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車窓
君はいつだって上から目線だ。
その少し高い、車窓から、君は嬉しそうに景色を望む。東京=新潟 間を繋ぐ上越新幹線MaxときE4系には二階建ての車両がある。二階席は景色がよく、東京のビル群、埼玉の公共住宅街、群馬の高大な関東平野を一望できる。対して、一階席はその景色が防音壁に遮られ、ほとんど何も観えない。E4系Maxときは東京=新潟 間、約340kmをわずか2時間弱で結ぶ。時速にして、おおよそ240km/h。かの有名な、悪名高いかどうかは分からないが、第64代内閣総理大臣田中角栄が上越新幹線を開通させたと親から耳にした。僕は生まれてないので、定かではない。
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「私、東京に行くの!」
そう言って君は地元を後にした。親の反対を踏み切り、アルバイトで資金を貯め、上京を決意した。
「東京には、何でもあるんだよ〜私、東京で働いて、お金を稼いで、欲しい服をたくさん買うの。こんなご時世だけど、ココよりは色んなものがある気がする。ココの人間にも飽きちゃった。面白くないんだもの。私、東京で生き抜いてみせるから。キミはどうするの?大学?だっけ?お勉強頑張ってね、応援してる。でも、卒業したらどうするの?ココに戻ってくるの?」
東京行きのMaxときを待つ、駅のホームで君は飄々と喋る。
僕は気づいたら進学校で、勉強を毎日していて、大学に合格していた。親不孝な事に、僕の知能では私立大学にしか受からなかった。それでも両親は大学合格を果たした息子を思ってなのか、東京の大学を許してくれた。実家はある程度、裕福なので奨学金なども借りずに大学に入れてくれた。
ありがたいことに住む場所も用意してくれた。東京で一人暮らしがいよいよ始まる。昨年は流行病のせいで、実家で大学の講義を受けていた。「大学生」とは。実感がなかった。友達も少ないので、キャンパスライフが、どんなものか分からない。でもこれからーー。
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これからどうするつもりなんだろう。聞こうにも聞けない。君は、E4系の2階自由席にて、黒く淀んだ曇天の街を眺めている。私が窓際!と無理矢理取られてしまった。トンネルに入るノイズと共に耳が聞こえづらくなってしまった。トンネルの明かりが高速で過ぎていく。新潟と群馬を繋ぐ大清水トンネルは全長22,221mで、昼間でも夜を錯覚するくらいだ。下りの新幹線からすると、「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。」とでも思うくらいには、景色が圧倒的に違い、達成感みたいなものがあるのだろうか。
窓に反射するマスク姿の自分と君を照らし合わせて、何か違和感を覚えた。
目と目が合って少し気不味くなる。僕は慌てて、スマホに目をやった。「東京都で感染者1000人越え」のテロップが通知音と共に入ってきた。本当にこんなヤバい街で生きて行けるのだろうか。
新幹線はそろそろ終点に着く。せっかちな田舎民の僕たちは早めに降り場へと向かう。まだ上野駅も過ぎていないというのに。
「私、此処でやっていけるかな…何かあったらすぐLINE送るから、なる早で返信しなさいよ!」
ときどき君は上目遣いだ。