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夜を味わう
この季節の夜になると、ぽっと外に出て音楽を聴きながら歩き出します。肌感覚では夜風、視覚では闇、嗅覚では乾いたにおいを味わいます。
歩くペースはとくに考えてなくて、そのときの自分にとっていちばんここちのよいペースです。そしてなるべくだれもいないところを散歩です。
夜は不思議ですね。昼の明るさとはまったく違うわたしがそこにいて、その自分がとても落ち着きます。夜の暗さが昼とはまったく違う彩りを自分に与えてくれるのです。
奇妙なことに昼に聞いても響かない音楽が、自然と私のなかに溶け込みます。私の細胞のひとつひとつに染み渡っていくのです。音楽とはもともと夜のために用意されているのではないかと思います。それとも私が好きな音楽が夜にマッチするのでしょうか。
そしてなによりの醍醐味が夜風です。涼しい夜風と音楽が混ざりあったときに、この世のものとは思えない爽快感を感じます。一種、覚醒に近いのかもしれません。頭がクリアになって、私は覚醒するようです。
キマりましたね。
しかしここからがほんとうの夜、いや、闇なのかもしれません。
覚醒したまま自宅に戻ると妻がおかんむりです。「どこを歩いていたのか」だとか。「連絡をしなさい」だとか。「いないから一緒にドラマが見れなかった」だとか、こどもを叱るようにあれこれ注意を受けます。
さきほどあれほどキザって覚醒していた私のこころも、いつのまにかプシュっと風船がしぼむようにしぼんでいます。
そして「ああ、これも夜なのだ。いや、これこそ夜の続きなのだ」と思いながらしっかりと彼女の声を耳で味わうのです。