失われた時代のイノベーション
以前読んだ本で、失われた20年に日本で一切イノベーションが起こっていなかったと言われるが、そんなことはない。イノベーションはたしかに起こっていたという話があって、その「イノベーション」がいまだに我々の事業に大きく影響をしている。
1990年代末に始まった就職氷河期には、各種メディアが「新卒で正社員になれなければ人生終了」と大騒ぎをした。それを真に受けて、正社員という職に若者が大量に採用された、たとえそれがどんなに待遇が悪かったとしても。
とくに飲食業や学習塾を中心に、純粋な若者を正社員という人参をぶら下げて、雇用の受け皿として、大量採用した。正社員という「身分」が確保されているが、サービス残業が当たり前で、労働時間を時給換算するとアルバイトの最低賃金以下にしかならず、低賃金で若者を使い潰す企業が大量発生した。それが、失われた20年に日本経済でおきた”ブラック企業”という「イノベーション」だ。
当時は右も左も分からない20代の若造で、就職氷河期世代ど真ん中にもかかわらず、まともに就活もしなかったせいで、誰でも入れるといわれていた予備校業界に就職をした。とりあえず、学校を卒業したあとに働ける企業があることを帰省の際に親に話したが、ひどく落胆されたのを覚えている。
せっかく大学を出たのにも関わらず、わけのわからない中小企業に就職することに納得がいかなかったようだ。両親の世代では大学を出ると、学者か官僚になるという幻想があったようだ。
大学生のアルバイトより正社員の給与のほうが低いということを、働き始めて最初の給与を見たときに初めて知ったのだ、働く時間はもちろん正社員のほうが長いのだが。拘束時間は長く、休みは週に1日程度。午前中から校舎を開け、深夜遅くまで受験生のために対応をしているので、仕事が終わるのが25時過ぎになる。そんな仕事を1年半くらい続けていた。