかける人」というテーマで最近書いています。


「あなたは大器晩成型です。不本意かもしれないですが。」


新入社員研修の中で、先輩社員からの僕へのフィードバックにそう書いてあったのを今でも覚えている。

2011年、僕は大きな広告会社に入社した。用紙に書かれたその先輩の手書きの文字までしっかり覚えている。少しでも早くいい仕事をしたいと、大きく膨らんだ理想の自分を目指して入社したばかりの21歳の僕には、そんなコメントは到底理解できなかった。というより受け入れられなかった。

あれからあっという間に10年が経ち、31歳になった。どうやら僕は大器晩成型なのかもしれない。10年の間に、様々な部署を経験した。クライアントの商品の販売促進に近いプロモーションの企画と制作を行う部署、クライアントと日々直接向き合う営業部署、そしてテレビCMからデジタルまでトータルで企画制作を行うクリエーティブの部署。これまでにもった名刺を数えてみると15種類を超えていた。


「憧れの自分」という呪い

僕は伊藤直樹さんに憧れてこの業界に入った。大学生だった当時、伊藤さんはワイデン+ケネディTOKYOでエグゼクティブクリエイティブディレクター(クリエーティブを統括する一番偉い人)をされていて、NikeやGoogleなどのキャンペーンを手がけていた。そんな伊藤さんのいるワイデンに約一年間アルバイトで潜り込んだが、小僧だった僕には何も掴めないまま一年はあっという間に終わった。

誰にでも、こういう憧れる人はいると思う。そして自分自身にも、「こうなりたい」「あんな仕事がしたい」と憧れの自分を描く。この「憧れの自分」というヤツはモチベーションになる反面、なかなか厄介で僕はもはや「呪い」と呼んでいる。これがなかったらもっと人生楽だった気がする。

自分は理想に全然近づいてないのに、同期や後輩はクリエーターとしてどんどん活躍している(ように見える)。Facebookのタイムラインが、年に3回くらい受賞報告で埋まる。そんな中、自分はクリエーティブの部署にもおらず、ただただ議事録を書いている(泣)

僕が入社してからの8年間は、この「憧れの自分」と今の自分とのギャップに苦しむ8年間だった。会議室で一人泣いたことも、親の前で泣いたこともいっぱいあった。


「呪い」との向き合い方

「憧れの自分」と今の自分とのギャップに悩みながらも、いま思い返すと、このときの僕は結局待ちの姿勢だった。頑張っていれば、いつか誰かが見つけてくれると。プライド、そして恥ずかしいという気持ちが、必要な行動から自分を遠ざけていた。でも残念ながら、社会は平等ではない。どうもめんどうなことに、チャンスは勝手に自分からはやってきてくれない。

キャリアの80%は偶然から生まれるらしい。

その偶然を待っていると、いつまでたってもその「いつか」はやって来ない。そんな受け身だった僕の仕事を変えた、2つのきっかけがある。TCC新人賞(東京コピーライターズクラブ)、そしてヤングカンヌだ。



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TCC新人賞
コピーライターの登竜門と言われるTCC新人賞を「求人米あととりむすこ」という仕事でもらったのは2018年。当時僕はコピーライターではなく、営業局員だった。営業の仕事の隙間時間で、企画して1年かけて制作していた仕事だった。土日にもお米の生産地である群馬の桐生まで、両毛線に乗って片道3時間かけて日帰りで何度も通った。

求人米あととりむすこ
後継者のいない農家のお米をブランド化し、購入した人が農家の農業体験に参加できる仕組みをつくった。

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詳細はコチラ
http://www.atotorimusuko.com/

「求人米 あととりむすこ」を評価してもらったのは、狭義のコピーライティングではなく企画とネーミングだった。ここで活きたのは、プロモーションの部署や営業の部署で培った、場所・スケジュール・人手・お金を想定して動かす、プロデュース力だった。自分の意図しないところで身についた筋肉が、意外な場所で活きる瞬間があることを学んだ体験になった。複数の毛色の違う部署と職種を経験してきて、最近ようやく思えるようになったのは、どんな経験も無駄なことはないということ。望んでいなかった職種・仕事内容であっても、そこでの体験はいつか身を助ける。前の職場で当たり前のようにやっていたことが、(もしかしたら、やらされていると思っていたことが)違う職場に行くと実は特別なスキルだったりする。

自分の価値には、自分では意外と気づけないものだ。


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ヤングカンヌ
ヤングカンヌは、U30の若手クリエーティブ人材の育成を目的としたコンペティション。フランスのカンヌで行われ、世界中から各国の代表がペアで参加し、現地で出題された課題に対し定められた時間内に企画書/映像等を提出し競い合う、アイデアの天下一武道会みたいな大会である。ヤングカンヌには日本代表を決める国内予選というものがある。カンヌ本戦では30-50カ国の代表が集まって競い合うのに対し、国内予選には部門にもよるが150-170組が参加する。この国内予選が実は最難関で、僕は過去8年間で合計19部門にチャレンジして負け続けてきた。

でも2017年、営業局員だった僕がPR部門の代表として念願のカンヌ本戦に参加できることになった。30歳までに何も結果が出なければ転職しようと思っていた僕は、転職エージェントにも会い始めていた。転職を意識していたこともあり、29歳になっていたその年のヤングカンヌが最後になるだろうと思った。予選で一度も勝ち上がったこともないから、もうすっかり負け癖がついている。この年は勝つために考えうることをすべてやった。過去日本代表になった人たちを探して、恥を捨てて自分よりも若い競合のクリエイターに連絡をとって会いに行った。過去4年分のカンヌ受賞作をすべてリストアップしたうえで、それぞれを勝手に、戦略・アイデア・企画の法則をパターン分けして書き出した。

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アビリティよりメンタリティ

現状に文句を言っていても、残念ながら何も変わらない。自分を変えてくれるのは、行動以外にない。アイデアはきっと、誰でも思いつく。何か新しいビジネスや企画を見て「俺もおんなじこと考えてた!」って言ったことのある人はきっと沢山いると思う。アイデアは考えているだけでは無価値だ。行動したかどうかが、一番の違いになる。

行動できる人は、恥をかける人だと思う。
恥をかける人は、挑戦できる人だと思う。


自分を信じきれない人ほど参加してほしい

2020年度のヤングカンヌ国内予選のエントリー期間が始まった。規模や知名度は違えど、ヤングカンヌは広告クリエーティブを目指す人のM-1だ。ペアでしのぎを削りながら1位を目指す。勝つのは1組だけ。残りの149組が負けを見る。負けるのがわかってるのに、僕があれだけ毎年ヤングカンヌにチャレンジ出来たのは、自信がなかったからだと思う。だから僕みたいな自分のことを信じてあげたいけど、なかなか信じてあげられない人こそチャレンジしてほしい。現地の様子や、提出した企画、他部門の日本代表たちと本戦で優勝した企画は過去に宣伝会議のWEB媒体アドバタイムズで記事を書いたので参加する人はぜひ参考にしてほしい。

2017年ヤングカンヌ
ヤングカンヌ2017:①PR部門事前準備篇
ヤングカンヌ2017:②PR部門本戦篇
ヤングカンヌ2017:③全部門総集篇

2018年ヤングスパイクス(ヤングカンヌアジア版)
一度負けた二人がゴールドを獲るまで:国内予選編
一度負けた二人がゴールドを獲るまで : 本戦編
2018年 全部門 総集編


【告知】
ヤングカンヌPR部門は2019年1月21日19:00〜 無料の勉強会が日経新聞の東京本社であり、僕もお話しさせてもらいます。

「ヤングライオンズコンペティション2020 PR部門勉強会」
主催:日本経済新聞社 イベント・企画ユニット
協力:日本パブリックリレーションズ協会
■日時:2020年1月21日(火)19:00~20:30(18:30開場)
■会場:日本経済新聞社東京本社(東京都千代田区大手町1-3-7)
以下URLより要事前登録
https://esf.nikkei.co.jp/yl200121/

■登壇者 ※敬称略
【2020年度審査員】
井口 理    電通パブリックリレーションズ 執行役員
本田 哲也   本田事務所 代表取締役 
尾上 玲円奈  井之上パブリックリレーションズ 執行役員
太田 郁子   博報堂ケトル 代表取締役社長/共同CEO

【ゲスト:ヤングライオンズPR部門本選参加経験者】
中川 リョウ  コピーライター/PRアーキテクト
谷脇 太郎   コピーライター

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