人事として「人事戦略」をたてる前にやるべきこと
誰にでもできることを、誰にもできないくらいやる
この言葉は、2021年2月にNHKの番組「プロフェッショナル~仕事の流儀~」で放映されたふとん職人の新貝晃一郎さんの仕事場に書かれた言葉だ。
胸に刺さった。
誰にでもできることを、誰にもできないくらいやる
自分の人事での経験を顧みたとき、正直「うまくいかなった」「成果が出なかった」と思う出来事は、これが徹底できなかったことばかりだったように思う。
新貝さんの掲げるこの言葉は、どの仕事にも共通する普遍的なものだともいえるが、人事の仕事には「特に」あてはまるもので、人事担当であれば肝に銘じるべき大事な言葉だと思っている。
そこで、本Noteでは、私のしくじり体験も踏まえて、人事がなぜこの言葉を大事にすべきか、ということについて、私の考えをまとめたい。
「目を背けてしまった」大事なこと
まず、昨年起きた、私自身のしくじり体験を紹介したい。
昨年末、経営会議で、ある人事領域のテーマで議論する機会があった。(具体的な内容の記載は控えさせていただく)
その人事テーマについて、「現状の課題」と「解消にむけた戦略」をプレゼンテーションした際に、次のようなフィードバックをもらった。
課題はその通り。
解決策も、きっとその通りだろう。
ただ、その解決策を考える前に、もっと大事な、振り返るべきことがあるのではないか。
という内容だった。
振り返るべきこと???
現実に発生している状況を、定量的なファクトも提示して分析した。
その課題を解決するために、今ある体制でできること、今後取り組める打ち手も提示した。
何が足りなかったのか???
そのポイントは次の3つだった。
・辛く険しい行動の数値化に目を背けていたのではないか
・安易な行動に逃げてしまっていたのではないか
・本当にオーナーシップを持てていたのか
。。。
振り返ると、まさにその通りだった。
そして、この失敗から学び、2度と同じことを引き起こしてはいけない。
なかなか苦しいが、今後、いかしていただくために、一つずつ、問いかけ形式にして振り返ってみる。
①辛く険しい行動を数値化し、追いかけているか?
採用、評価、育成、退職など、人事が関わることは多岐に渡っている。しかし、その人事業務の多くに共通することは、すぐに成果としてあらわれることではない、ということだろう。
また、成果が出にくい一方で、地道なアクション(行動)を繰り返し継続して行わなければならないことも多い。
地道なアクションを継続せねばならず、なかなか成果にはあらわれないが、必ずそのアクションが成果に効いてくる=これが人事の仕事の特徴だろう。
もちろん、プロセスの途上のアクションを数値化することはできる。地道な、辛く険しいアクションができているかをチェックし、改善し続けるすることに、目を背けがちになる。
・採用であれば、応募者を増やすアクションは十分にとれているのか
・評価であれば、全社員が目標設定できているか、面談はされているか
・オンボーディングであれば、新入社員の声を拾う仕組みは運用できているか
何も新しいことではない。これまで多くの企業が取り組み、成果も証明されてきたことだ。しかし、その多くのアクションは、細かく、手間のかかること。
しかし、その地道なアクションの継続こそが成果への最短かつ唯一のルートなのだから、私はそれを見える化し、追いかけなければならなかったのだ。
②安易な方向に逃げていないか?
また、成果が上がってこないとき、どうしても、新しい取り組みに手を付けたくなる。
例えば、採用で「今のチャネルだけだと候補者が増えない。最近流行っているあの新しいチャネルは評判がいい。あちらを開拓してみよう」
また、制度でも「なんだかうまく制度が機能していないようだ。少しマイナーチェンジしよう」
そんなことを考えたことがある人事の人たちも多くいるだろう。
しかし、その打ち手に着手するに一度立ち止まってみる。
まず、やるべきアクションが十分にできているのか?
少なくとも、やると決めたアクションはどれくらいできているのか?それは数値化され、モニタリングし、改善できているのか?(=①で述べたこと)
多くの場合、①ができていないことが多い。
できることには限りがある。手数を増やすのではなく、フォーカスして徹底的にやることが、一番効果がある。
新しいことに手を付けると、仕事をしている「気分」になってしまう。そうではなく、まず、今着手していることをやりきること。新しいことに手を付ける前に、やるべきことができていなかったのだ。
③オーナーシップを持てているのか?
私がプレゼンテーションした課題の分析とその戦略は決して間違っていたものではなかったと今でも思う。
しかし、目新しい観点はなかった。「当たり前のことを、きちんとやっていきましょう」という提案になっていた。
その提案の機会に至るまで「うまくいってないな」と思いながら、その状況を見過ごしてしまった私。
その時点で、私はオーナーシップが持ててなかった。
まず、やるべきことは、当たり前のことをきちんとやり抜くこと。それを数値化し、地道に逃げずに数値に向き合うこと。
その上で、すぐには成果が出なくとも、安易に別の方法に「逃げる」のではなく、徹底的に取り組むこと。
オーナーシップを持つということは、自分が全て行動する、ということではなく、その領域の「結果」に責任を持ち、現状の数値に向き合うこと。
人事領域の責任者である「自分が」オーナーシップを持ちきれていなかった。
以上、3点が私が受けたフィードバックの内容である。
改めて、まとめてみると、以下の通り。
この3つがやりきれているのか。
やりきれている上で、まだ成果が出ない、うまくいかなかったときに、初めて戦略は検討されるべきなのだ。
私は、①、②、③を振り返ることから「目を背け」、戦略に「逃げて」しまった。もっとシンプルにできることで、そこに誠実に向き合うことができていなかったのだ。
戦略を練る、戦略を考える前に
以上が、私の昨年のしくじり体験からの学びだ。
「誰にでもできることを、誰にもできないくらいやる」
何か難しいこと、複雑なことにいきなり取り組む必要はないし、その前にやるべきことがある。
ゴールを間違えてはいけない。
人事は、会社を運営していく上で、最も重要な経営資源である人材に関わる仕事だ。いい人材が仲間に入り、その人たちが成果を出し、会社が成長し、世の中に新しい価値が提供できること。
状況を分析し、きれいな戦略を描くこと、ではない。
課題に対して、アクションがなされ、改善し、はじめて成果につながる。
そもそも、その戦略の前にアクションができてない場合、どんなによい戦略があっても、成果はうまれない。
そして、多くの場合、戦略の前に、やるべき当たり前のことがなされていない。私の昨年のしくじり体験こそ、その典型例だった。
まさに、冒頭に提示したふとん職人の新貝さんの言葉、
誰にでもできることを、誰にもできないくらいやる
それができたうえで、はじめて戦略を考えるべき。
戦略を考えることを決して否定するものではない。
しかし、その前にやるべきこと、できることがないか?
複雑で難しいことを考えても、実行されなければ意味がない。
人事はなかなか成果が出ないから、新しいこと、複雑なこと、にどうしても目がいきがちになる。
その新しい戦略を考える前にまず、考えてみたい。
誰にでもできることを、誰にもできないくらいやる ことはできてるか?