イケてる質問
世の中には良い質問と悪い質問があります。営業をやってたり受けたりすると、めちゃくちゃ良い質問出来たな、とか良い質問されたな、と感じることがあるのではないかと思います。
今回はその質問の違いを言語化してみました。営業として質問力を上げたい方やマネージメントされている方、などにおすすめします。
SPIN
質問と言えばSPINという切り口
BANTやMEDDICなどのフレームワークもありますが、商談のヒアリングとして色褪せない有名なのがSPINです。提案ではなく質問をして売り切る、というモデルです。
SPINに関しては多くの方々が既に書かれているので私は詳述しませんが、今回はSPINでよくある問題と、SとPがよく使われる中での更に深ぼった構造化を行ってみました。
https://note.com/kentaro_higuchi/n/n448ce101f0bb
一例ですが、SPINを使った基本の商談は下記のように進みます。
プロダクト売りする営業にヒアリングさせるとS(状況質問)とP(問題質問)が増えすぎる問題がよく言われます。特に悪役とされるのがSで、「御社の組織は何名ですか?」など、答え手が全く得をしない内容になるので尋問の原因とされます。
ところが、私も商談に同席して話をしていると、実際にはとても相手に響くSの質問もあることに気づき、「アレ、Sも意外と悪くないじゃん」となった瞬間がありました。SやPの中でもレベルが高いものがあるのです。
ではレベルが高いSとPはどこがどう違うのかを構造化してみたいと思います。
イケてる質問とは
SやPの中でもずばり、最もイケている質問は「インサイトに富んでいて、視座が受け手と一致している」質問です。なんのこっちゃという感じだと思うので説明させてください。
この4象限では「視座」をX軸に置き、Y軸に「インサイト」を置いて整理しました。具体例とともに一個ずつご説明させていただきます。
まず、視座とはなんなのか?
一般的に目線が高いことを視座が高いと言いますが、それ以外にも相手のことをよく理解して、相手の立場に立っているか、を表す際に使います。例えば相対している顧客の仕事をよく分かっていることを視座の一致とも表現可能です。
一方で、インサイトとは何でしょうか?最も厄介な英単語の一つだと思っています。
つまり要約すると、大事なことだけど気付いてない、言語化されてないこと。という整理になるかと思います。
インサイトがある質問というのは相手が認識していない大事なことや、大事だと分かっているが言語化できていない事が挙げられます。この質問をすると、相手がいい意味でギョッとする傾向にあります。
一つ一つの象限を見ていきましょう。
①視座が一致しておらず、インサイトがない
この象限の質問は相手のことを全く理解せずに視座があっていない質問群が該当します。インサイトがない、つまり相手にとっては既に知っている内容を話させられたり、全く得にならないので2〜3個続くとイライラする内容になります。状況質問がうまくいっていないケースはこれを疑った方が良いです。
例えば、「今、御社って何人いらっしゃるんですか?」など少し調べればわかることであったり、「競合ってどこですか?何が違うんですか?」などの質問にイライラしたことがある人は少なくないのではないでしょうか。
また、視座が一致していないので聞き手は興味がない内容であったり、役職レイヤーが一致していない内容でも質問クオリティは下がります。イーロンマスクに「御社のコーヒー豆はどこのですか?」とは聞かないはずです。
②視座が一致していないが、インサイトがある質問
視座が一致していないので、言わば受け手に関心がない内容だが、インサイトがある内容(言語化出来てない内容)ということです。例えば、ジェフベソスに「宇宙の行末についてどう思いますか?」と聞くのは視座が一致しているかもしれませんが、一介の新卒社員にそんなこと聞いても意味がないケースがここに該当します。
③視座が一致しているが、インサイトがない
ここの質問は、「あーそれそれ、それなんだよ。自分もめちゃくちゃそこ悩んだことあって、同じこと考えてる人いて嬉しい!」的な質問です。
インサイトがないので、聞かれると言語化できていて答えることが出来る内容になりますが、視座が一致するほど深く考えられているので、共感を呼ぶというケースです。一例として、経営者同士で話すと良い質問が飛び交い合うのはこの③と次の④の応酬になるケースが多いと思います。
昔、職務の中で工場見学に来る方々をアテンドする業務がありましたが、毎回毎回変わる見学者の中でも、見学中に工場長に対してする質問が「AIと工場についてどう考えていますか?」というような浅く視座が一致しない質問をする人がいる一方で、「この全体のプロセスでいうと、ボトルネックになりそうなのはここだと思ったんですが、ここの改善が生産性向上につながるという理解であっていますか?あっているとしたら何か対策されていますか?」というような視座一致度の高い質問を即座に出来る人もいました。
この質問は明らかに③に属する質問で、工場長はもちろん理解しているが、「よく私が日々頭使っているところまで登ってきて質問をしてくれたね!!」という感覚を持ってくれます。この③がとても大事な状況質問を作り出します。
④イケてる質問(視座が高く、受け手の解像度が高い)
ここが最も目指すべき象限です。イケてる質問とは、視座が一致していて、インサイトを提供できる、つまり相手が即座に言語化出来ない大事な質問です。
例えば「⚫︎⚫︎さん、サイト拝見していると従業員数増えてるみたいですが、エンゲージメントの維持など困っていたりしませんか?エンゲージメントが高い人とそうでない人の差って言語化されてます?」などの質問です。
経営者でもエンゲージメントが高い人と低い人がいるのは毎日目の当たりにしているものの、なかなか差分の言語化まで脳のリソースを使えている人は多くはないはずです。きっと聞かれた人は頭の中で「大事なことなので言語化出来ない状態も問題だけど、むしろこの人これ聞いてくるってことはそこを知っているってことだよね?」という独り言を言うと思います。
ですので、この質問をされるとギョッとするはずなのですが、上記が再現できれば、一定の信頼を獲得できるはずです。一方で、質問者側がそれに応えられるだけのドメインナレッジを保有していないといけません。ドメインナレッジは営業の核となるスキルと考えられるので、それはまた別のnoteで記載します。
うまくいかない理由
とはいえ、③と④を繰り出せる営業はそこまで多くありません。ほとんどが①か②になってしまうのが営業のヒアリングの問題の根源とも言えると思います。
シンプルに改善すべきは視座とインサイトの両軸です。それぞれの構成要素をもう少し細かく分解してみましょう。
視座の構成要素
顧客理解
視点の高さ
まず大前提顧客のことを何も調べていなければ①や②の質問になってしまいます。表層的に調べただけだと顧客のことをディープに理解することは出来ないですが、少なくとも何もしていないよりも調べることは大切です。あとは属して長い業界にいるであったり、お客さんに信頼されれば対話を続けることで顧客への理解は深まってきます。
そして、視点の高さですが、経営などの視点が高い経験をしていたり、そういう方々と関わる機会が多いと高さは上がってくと思います。ただし、上がれば上がっただけ良いというものでもなく、普通の経営者に「火星への移住」に関する質問をしても意味がないのと同じで、相手に合わせる能力が求められています。視座が上がれば上がるほど、ストラテジックになり、下げれば下げるほどオペレーショナルな質問になる傾向もあるので、相手の役職に応じた視座の高さのコントロールが大事です。
インサイトの構成要素
ドメインナレッジ
こっちは諸々ありつつも、基本的に質問者側の持つ、話題に対しての専門知識になります。インサイトを与えられると言うことは、質問を練るだけの専門性を持っているということ。これだけのインサイトを与えられるのは自分がやっている分野でとがっていて、言語化が出来ている証拠になります。そこを磨くことでインサイトが与えられる質問をできるようになると考えられます。(もちろんそれだけではないのですが)
具体的な会話例
イメージがつきにくい方のために、具体的な会話例を記載します。具体的には③や④が数回に一回入ってくるような会話ができるとパフォーマンスが高い営業という傾向が高いように思えます。
営業「⚫︎⚫︎さんマーケティングオートメーションツールってなんで導入されたんですか?①」
⚫︎⚫︎「当時、リードは多いのにナーチャリングあんまできてなくて」
営業「そうなんですね、ナーチャリングできましたか?①」
⚫︎⚫︎「実はあまりうまくいっていなくて」
営業「なるほど、あまりうまく行ってる会社ないですよね。ちなみに⚫︎⚫︎さんとしては、マーケティングオートメーションツールを導入したのにうまく行っていない理由のトップ3ってなんだと思いますか?導入してうまく使えている会社の代表としてXXがあると思いますが、XXさんが逆にうまく行っている理由ってどんな点があると思いますか?④」
など。
結論
簡単に書いてますが、実際やってみると③や④の発動はそこまでシンプルではないですが、意識するだけで大分行動が変わりますし、マネージメント上有効だったりします。
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